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【NEXT-GEN】長野県発 80年代和製フレンチファッションの伝道者

30代以下の「モノ好き」たちのルーツやビジョンに迫る。


長野県上田市を代表する古着屋「ヒノメ」の2階に店を構え、80年代の日本ブランドを中心としたセレクトを行う古着屋「SNOB」代表で、現役大学生の市村修蔵氏(21)。
80年代のシティーガールたちにこよなく愛され、今なおその影響は計り知れない伝説的ファッション誌「Olive」(平凡出版株式会社、現・マガジンハウス)に魅了された2002年生まれのルーツとは。

古着屋「SNOB」代表・市村修蔵氏(21)


- まずは市村さんの経歴を教えてください。

兵庫県の芦屋生まれで、現在は長野県にある信州大学の繊維学部感性工学科に通っています。もともと好きだったファッションについて学びたかったことに加え、信州大学から発表されていたラフ・シモンズ期のディオールに関する論文を読んで、ファッションを学術的に研究できることを知り、入学しました。

入学後、一年生の頃はインクルーシブファッション※について積極的に学びました。身近にダウン症※の人がいたこともあり、インクルーシブファッションがどうすれば世の中に広がっていくかということを、大学の講義や関連イベント等に参加しながら考えた一年間でした。

※インクルーシブファッション:年齢や性別、国籍や体型、障害の有無に関わらず、全ての人を孤立させず、包括することを目指すファッション。
※ダウン症:21番目の染色体が通常よりも1本多いことが原因で、知的障害や身体的障害がみられる染色体異常症の一種。

そんな中で株式会社コワードローブという会社が、「キヤスク」というサービスを展開していることを知ります。このサービスは、障害や病気のある方々が持っている衣服を着やすくお直しするというものです。

それまで自分の中では健常者・障害者含めて、全員が着やすい服を作りたいと思っていましたが、「キヤスク」のサービスを知ったことで、ファッションのあり方を見つめ直すきっかけになりました。ファッションというのは個性を表現するためのものなのに、自分が目指していた「全員が着やすい服を作る」というのは、ファッションの本質から外れているのではないかと思うようになりました。

様々な個性に合わせて既製服を作り変えるという理想的なサービスが既に世の中にあるのであれば、自分がやるべきことは、少なくとも身近にいる障害者の人たちがファッションを楽しめるようにサポートすることだと考えました。ただ、その活動をするためにも、自分自身が生活していくためにもお金が必要です。そこで、大学二年生の頃にバイトで貯金をしつつ、古着屋「SNOB」を開業しました。

- 古着屋を開業することは目的ではなく、あくまで手段だったわけですね。

そうですね。そもそも僕は古着が特別好きなわけではないんです。あくまでファッションが好きなんです。ただ、自分がファッションを楽しむ上で、現行には惹かれる服が少ないと感じているので、古着屋をやっています。

- デザイナーを目指そうとは思わなかったんでしょうか。

今となっては思いません。供給過剰な現代において、新しく服を作る必要はあるのか?という思いがあるからです。ただ、一時期はデザイナーの道を考えていたこともありました。

幼少期の市村氏。
当時は様々な国に行ったため、どこに滞在していた時の写真なのか覚えていないとのこと。
「東南アジアのカルチャーは、デザインの手作業感と文化の重みを感じられるところに魅力を感じます。」

幼少期に、母の仕事の付き添いで東南アジアに行くことが多く、現地のエスニックジュエリーに触れてきた経験や、両親の影響でトラッド畑を歩んできた経験から、その二つを組み合わせたスタイルを生み出せたらと考えていたのですが、サンローランのリヴ・ゴーシュ※で正解を見てしまった気がして。それも古着屋の道へ進むキッカケになりました。

※リヴ・ゴーシュ:1966年、イヴ・サンローランによって創設されたプレタポルテ(高級既製服)ライン。リヴ・ゴーシュはフランス語で「左岸」を意味しており、パリではセーヌ川の左岸エリアを指す。当時、右岸エリアは富裕層が多く、サンローランもオートクチュール(高級仕立て服)の顧客を多く抱えていた。一方、左岸エリアは芸術が盛んで若者文化の中心地だった。サンローランは、幅広い人にファッションを楽しんでほしいという想いから、ブランド初のプレタポルテラインを発表し、左岸エリアに店舗を構えたことが始まり。

市村氏の私物である「MR.ハイファッション」(1983年3月号、文化出版局)に掲載されていたリヴ・ゴーシュの広告。
市村氏曰く、リヴ・ゴーシュのメンズコレクションが紙媒体で残っているのが珍しいとのこと。

ただ、古着屋をやるにしても、買い付けたものを単純に右から左へ流すような仕事にしたくないので、お客さまにしっかり商品の魅力を伝えられるように、生地まで含めて服の勉強をしています。

