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カゴノナカミ【小説】

買い物かごが何個も積み上げられている。

それはゆうに僕の身長をこしていて、あと2,3個積み上げれば天井にとどきそうだ。 真面目に垂直に立っておらず、カゴは横や斜めや反対向きに積み上げられている。これが限界と言わんばかりの絶妙なバランスを保っており、少し振動を加えるだけで倒れてしまうだろう。

積み上げられたタワーの10段目のかご、僕の胸の高さにあるかごの中に特価品の卵が入っている。
もう棚になかったから諦めていたがこんな所にあったのか。
朝御飯に必ずスクランブルエッグを食べる身としては、特価で買っておくのは家計的に助かる。
ただしっかりと上のカゴに蓋をされているし、その上にも何十とカゴが重なっているわけだからそう簡単にとれはしない。

とりあえず先に買いたい物を取ってこようか? でもこの場から離れている内に誰かがこの卵を取ってしまうかもしれない。
確かに高度に積み上げられてはいるが、客の中に世界ジャンカチャンピオンがいないとも限らない。
とりあえず一回触ってみてタワーの状態をみてみるか。ゆっくりと人差し指を伸ばしていき、カゴの持ちての部分を触ってみる。
人差し指から発生する微小な振動がカゴに伝わり、それがタワーに伝わり、タワーが揺れだした。
急いで指を引っ込め、揺れが収まるのを待つ。
何とか立ち直したようだ。

やっぱり後にしよう。

そうして戻った時にはタワーはおばちゃん達に囲まれていた。
ただ卵はまだある様だ。
それにはひとまず安心する。

すると後ろの方から買い物かごを3個肘にかけながらひょろ長の男がやってきた。
その男はおばちゃん達をかき分け、タワーへと近づいて行く。
すると男はカゴに手をかけ、足をかけ、タワーを登って行った。
タワーは右へ左へグラングワン揺れるが、男は登りながらもバランスを考えながら体重移動をしているようで、その揺れは一定のリズムと角度を保っている。
そして、天井に頭をこすりつけながらテッペンまで登り、肘にかけていたカゴを自分が今足をかけているカゴの上にのせた。
また一つ登り、窮屈そうな体勢をとりながらカゴをのせる。
買い物かごのタワーは天井までとどいた。

ひょろ長の男はその場から飛び降り、僕の真隣に着地し、耳元でささやいた。
「振動を逆手にとれ。」

ひょろ長の男は僕にだけ何故かコツを教えてくれた。このチャンスを逃すわけにはいかない。

おばちゃん達を押しのけタワーの前へとやってくる。
そして卵が入っているカゴの上のカゴ、11段目のカゴを、両手で捕らえた。
全身の振動がタワーに伝っていくのが分かる。そして、タワーの振動が全身に伝わってくるのも分かった。この振動を調節する事に集中した。
タワーを手中に収めれた気がした。

タワーをゆっくり左にずらし、ゆっくり床におろした。タワーは崩れていない。そして卵が入るカゴにはもう蓋がされていない。
僕は勝ち誇ったように卵を取り、周りのおばちゃん達に見せびらかした。
すると大きな拍手が生まれた。
ひょろ長の男がおばちゃん達の後ろから、その細長い腕で僕を手招きしている。
僕は皆に感謝を言いながら、男の元に向かった。
ひょろ長の男の元に着くと、男は僕の手に持っている卵を見ながら言った。

「人のカゴに入っている商品を取っちゃ駄目でしょ。」

そうやん

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