轍五右衛門

医療従事者。人生5年先はわからない。ともあれせっかく生きているのだから足跡くらい残して…

轍五右衛門

医療従事者。人生5年先はわからない。ともあれせっかく生きているのだから足跡くらい残しておきたい。 ここには夢日記、詩、写真、エッセイ、短編小説、俳句、短歌、書評や映画評など(過去にmixiに書いたものも含めて)気のむくままに書いてます。他に即興演奏、自作自演ピアノ動画など。

マガジン

  • 短編小説・エッセイ・詩

  • 書評(ネタバレあり)

    読んでみて印象に残った本の書評をぼちぼち書いていこうと思う。基本的には純文学やSF中心。新しいもの、古いものごちゃ混ぜ。多少のネタバレあります。 ★★★★あれこれ言わない。とにかく読んでみて! ★★★素晴らしい。いずれ再読したい。 ★★良かった。おすすめ。 ★悪くない。けど再読はないかな。 つまらなかった本はここに取り上げないので★無しというのはありません。

  • 夢日記 及び 普通の日記

    夢日記。夢を見たままの通りに書いていますが、後で記憶を補いながら補正したり、文章になるように整理改変した短編もあります。最近あまり夢をみないので、過去にmixiの日記に投稿したものを引っ張り出してきたものも多いです。新しく面白い夢をみたらなるべく書きます。 あと普通の日記も少し。

  • 映画評(ネタバレあり)

    観て印象に残った映画のことを書きます。新しいもの、古いもの、ごちゃ混ぜです。 多少のネタバレはあるかも。 ★★★素晴らしい。人に強く薦めたい。二度三度観たい。 ★★よかった。人に薦めたい。 ★悪くないかも。 作品を貶したり否定したりするのは好きではないので、観て面白くなかったとか、腹が立った、という作品評はここには書きません。

  • 自作ピアノ曲演奏動画

最近の記事

死んでいない者/滝口悠生★★★

 葬式に集まる親族たち各々の人生の、切り取られたエピソードが淡々と並べられていく一種の群像劇である。人物が錯綜しているため、2回読み返した。  一貫したストーリーや劇的な展開がある訳でもない。  でも面白かったし、なんとも言えない余韻が残った。  感心したのは、語り手の視点の設定だ。特定の登場人物の視点になったり、いわゆる神の視点で誰かにフォーカスしたり、曖昧に中空に浮かんで、そこから見下ろしているような、よくわからない誰かの視点になったり。    もちろん、この視点の自由自

    • 裁判傍聴 京王線ジョーカー事件第二回公判

       開廷の少し前に立川地裁に着いた。  傍聴券は持っていなかったが、当日券をもらうことができた。身体チェックを受けて101号法廷に入室。  被告席についているH氏の横顔が見えた。スーツに坊主頭。眼鏡をかけて視線を下に落としている。感情は読み取れないが、心なしかもの悲しそうに見えた。  彼と俺と、柵を隔てているが、5メートル位しか離れていない。  被告席と傍聴席、証人との間に衝立が置かれた。被告と顔を合わせたくない事件関係者への配慮だ。  全員起立して開廷。  今日は証人尋

      • Tさんのこと

         H警察署から電話があり、ああ、あれかと思った。  予想通り、不審死した人の身元確認に協力してくれとの依頼。これ、年に数回くらいある。 二人組の刑事さんがやってきたので、夜勤の診療の合間に、医局に上がってもらい、対応した。  見せられた腐乱死体の顔写真は、変わり果ててはいたが、確かに数カ月前に治療をしたばかりのTさんだった。  彼のために俺が作った部分入れ歯が、ビニール袋に入っていて、黒ずんで汚れていて、小さな蝿が一匹くっついていて、それがもの悲しかった。  8

