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むぎの由来

ウチにいた「むぎ」という猫との話。

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10年程前の夏、屋久島で猫をひいてしまった。

ちょうどこのお借りした表紙の画像のような夜だった。

せっちゃんに会いに行った帰りに。

屋久島に行くのは二度目で、
せっちゃんは、はじめて島を訪れた冬に出会った人。
「おじじ」と呼ばれるパートナーと一緒に住んでいた。
初めて会った時も、家にお邪魔したんだけど、
2人が出す空気は大きくて不思議なほど落着いた。
おじじは声を失なってて話せないけど、何故か不思議と通じる人だった。

2人と過ごした時間は、冬の夜の静けさと重なって、深い森の中にいるような気分だった。
おとぎ話のように、明日来たら家ごとなくなってしまっててもおかしくない
そんな風に思える空間だった。

翌年の秋、おじじが亡くなった。
あんなにピッタリのパートナーを失うなんて。。
どんな喪失感なんだろうか。。
せっちゃんの事が気になって、今度屋久島に行く時は、必ずおじじに手を合わせに行こうと決めてた。

2度目の訪問

屋久島に着いてせっちゃんに電話をすると

「さっきね、仏壇のロウソク消そうと思ったら全然火が消えなくて
おかしいなぁ~誰か来るのかな?って思ってたら
マキちゃんだったんだ!」と、喜んでくれてた。

おじじ気づいてたんだ!?と嬉しくなった。
屋久島ってそんなとこなんだよね。。

おじじに何かお供え持って行こう!
と思ったら、道端の花がいくつかキランキランと光って浮き上がって見えた。
ありがとう!このお花とそのお花をいただいていいんだね!と
それらの花を摘ませてもらう。

屋久島って本当にそういうところなんだよ。。

島で摘んだお花を持っておじじに会いに行くと、
せっちゃんが「おかえり~」と笑顔で迎えてくれた。
おかえりーって、とても温かい言葉だ。
旅先で聞くと余計に染みる。

そして、せっちゃんの笑顔に安心した。
彼女が過ごしたこの一年を想うと、私にはかける言葉もないから。。


せっちゃんの家は、変わらず静かで深い森みたいな不思議な時間が流れてた。

最近少し落ち込んでたみたいで
私と話して気が楽になったと言ってくれた。
たくさん話す中で
おじじの不思議なお葬式の話も聞かせてくれた。






おじじのお葬式の不思議な話


みんなで歌って笑って泣いて、お祭りみたいにして別れを告げよう!と、仲間が集まり葬儀は自宅で行われた。

ふと、おじじがいつも着ていたジャケットが、床に落ちてるのに気づいて、あれ?おかしいな?と不思議に思って片付けようとしたら、
中で何かが、ガサガサと動いてた。

その場にいたみんなで、何だろうね???と、ジャケットをめくってみると、中から脚が折れた猫が出てきた。
日頃から、おじじは事故にあった猫を助けては病院に連れていってあげてたので
「わぁ!おじじが連れてきたんだ~」と、居合わせたみんなが納得して、笑った。

そして、その場にいた一人が
「わぁ~」と突然頭を抱えだした。

「この子私が飼うんやぁ!
名前も知ってる!「あんこ」って言うんでしょ??」
と叫びだした。
そして結局その子が飼う事になったんだそう。
(おじじの好物は「あんこ」)

亡くなってからも、そんな風に猫を助けたりできるんだぁ。。
しかも、飼う人まで決めて、名前まで教えちゃえるの???
おじじやっぱりタダモノじゃないなぁ。。と感動した!

おじじはそんな大きな人で、こんな不思議な話が屋久島にいるとすんなり受け入れれてしまう。


猫をひいてしまった


その帰り道、私は猫をひいてしまった。

車の前を白い6ヶ月くらいの仔猫がパッと横切り、避ける余裕もなかった。

せっちゃんに会ってあんな幸せな時間過ごした後にこんな事ってある!?
衝撃すぎて、身体中の血液がギュッと固まって、怖くて通り過ぎそうになった。
(ひき逃げ犯の気持ちが本当に理解できた!)

