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楽しかったバスターミナルショー

とあるバスターミナルで、頻繁に入ってくるバスの行き先をハンドマイクで案内しているおじさんを、なんとなく眺めていた。
もうおじいさんといってもよい歳の、小柄でかわいい雰囲気のおじさんが、バスが入るたび、たぶん「○○番線に○○系統○○行き入ります」と。

たぶんというのは、なにしろまったく聞こえないのだ。
場所が場所なのでエンジン音など騒音がひどいのはもちろんだが、聞こえないいちばんの原因は、おじさんがハンドマイクのスイッチを押さないこと。
威勢よくマイク掲げて口に当ててもすべて地声のままだし、むしろ口の前にデーンと障害物があることで、声はどこかへ霧消。

もしかすると、「腹減ったな、今日はラーメンにするか、いや昨日もラーメンか」とか「北欧の相対的貧困率はなぜ低いのか」と言っていたのかもしれない。

ついにおじさん、自分の口の前の障害物に気づいたのか、そのうちハンドマイク上げても口には当てず、顔からややずらしたところに掲げて案内をするようになり、〈何を言っているのやら状態〉から、〈何をやっているのやら状態〉に。

もっと変化を見届けたかったが残念ながらここで時間切れ、楽しかったバスターミナルショーを心に刻み、バスに乗り込んだ。

(2019/7/25記)

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