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セキュリティ・トークン_#4:セキュリティ・トークンの具体的な活用例 - 不動産と債券

2020年5月施行の改正金融商品取引法により、セキュリティ・トークンは「電子記録移転有価証券表示権利等」と規定され、法令に準拠した取扱いができるようになりました。投資家に“新たな投資の選択肢”を提供するという意味でも話題となり、セキュリティ・トークンの発行事例が相次いでいます。この単元では日本国内における発行事例を紹介します。


不動産セキュリティ・トークン

不動産セキュリティ・トークンは、不動産ファンドの投資持分をブロックチェーン上で権利移転できるようにした金融商品であり、一般投資家向けに募集販売を行う場合は金融商品取引法で株式や社債と同じ第一項有価証券に分類されます。単一または少数の不動産へ、証券の形で小口投資が可能になります。

不動産ファンドとは、投資家から調達した資金を不動産へ投資し、その収益を投資家に還元する仕組みのことです。不動産ファンドのアセットマネージャーは、不動産ファンドの総合的な資産管理を行い、投資家のために資産価値の向上に努めます。

これまでの不動産への代表的な投資手法としては、現物不動産の購入や不動産金融商品である不動産投資信託(J-REITなど)への投資が挙げられます。不動産の各投資手法には、下表のような特徴や特性があり、それらに起因して固有のメリット、デメリットおよびリスクがあります。

現物不動産投資では、まとまった資金の準備や不動産の運用管理を投資家自身で行う必要があり、個人投資家にとって比較的敷居が高い投資手法です。また、既存のJ-REITなどの不動産金融商品は専門家が運用管理する多数不動産への投資を小口化したものであり、個人にも比較的取り組みやすい投資手法です。しかし、J-REITのように取引所に上場されている場合は金融市場の影響を受けやすく、個別不動産の運用成果が必ずしも投資の成果に直結するとは限りません。

これら既存の不動産投資に比べて、不動産セキュリティ・トークンはセキュリティ・トークンと不動産投資を組み合わせることで、これまでの不動産投資にはなかった新しい形での不動産投資が可能となります。

不動産を裏付け資産とした不動産セキュリティ・トークン(トークン化有価証券)の最近の発行事例(一般社団法人日本STO協会「セキュリティトークンに関する現状等について」(2023年6月)より野村ホールディングス作成)

社債セキュリティ・トークン

社債セキュリティ・トークンは、ブロックチェーンを用いてセキュリティ・トークン(トークン化有価証券)を発行・移転できるようにした金融商品であり、金融商品取引法では第一項有価証券に分類されます。不動産セキュリティ・トークンと同様、有価証券への投資として扱われます。

従来の社債は取引が発生する度に、株式や債券などを集中管理する証券保管振替機構(ほふり)を通して、社債の名義書き換えや売買に伴う受け渡しをしていました。しかし、セキュリティ・トークンではほふりのような集中管理機関は不要になります。

また、セキュリティ・トークンの仕組みにより、発行会社(資金調達者)が投資家に直接アクセスして勧誘・販売・管理することも可能になったため、資金調達だけでなく、投資家との直接的なつながりも生まれます。

例えば、2022年6月にスパークス・グループが発行した「第1回無担保セキュリティトークン社債(社債間限定同順位特約および譲渡制限付)」には、若年層を中心とした個人投資家が投資に興味を持ち、中長期的な資産形成を始めるきっかけ作りへの思いも込められていました。このセキュリティ・トークンによって生まれた投資家とのつながりを活かし、スパークスは投資の考え方など、投資家に向けて情報発信を行っています。

加えて、従来の債券では利子のような金銭のリターンが大半ですが、セキュリティ・トークンを用いれば金銭以外のリターンの設計も可能です。例えば、2022年6月に丸井グループが発行した「第1回無担保セキュリティトークン社債(社債間限定同順位特約および譲渡制限付)(ソーシャルボンド)」は、エポスカード会員を対象にし、リターンの一部をエポスポイントで付与する設計となっていました。

社債セキュリティ・トークン(トークン化有価証券)の発行事例(一般社団法人日本STO協会「セキュリティトークンに関する現状等について」(2023年6月)より野村ホールディングス作成)

上記以外にも、投資家が匿名組合を通じて出資した合同会社で得られる収益から分配を受取る匿名組合出資持分(GK-TK方式)のセキュリティ・トークン(電子記録移転権利)など、様々な事例があります。セキュリティ・トークンの登場により、投資の幅が広がったことは間違いありません。一方で、法整備や環境整備など、セキュリティ・トークンには課題が残されています。次の単元で解説します。


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