        • 夢日記11

           ここは何処かの介護施設だかグループホームだか、何か人々が集まって暮らしているようなところだろうか。老若男女、色々な人がいるが、高齢者の比率が高い。そして、どちらかというとみすぼらしいなりをした人が多い。  俺は上下、くたびれた作業服のようなユニフォームを着ている。人々はほとんどが私服だが、その中に俺と同じユニフォームを着ている者がちらほらいる。  どうやら俺はそこの入居者ではなくて、職員のようだ。事情がよくわからないままうろうろしている。どうも働き始めたばかりらしい。  

        死んでいない者/滝口悠生★★★

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        • 短編小説・エッセイ・詩
          11本
        • 書評(ネタバレあり)
          21本
        • 夢日記 及び 普通の日記
          14本
        • 映画評(ネタバレあり)
          5本
        • 自作ピアノ曲演奏動画
          17本
        • 俳句 短歌
          2本

        記事

          あの日

           もう30年以上も前のことだ。あの日のことを思い出すと、今でも心がざわつく。  招待されていた友人Mの結婚式をすっぽかした。  理由?正直に告白する。単純に、忘れていたから、だ。  あり得ないだろ?自分でもそう思う。コロナ禍で習慣になった家飲み中、ふとまた思い出して、妻にこの失敗のことを告白した。当然のごとく、あり得ない、と言われた。  思えば他にも散々やらかしてきた。就職先の内定を得ていながら最初の大学を留年したのだって、最後に残した必修の単位を、試験を受け忘れて落とした

          裁判傍聴 糾弾と救済

          今日、金曜日は午前中オフ。 ふと裁判傍聴を思い立ち、立川地方裁判所へ。 被害者2人の殺人事件。 被告は小玉喜久代さんという79歳の女性(以下Kと記述) 本日の公判は検察官の論告求刑、弁護士の最終弁論、被告人の最終陳述という、本件裁判のクライマックスである。 Kは2021年の4月、同居していた長男(47 )を絞殺。保釈中の5ヶ月後の9月、今度は自身の身元引受人として同居していた妹(74)を絞殺した、2件の殺人の罪に問われている。 ちなみにKは夫を病気で亡くしていて、最初の

          裁判傍聴 糾弾と救済

          無人島のふたり 120日以上生きなくちゃ日記/山本文緒 ★★★

          「2021年4月、私は突然膵臓癌と診断され、そのとき既にステージは4bだった。治療法はなく、抗がん剤で進行を遅らせることしか手立てはなかった。  昔と違って副作用は軽くなっていると聞いて臨んだ抗がん剤治療は地獄だった。がんで死ぬより先に抗がん剤で死んでしまうと思ったほどだ。医師やカウンセラー、そして夫と話し合い、私は緩和ケアに進むことを決めた。」  衝撃的な書き出しに息を飲む。これは創作ではなく、作者が直面した現実を、あるがままに書いた文章なのだ。  宣告を受けて途方に暮

          無人島のふたり 120日以上生きなくちゃ日記/山本文緒 ★★★

          えれほん/うめざわしゅん★★★

          例によって、同僚から借りて読んだ。 奇妙なタイトルは19世紀後半イギリスの詩人、小説家サミュエル・バトラーの150年前の同名小説からとったものと思われる。Erehwonという綴りはNowhere(何処にもない場所=理想郷)を反転したもの。シンギュラリティの予言、優勢思想、経済至上主義など、色んな要素満載のディストピアの源流的小説である。 ちなみにバトラーは進化論を巡ってダーウィンと論争したことでも知られている。 で、この「えれほん」は3つの中編から成る。 非常に読み応えの

          えれほん/うめざわしゅん★★★

          ユートピアズ/うめざわしゅん★★★

          「ダーウィン事変」でこの人を知ったのだが、同僚がこの短編集を貸してくれたので読んでみた。 「ナオミ女王様に仕えた日々」 国が認定する「公認女王様」を育成するボランティアとして自らSMの奴隷になることを志願し、家庭内に女王様候補のお姉さんを迎え入れる小学生の潤一郎。それを優しく見守るパパとママ。ホームドラマ仕立て。 「どつきどつかれて生きるのさ」では漫才が社会の隅々まで浸透している。家でも会社でも、人々は相方を持ち、ボケたりツッコミを入れたりしながら生活している。相方と出会っ

