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異常 アノマリー/エルヴェル・テリエ ★★★


 自分は何者か、どう生きてきて、これからどう生きていくことになるのか。そんなこと一々考えなくとも、どうせ死なない限り自分自身からは解放されない。山あり谷あり色々あるなかで自分と折り合いをつけながらうまくやるしかない。まあ、それが人生だろう。
 だが、自分が他人だったら、他人が自分だったら?
 日常生活の環境、人間関係など、普段と何も変わらない世界の中で、自分のアイデンティティだけが失われてしまったら、人はどうすればいい?
 これは、そのような設定のもとで、登場人物たちがどういう行動を選択したか、という、いわば思考実験小説だ。
 実験であるからには、設定が如何に奇抜であろうと、舞台装置はディテールに拘り、正確で、リアリズムに徹していないと面白くない。その点、この物語は非常に精緻を極めていて抜かりない。へえ、なるほど、こうなるのか、という驚きとともにページをめくる手が止められなくなる。
 物語の終盤に、登場人物の1人が、1つの重大かつ恐ろしい選択をする。もし自分だったら、その選択はしない、というより、できないだろうと思った。
 ゴンクール賞受賞作。


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