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いやいや、もうこの歳になると…

ひゃぁっ! ヒーッ!

生粋のこちょばがり(くすぐったがり)だった僕は、散髪屋でどれほど身悶えしたかしれない。
刈り上げはまだなんとか耐えたとしても、襟足のシェービングはもうどうにもたまらない。

小さい頃、兄にどれほどこちょばされ(くすぐられ)ても、平気な顔してやりすごせたのに、大きくなってむしろ過剰に反応するようになるなんて。
ちょっと恥ずかしかった。

がさつな男性店員がやるなら、指も刃もガシガシ当たるからまだいい。
繊細な女性が担当した日には、うっすら撫でるように刃が当たり指が触れ…
変な想像してた? うん、まぁ想像していただろう。
こちらはエネルギーみなぎる高校生だったし。

羽織ったクロスの下で僕は腕をつねり、2次方程式の解の公式を唱えながら耐えた。
何もしなければ触れられるたびビクンと身体が波打ってしまうから。

社会人になって、マッサージ店に行くことが増えた。
全国を出張で渡り歩き、連日朝から晩まで立ち詰めだったため、疲れた筋肉をほぐしてもらわないことには翌日立てない。

ところがやっぱり、だ。
肩はいいが、問題は首と背、腰、尻。
そこに触れられた瞬間、電流が走って身体が跳ねたあと硬直してしまう。
歯を食いしばって耐えたら、涙が流れ出た。
とてもマッサージどころではないが、それでも行かねば翌日が…

「ケガなどで触れてほしくない箇所はありますか?」
施術前、マッサージのお姉さんに確認される。
ケガではないけど背骨回りがちょっと…と正直に申告する。

分かりました、と施術が始まったが、どうするのだろう。
いくら分かってくれたところで、こちょばいものはこちょばい。

施術は足、腕、肩と進み、デンジャラスゾーンには触れない。
あ、まぁそういう作戦なら確かにこちょばくはならない。
でもむしろそここそ疲れているのに。

それにしても、お姉さん上手…気持ちいい…うっとり…
気がついたら、施術は首から背、腰に進んでいた。
え? まったくこちょばくない。

十分にリラックスした状態だと、こちょばいスイッチが入らないのか?
来るぞ来るぞ、もうすぐ来るぞと身構えるから、触れられた瞬間に来た!と反応してしまうのだろう。
お姉さんの妙技にただただ感嘆した。

今でも身悶え、ひどいかって?
それが…
襟足剃りだろうが首マッサージだろうが、まったく何も感じないのだ。

ということは、十分リラックスの日々なんだろうか。
いやいや、もうこの歳になると…はい、カーット!
台風も向かって来たし、ちょうどここらで筆を置く頃合いだ。

(2023/8/15記)

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