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見捨てられた竹はただいたずらに広がり続ける

6月に退職するまで、僕は半年ほど淡路島に通って勤務した。
エネルギーの地産地消を目的に、淡路の企業の応援に入っていたのだ。
地元の非化石資源で電気や熱を生み、それらを淡路内で使うことで、島の中で経済を循環させようという深遠なる取組。

非化石資源の一つとして検討したものに、竹があった。
竹は驚異的な繁殖力を持ち、こまめに手入れしないと竹林は大きく広がって、田畑や住居まで侵食する。
2010年の淡路島内の放置竹林は2,660haにも及んでいたから、現在はさらに広がっていることだろう。
その竹を資源として活用できないかという計画だ。

竹3本で灯油18Lに相当する燃焼カロリーを持っているとされ、燃やして電気や熱に変えるのは一つの活用法だ。
厄介者の竹が有効な燃料になるならいうことはない。
しかもカーボンニュートラル* でいえば、CO2の排出は実質ゼロ。

*カーボンニュートラル 排出量と吸収量が±0になるとする考え方。竹は大気中のCO2を吸収して育つから、燃やしても大気中のCO2は増えない。

しかし、石炭など安価な化石燃料に、竹はコスト面で太刀打ちできない。
また竹は塩素を多く含み、そのまま燃やせば炉を傷めてしまう。
ならばと竹パウダーにして竹に棲みつく乳酸菌の力で発酵させて土壌改良材にしたり、無酸素状態で焼いて竹炭にすることも検討したが、その手間をかけられる人がいない。

まずそもそも竹を伐るのに難渋する。
狭隘な斜面に拡大する竹林が多く、そこまで重機が入っていけない。
よしんば入っていけたとして、空洞の竹を運ぶのはまさに空気を運んでいるに等しくあまりに効率が悪い。
その場でチップに加工してから運ぶのがよいが、そこまでの労力をつぎ込んでも、買い手がない。

竹はなぜこんなにも急に、害として目の敵にされるようになったのか。
その原因は日本人の生活様式の変化にある。

日本人は古来、しなやかな竹材を愛し、ザルやカゴなどさまざまな加工品として利用してきた。
伐採してもすぐまた生長するから資源としてこれ以上有用なものはない。
しかし、今も台所で竹製品を活用している人はどれほどいるだろう。
賢い節約とばかり皆こぞって百均のプラスチック製品を使っていないか。
竹は、思いどおりの形を安価に大量生産できるプラスチックにその座を奪われてしまったのである。
そうして、見捨てられた竹はただいたずらに広がり続ける。

僕は自身の退職でその後を見届けることができなかった。
しかし、検討はまだ緒に就いたばかり。
近い将来、厄介者の竹を宝物に換えたというニュースが島から届くのを心待ちにしている。

(2022/11/25記)

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