          ユートピアズ/うめざわしゅん★★★

          テコンダー朴/白正男(作)山戸大輔(画)★★★

           キワモノ漫画好きな同僚Sくんが買ってきた漫画を借りて読んだ。人権派格闘技漫画、と銘打たれている。はて、一体なんだろう?  これまで、この手の本や漫画を手に取ることはあまりなかった。私は韓国も中国も別に好きでも嫌いでもない。好き嫌いの感情を国レベル、民族レベルに向けることにあまり意味はない思っている。どんな国にも色んな人が住んでいて、結局、人それぞれだ。  で、この作品だが、とにかく唸らされる。唸るといっても、感動して、とか感嘆してとか、ではない。  超ざっくり説明すると、

          テコンダー朴/白正男(作)山戸大輔(画)★★★

          女神の継承★★

          タイの田舎の村が舞台のモキュメンタリーホラー。 悪霊に憑依された女の子を霊能者が儀式で救おうとする話。 安っぽい照明で飾られた村の飲み屋、シャーマンの執り行う祭祀。精霊が潜む熱帯の村落の、むせ返る匂いが漂ってくるような映像が素晴らしい。 悪魔に憑かれた女の子の、リミッターを振り切る狂気の演技が凄まじい。 観客にカタルシスを与えない結末もいいと思う。 ただ惜しむ点をひとつ挙げるなら、後半のホラー演出にやや過剰さが目につくところ。全てを見せるのではなく、見せないことで想像力を喚起

          女神の継承★★

          Premonition

          数年前に作った「主題と変奏」という、自分にしては大作の中の第9変奏を拡大して、独立した曲にしたもの。左手の10度の跳躍を含む音形をプレストで弾き続けるのは相当に至難の技で、作曲した自分には到底弾きこなせない。 小林遼氏の凄まじい演奏には何かが取り憑いているかのようだ。それはスピード狂の霊かもしれない。  https://youtu.be/Kzo0f5wKANE

          Espressivo

          数年前に作った「主題と変奏」という、自分にしては大作の中の第8変奏。 演奏は小林遼氏。 https://youtu.be/0_aFPj3eunY

          Nontitled(即興演奏)

          もう50年も前のことだ。 田舎の祖父のだだっ広い家の、奥座敷の床の間に掛け軸が掛かっていて、全く読めない文字が書かれていた。漢字だということは一応わかった。 夏休みなど、蝉時雨の中、それを飽きるまでよく眺めていた。 何を考えながらそうしていたのか、今となってはよくわからない。しかし、何か心惹かれるものが そこにあったのは確かだ。 即興演奏をしている最中は、何も考えていない。 だが、録画を見返してみて、何故だか子供の頃の、その記憶が蘇った。

          Nontitled(即興演奏)

          夢日記10

           久しぶりに背広にネクタイ締めて、広いレセプションホールみたいなところにいる。何かのパーティが行われているようだ。そこにいるのは身なりのきちんとした外国人の男性ばかりで、英語が飛び交っていることからして、ここはどうやら海外のホテルらしい。  俺の同僚や知人は誰もいない。しかし、ロバート・キャンベル氏、ピーター・バラカン氏といった有名文化人がいて、グラス片手に周囲の人たちと談笑している。  キャンベルさん、YouTube配信時々見てます、とか、バラカンさん、ウィークエンド・サン

          ビリーバーズ★★★

           山本直樹の傑作漫画がようやく映画化された。テアトル新宿で上映中。  無人島で修行中のカルト信者の女1人男2人。足の裏を互いにくっつけて瞑想しているシーンから始まる。  オウム真理教の事件が下書きになっている。  生きづらい人や、追い詰められた人の逃避先の一つにカルトがある。帰依した他人に無条件に従うことで、居場所を提供され受け入れてもらえる。  確かに楽かもしれない。ただしそれは意志の放棄=人生の放棄と引き換えだ。  人を洗脳し現実から引き離すのがカルトならば、そこ

          ビリーバーズ★★★