書評:「和える」 矢島里佳 / 自分の好きが誰かの好きになる仕事

僕は、電車が得意ではないので、どこに行くのも車を運転しています。
運転のお供は、主にラジオ。音楽を聞いたり、電子書籍をiPhoneの読み上げ機能で聞いたりもするけど、基本はラジオを聞いています。
ラジオは、自分で選んでいないものが聞けるのが良いところです。
自分の興味のないこと、自分の知らない曲、よく知らない場所の交通渋滞。
自分で選ばないからこそ、新しい情報が入ることが好きです。
今回の著書「和える」も、そんなラジオから聞こえてきた声からでした。

矢島里佳さん。
その時の話を完璧に覚えてはいないのですが、
「自分の好きが誰かの好きになる、それが起業になればいい。」
次の瞬間、近くのコンビニに車を停めて、すぐにスマホ検索。著書を見つけるとすぐに購入しました。
自分が普段考えていたことを実践して実際に起業している人がいる。
その人の考えを見てみたい。そう思ったのです。

矢島里佳さんは、日本の伝統文化、産業の魅力に惹かれ、19歳の頃からその情報発信の仕事をはじめ、大学4年の時に「aeru」を設立。
自分の惹かれた伝統文化を子どもたちに伝えるために活動してらっしゃいます。

気持ちの余裕
この著書「和える」では、会社「aeru」を立ち上げる前、高校、大学時代から、OA入学や、その入学指南書の出版など、
いろんなことに物怖じせず参加していく、性格や行動力に加えて、余裕を持って時間を過ごしているのだな。というのが伝わってきます。
外国の友達の結婚式に着物を着てきて。と言われてから、着付けを覚えに行く、行動力に加えて、そこから着物で過ごし始めて、着物を着る日を増やしていく。
伝統産業の取材を受けたいと思い実際に動く行動力、取材で買った急須でお茶を入れはじめて、ティーバッグではなくて、茶葉を蒸してみたり。
行動力の先にある、それを日常に受け入れていく、余裕というものを感じます。
普通であれば、朝から着物の着付けをするには、いくら慣れても洋服を着るより時間がかかります。

自分を信じる
矢嶋さんは、「和える」の立ち上げすぐにデザイナーを探していましたが、中々見つからない中、有名デザイナーの太刀川さんと出会います。話していくうちに、モノの捉え方、考え方が、感性も鏡写しのように似ている太刀川さんがデザイナーやろうか。と言ってくれるところで、矢嶋さんは、「自分も幸せ、相手も幸せ、周りも幸せ」を貫き、今は、太刀川さんに幸せを与えれない。と、断りをいれたのです。
普通であれば、名の立つデザイナーさんが参加してくれることは、願っても叶ってもないことです。
でも、自分の信念を貫き(多分、強い意志を常にもってるわけではなく、それが普通。と思ってるのが凄いところです。)その話に乗らなかったのです。

ワークとライフを和える
近年よく聞く、働き方改革からの、ワークライフバランス。
著書の中には、「働くと言う営みが、お金を得る行為に変わってしまった。」と言う内容があります。
金銭もたしかに大事ですが、それより、自分や誰かのために動き、それが誰かの「ありがとう」であることが、元々の働くの意味だと思います。それが、今の社会では、働くことの代償が、お金になってしまっています。
結果、お金さえ払っていれば、働く。と、お金基準になってしまって、この仕事の代償がこの賃金か。となってしまいます。
まず、やりたいこと、好きなこと、誰かにやってあげたいこと、あげれること、それが仕事という元々の基準が変わってしまっています。
矢嶋さんが伝統工芸に触れてきたからこそ、元々の日本が持つ、その仕事のあり方に強く意味が伝わります。
そして、それが今の社会の困難を突破するひとつの考え方であるように思います。

丁寧
最後に。この著書「和える」は、全編ほんとうに丁寧に書かれています。
普通の起業からすると、全然違うやり方を発信しているにもかかわらず、誰ひとりも否定せず、すべてを受け入れていると思います。
何にも意味や意図があって、それを無下にしてはないらない。そして、それからも吸収できるものがあるように聞こえます。
ラジオで、最初に聞いた「自分の好きが誰かの好きになる、それが起業になればいい。」
それをじっくりやさしく出汁をとった、お吸い物のように、すっ。と心に貼ってくる著書だったと思います。
 

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