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禁断のボタン

ウォッシュレットでボタンを押したら、「ビデ」だったらしい。
女性しか押さない、でも押したらどうなるのだろうと、男性なら誰でも男子の頃から一度は考えたことのある禁断のボタンだ。
そこにいともたやすく、誤ってアクセスする日が来ようとは。

***

ちょっと押してみる?
――いや、やめとこや…
えぇやん、押してみようや。
――アカンて、やめとこ。
ウソや、興味あるやろ?
――ま、まぁ、あるけど…いやいや、やっぱりアカンて。
お願い! 一度だけ、一回だけやから!
――う、うん…でも俺知らんで。
やった! ありがとな。
――俺ホンマに知らんで…でもどんなやったか後で教えてや。

そういう葛藤の儀式を経てから押したかったボタン。
最後の「やった! ありがとな」は誰に何を感謝しているのかもはや不明だけれど。

***

それなのに。
気づかずに、知らずに、押してしまったのだ。
葛藤どころか、禁を犯す罪悪感を持つ瞬間すらなく。

あ…

いつもと違う場所に突然訪れた新感覚に、え!ん?とのぞき込んだら体勢が変わった。
そして次の瞬間、放たれた細い一筋の水は美しい放物線を描き、

ピューッ

顔をめがけ、

ピューッ

目に飛び込んだ。

***

――なぁ、どやった?
すごかったで…
――変な感じした?
あぁ、プールのあとにやるやつみたいやった。
――???

しばらくトイレが怖い。

(2021/3/7記)

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