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「文化祭の次は、産地を訪ねよう」実際にやってみた!|堺・泉州のものづくりのプロ達が和歌山へ

昨年秋に初開催された、紀北のものづくり企業が和歌山城ホールに集った和歌山ものづくり文化祭。会場では各々の持つ技術を活かしたワークショップが楽しめて大好評でした!
今年も12月2日(土)・3日(日)の開催が予定されています。

さて、この和歌山ものづくり文化祭のパンフレットやWEBサイトには
「和歌山のものづくりを知ってもらうさいしょの一歩」
と書かれていました。
では、つぎの一歩は…?もちろん踏み出す方向は十人十色ですが、その一つがパンフレットやWebサイトの最後に書いてあった「文化祭の次は、産地を訪ねよう」。
…とはいえ、産地=工場は外部の人の見学を受け入れたり説明した経験はあまり多くないうえに、和歌山は広くて産地は点在しています。そこで今回、比較的ご近所の堺と泉州でそれぞれオープンファクトリーに参加しているものづくり企業のメンバーを招き、和歌山のものづくり現場を実際に巡る実験的なツアー企画を開催しました。

(レポート執筆者:藤田哲也|南海電気鉄道株式会社

ニッティド(海南市、五本指ソックス)

まず紹介させていただくのは5本指ソックスを作っているニッティド
工場見学の前に5本指ソックスの歴史や会社について井戸端社長から説明いただきました。

「先代の社長が当時は無名に近い存在だった5本指ソックスの市場を開拓しようと『ニットグローブ株式会社』を創業しました。『グローブ』とついている通り、軍手の製造技術を活用したんです。創業時の目標は靴下業界の1%を5本指ソックスに成長させるというものでしたが、現在は7~8%までに至っています」
「5本指ソックスは冷え性の『改善に効果がある』・『蒸れにくい』・『有名スポーツ選手が愛用している』等々で何回かブームが来ていまして、いずれも健康がキーになっています。だから、私たちは靴下を編んでいるだけでなく、健やかな人を編んでいるというビジョンを打ち出して仕事をしています」

説明後は工場見学へ。実際に動かしている社員の皆さんや井戸端社長に案内・説明いただきます。
「工場内では24時間体制で機械が稼働していて、同じ和歌山県にある島精機製作所のニット編み機を駆使して工程をできるだけ機械化しています。一方で、靴下の耐久性(ほつれ防止)、そしてニッティドのこだわりポイントである「履き心地」を左右する様な行程は機械化が難しく、人の手で一足ずつ丁寧に糸の処理をしています。」

工場見学で印象的だったのが工場内で行われていた様々な工夫に対する堺や泉州の方々の反応。
工具をどこに置いているか、誰が持っているのか一目で分かる工夫(写真)は、皆さん「こうすれば良いんだ!」と感嘆していました。この工夫を施したニッティドの製造ラインの方も、自社のみならず他社の人にも認められた事を喜んでいただいている様子で、まさに産地を訪ねたからこそ生まれた、訪れる人・訪れられた人双方の喜びが同居する1シーンでした。

(ちょっと休憩)

ランチはニッティドの運営するTRAILER GARDENへ。ニッティドがヨーロッパで5本指ソックスの市場開拓を行う拠点であるドイツ・ベルリンの雰囲気をイメージしたオシャレスポットで、メディアにも多数取り上げられています。

その後、ツアーは2チームに分かれて様々な会社の見学へ―。
この記事では、山家副実行委員長(山家漆器店)と巡ったコースをご紹介します。

町宗工芸(海南市、紀州漆器)

山家さんが最初に引率して訪れたのは、漆器の塗り加工を行う紀州漆器の町宗工芸
アトツギの若き職人、町田さんが案内してくれます。

「『漆器』というと漆を使った食器やお盆というイメージを抱かれるかもしれませんが、僕らはウレタンやカシュー等の塗料で、食器とかだけでなくLEDの電飾看板やゴミ箱の塗装等も手掛けています」

「塗りの技術もいろいろあって、僕が得意な技術と父が得意な技術は違うんです。今、父が行っているのはメガネのフレームの塗装ですが、父はそういうのが得意。色んな物を塗装できるので、大変な時は休みなく一家で塗り続けています。笑」

塗りの技術は一家の中でも違うし、事業者によっても当然違うとのこと。山家さんの実家も町宗工芸と同じく塗りの工程を営んでいます(しかもご近所(Google MAPによると64m))。
「僕ら(山家漆器店)はECでの販売にも力を入れていて、色んな所から『こういう物は塗れませんか?』という問い合わせをいただきます。その時に僕らよりも町田君の方が得意な塗りであれば町田君を紹介します。町田君だけでなく、蒔絵がして欲しいと言われればそういうのが得意な人を紹介しますよ」
海南市の漆器業者同士で、そこにはものづくりが繋いだ温かな関係性を感じました。