- 将来に向けたビジョンはありますか。

将来的にはセレクトショップをオープンしたいです。幼少期に両親に連れられて、フレンチトラッドのセレクトショップによく足を運んでいました。その影響からフレンチトラッド、なかでも自分の好きな80年代をテーマにしたセレクトショップをオープンしたいと思っています。

- やはり市村さんのスタイルはご両親からの影響が大きいんですね。

そうですね、ファッションは全て両親から学びました。これまでアメカジを通ってきたこともないですし、モードに挑戦したこともあるんですが、「なんか自分らしくないな」と思い、結局のところ両親が好きだったトラッドに落ち着きました。

特に自分のファッションに大きな影響を与えたのは母です。母が中学・高校の頃に好きだったものが「Olive」でした。その後、「POPEYE」(平凡出版株式会社、現・マガジンハウス)が牽引していたフレンチトラッドに影響されたみたいです。僕自身も、当時この二つの雑誌が提案していたファッションが好きですし、将来的にはこれをコンセプトにしたお店ができればいいなと思っています。

平凡出版株式会社、現・マガジンハウスから発行されていた女性向けファッション雑誌。
1982年創刊、2003年休刊。
フランス映画や北欧雑貨など、リセエンヌ(フランスの女子学生)的なファッションやライフスタイルを提案しており、愛読者たちは「オリーブ少女」と呼ばれていた。

- 市村さんを象徴するものを持ってきていただきましたが、80年代の雑誌が並んでいますね。まずは「Olive」についてお話を伺えればと思います。

「Olive」には、「フランスにそんな女学生がいるわけない」と思うようなファッションがたくさん掲載されています(笑)

フランスの女学生スタイルを日本人が独自に解釈して生み出したもの、つまり和製フレンチファッションが提案されていて、それとともに当時のDCブランドも紹介されています。和製フレンチファッションは、リアルなフレンチファッションではなかったものの、当時の日本人を楽しませ、世間の支持を一定数得ていたようです。これまでなかった新しいスタイルを確立させたという意味で、個人的にはリスペクトしていますし、すごく面白いカルチャーだったと思います。

それと、この雑誌が月2回も発行されていたというのが、今の時代では考えられない熱量だなと思いますね。

市村氏が所有する80年代のPOPEYE

- 次に「POPEYE」について教えてください。

POPEYEもOlive同様、日本の編集が加わったフレンチファッションが提案されています。僕が最初に和製フレンチファッションを学んだのは、POPEYEのFDG(エフデジェ)※特集からでしたね。

※FDG(エフデジェ):フランス語の「Futur Directeur General」の頭文字からなる造語。将来を約束された上流階級という意味合いになる。80年代のPOPEYEが提案していた上品なフレンチカジュアルを指す。

フーディーの中にシャツやスカーフを合わせて、その上からジャケットを羽織り、チェックパンツを履くというスタイルや、スタジャンやバケットハットをコーディネートに使っていたり、正統派のトラッドスタイルでは考えられないようなスタイリングを提案していて、このユルい雰囲気がいいなと思います。

- 最後に「MR.ハイファッション」について教えてください。

こちらは先ほど紹介した「Olive」や「POPEYE」と違って、モード色が強い雑誌です。僕の好きなサンローラン リヴ・ゴーシュやマルセル・ラサンス※のコレクションが紹介されていたりします。リヴ・ゴーシュはレディースが紹介されることが多く、メンズが掲載されているのは珍しいと思います。

また、この雑誌には和製ではない、本物志向なフレンチトラッドが紹介されていて、正統派を学ぶ上で勉強になりました。正統派も和製も、両方を知っておくのが、今後自分がスタイル提案していく上で大事なことだと思っています。

※マルセル・ラサンス:1976年、マルセル・ラサンスによりパリでスタートしたセレクトショップ、また同氏によるフレンチトラッドのブランド。1991年、セレクトショップ「SHIPS」に勤めていた前淵俊介氏(現在・ル グローブ代表取締役、ランデヴー オー グローブ デザイナー)により日本に持ち込まれ、オールデンやモンクレール等、今となっては定番のブランドを日本に広める役割を果たした。

文化出版局から発行されていたファッション誌。
1960年創刊、2010年休刊。
市村氏曰く、このあたりの創刊初期のものはなかなか市場に出回らないとのこと。

- 今後いらっしゃるお客さまに向けて伝えたいことがあればお願いします。

当時の「Olive」や「POPEYE」、デザイナーズブランドについて書かれた洋書まで幅広く店内に置いており、本を見ながら、服も見ていただける店作りにしています。長野県の田舎で学生が好きなものを置いて、気楽に営業しているお店なので気張らずにご来店いただけると嬉しいです!


SNOB

長野県上田市中央3-5-7 古着屋ヒノメ2階
営業時間: 月水木金・14:00~21:00 土日・13:00~21:00 定休日・火
Instagram: @snob_old_clothing_store


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