逃げ去りたい気持ちを抑え、ブレーキをかけ、
意を決して車から降り、真っ暗な闇の中、月明かりを頼りに探し回った。
けど、猫はどこにも見当たらなかった。


さっき聞いてたおじじの話がホントに救いで、
もしかしたらおじじが助けてくれたのかも!?
勝手だけど、そう思わなきゃ耐えれなかった。


ごめんなさい!
おじじ、あの子助けてあげてください!
猫ちゃん本当にごめんなさい!
猫の神様! 屋久島の神様!ごめんなさい!!
おじじ、次に大阪で困った猫がいたら、私にまわしてください!
絶対生涯大事に育てます!!
私は猫飼った事ない犬派やけど、ダンナさんは猫大好きやし安心して下さい!
ほんまにほんまに大事にします!!
ごめんなさい!!!!


ひたすらお詫びして、お祈りしてその場を離れた。

頭からはずっとその猫の事が離れなかった。

満月から2日過ぎた夜の出来事でした。


まさか、本当にやってきた!


ちょうど一ヶ月後、次の満月の2日後
友達から電話があった。

「母猫に置いてかれた仔猫いるんだけど誰か貰ってくれる人いない??」

えーーー!!??
つ、ついに!!
ホ、ホ、ホントに来た!!!!と震えてしまった。
ど、どうしよう!!!
確かにおじじと猫の神様に約束したけど、本当にくるなんて!!
1ヶ月後って!!
早すぎひん?まったく猫を飼う心の準備出来てないし!!


動揺しすぎて、意味不明な返答で一度電話を切った。
挙動不審ぶりに友達はかなり不審がってた。


そうして我が家に猫がやってきた。
しかも、生後一ヶ月。
私が猫をひいてしまった頃に生まれた事になる。。


名前は自分で決めるのに違和感があり、全然決まらなかった。
友だちに、じゃあ猫に聞いてみたらいいんじゃない?と言われ、確かに本人に聞くのが一番かも!?と半信半疑で、子猫の目を見て真剣に尋ねてみる。声ではなく、念で。

「あなたなんて名前なの?」

そしたら頭の中に「むぎ」という音が返ってきた。

「むぎ」か!
思いもつかなかったけど、
確かにこの子、むぎって名前がピッタリくる!

名前も決まったしと、せっちゃんに報告したら、なんとちょうどその日せっちゃんの家に
「こむぎちゃん」という赤ちゃんが遠路遥々遊びに来ていたそう。
おじじが仲良しで大好きだった「こむぎちゃん」。

その話を聞いて、やっぱり「むぎ」は
おじじが連れてきてくれた猫なんだ!と確信して安心した。

それに良く考えたら、私が猫をひいてしまったのは
屋久島の「麦生(むぎお)」という集落だった。



むぎのときいたる


むぎの事は、本当に大切に育てた。
溺愛ぶりに友達も引くくらい。
いつ別れても、どの瞬間を切り取っても、
あの時の猫や、猫の神様、屋久島の神様、おじじとの約束を果たせてるように。
本当に大切にしていた。

むぎがやって来て8年目のある日、突然姿を消した。

探そうにも、もう同じ次元?同じ時空にいない!と
どうしようもなくそう思えてしまった。
自分の意志で、違うところにいってしまった。。

カレンダーを見ると、
その日は七十二候で「むぎのときいたる」という、麦の穂が実り収穫するという日で愕然とした。

七十二候なんて、私も知らなかったのに、
猫がなんでこんな暦を知ってるの!?

突然の別れ。

はじまりも終わりも、人間の叡智が全く及ばないところからやってきて、そこに帰っていったむぎ。
人間が気づいて意識できてるところなんて、
ほんのわずかなんだと教えてくれた。


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