先日、浴室の電球が切れた。
2つあるのが立て続けにだ。
浴室につけられた2つの電球はいつも仲よく点いたり消えたり。
天寿の全うも仲よく揃ったものらしい。

さっそく球を交換すべく照明のカバーを外しにかかる。
ん？　固っ！　ビクともしない…
湿気が入らないようしっかりつけられてはいるが、それにしても。

その日はすぐシャワーを浴びたかったから、そのまま入った。
浴室には窓がなく、半透明の扉越しに差す脱衣所の明かりだけが頼り。
気分はまるで洞窟風呂だ。

翌日よく見ると、照明器具はビニールテープで頑丈に固定されている。
前の住人が何かやらかした跡かもしれない。
ヘタに触らずマンションの管理人を呼んだ。

「わぁ、これは前の住人が何かやらかした跡かもしれないですね」
それはさっき思った。
「ヘタに触らず業者呼びましょう」
それもさっき思った。

帰ろうとする管理人に、最近BSが映らないけどなぜ？と訊いてみた。
BSはめったに見ないが、先日たまたま見たいものがあったのだ。

BSが映らなくなったのは、マンションの管理会社が変わった時期と符合する。
客用駐車場が廃止されたり、管理人の常駐時間が1日3時間になったりと、新しい管理会社はかなりケチくささを漂わせているから、もしかしてBSの信号も止められたのではないかと疑ったのだ。

「そうなんです。ケチくさいんですよ」
と語り出した管理人のグチはとどまるところをしらなかった。
「作業着もなくなり自前です。ファクスもなくなり、自費で購入したいと言ったら必要ないと断られた。以前は朝から晩まで週6日を2人交代で回していたが、今は午前中の3時間を週4日1人でやれと。草刈りだけでいいって、そんなわけにいかないですよね」

管理人は目を輝かせてTVの裏に回り、配線をいろいろとチェックする。
照明器具とは明らかに勢いが違い、水を得た魚のよう。
「これね、きっとBS信号が微弱になってるんですよ。分配と分波の違い分かります？　あ、分かるんですね。正しくは分配ではなく増幅しながら分波してやらなくちゃいけない。最近のTVは検波器が入っているから…検波分かります？　あ、分かるんですね。検波器入ってるから分波しなくても大丈夫なものが増えていますが」
は、はぁ…

「（へんいち）さん、分波やら検波やらなんで分かるんですか？　私は管理人になる前は電気系統のエンジニアだったので専門なんですが」
いちおう電気工学科出ているので…

「そうなんですね。こんな話が説明なく伝わるのって気持ちいいなぁ」
管理人は帰っていった。

時計を見ると1時間が経っていた。
貴重な業務時間の1/3も使い、饒舌にグチとエンジニアトークを語って見せた管理人は、あるいは僕がキャリアコンサルタントであることを知っていたのかもしれない。

（2023/7/1記）