吉松工機(和歌山市、金属加工)

続いては精密ロールを作成する吉松工機。和歌山ものづくり文化祭では「―技衆―Team輝のくに」の一員として参加。吉松社長に工場を案内していただきました。
「私たちは『ロール』を作っています。と言っても、『ロール』だけでは分かりにくいですよね(苦笑)。一言で表すと製造機械の部品で、ロールが組み込まれた機械から、例えば液晶画面とかチラシとかが作られます。少し変わったところだと某有名劇場の幕を上げる部品なんかにも使っていただいています」
「うちはあまり量産されないような長尺や大径のロールが作れる事、そして加工の精密さが持ち味です。ロールはちょっとでも寸法や重心がズレたら製品にならなくなってしまいますから」

工場内では職人たちが研磨、溶接、重心のバランス調整まで1つ1つ手作業で金属を加工していきます。旋盤加工を行っている山口さんは
「機械で数値も表示されますが、現れてこないズレが正直あります。『この機械だから』という様な習熟度があって、僕自身、同じレベルの事を今使っている旋盤ではなくて他のでやれ、と言われたらできないと思います。細かい仕上げや調整も最後は自分の感覚を信じて完成させますし、それだからこその完成度になります」

これを見聞きしていて、堺から来たプラスチック加工業者の福田さん(株式会社河辺商会)からは「職人の削るという作業の凄さ、こういうのをオープンファクトリーに来た方には体験してもらいたいね!」と感慨深い様子でした。

菊井鋏製作所(和歌山市、理美容はさみ)

最後は、和歌山ものづくり文化祭実行委員長・菊井さんの本業である菊井鋏製作所へ。
菊井鋏製作所は理容師・美容師用の鋏を作っている会社。スタイリストさん一人一人に合わせて鋏をオーダーメイドしています。
ここで菊井社長と一緒に案内をしてくれたのは、昨年入ったばかりの田村さん。ものづくりの現場にいると外部の人に説明をする機会も多くないので、折角ならやってみよう!という事で一念発起して説明してくれました。

ベテラン職人の仕上げ作業のようす

「鋏を一つ一つ、上刃と下刃に分けて研いでいきます。素材、製品、お客さんのニーズそれぞれで研ぎ方は違ってきます。砥石の消耗も早いですよ。だから、砥石の面直しが仕事みたいなもんです」
もちろん、研いで終わりではありません。磨く、組み立てる、刃同士の噛み合わせを調整する等の作業も全て職人たちの手作業で行っています。

その中で、今回のツアーでは、仕上げ調整用のハンマーを使ったキーホルダーづくり体験を用意してもらいました。

ハサミ作りの技術を使ったワークショップに挑戦!

アルミの棒をハンマーで叩いて伸ばす、というシンプルだけどちょっと珍しい体験。和歌山ものづくり文化祭当日も好評だったコンテンツに堺と泉州のものづくり企業の人達が挑戦します。
泉州から参加した女性の木岡さん(日本紙工株式会社)は
「シンプルだけど大変!もう体験の後半は何もしなくても手が震えてしまってます笑。でも、良いもの出来ました!!」
もう一人体験した福田さん(株式会社河辺商会:前出)もアルミだけで出来た無骨な仕上がりに大満足。『堺と泉州から来たものづくりのプロ2名が、和歌山の職人の技と道具で作った物をカバンに付ける』という、ヒト・モノ・コトの繋がりが形になった、と言えるのではないでしょうか。

編集後記

技術とこだわり―。この共通点を持ったものづくりの人達が出会ったら何か面白い事になるのでは?人と人をつないだ先に、新しい気付きがあるのではないか?
誤解を恐れずに表現すると、私たち南海電鉄では、そのぐらいのラフな気持ちで今回の様な企画のキッカケづくりをしました。そして、記事で書かせていただいた通り(というよりも書けていない事の方が多いぐらい)色々な意見や出会いが生まれていたのは本当に良かったと思います。

『ものづくり』に皆さんはどの様なイメージを抱かれているでしょうか?近くに工場や工房がある方はそこで何が作られているかご存知でしょうか?『百聞は一見に如かず』という諺もありますが、試しに一歩を踏み出してオープンファクトリー等の機会を見つけて覗いてみてください。きっとそこには地域の底力が流れています。

レポート執筆者
藤田哲也|南海電気鉄道株式会社
まちづくりグループ まちづくり共創本部 共創事業部。
2022年より和歌山ものづくり文化祭の立ち上げ時よりサポート。隙あらば旅行して地酒と地物を楽しんでいるが、最近は体重の増加に悩んでいる。
南海電鉄#沿線価値向上プロジェクト

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