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サラリーマン人生の最初で最後の最低評価

知人Aさんが定年退職を決めました。

彼が働いている一部上場の古株企業では、定年を迎えても嘱託社員として、給与は下がるものの65歳まで継続雇用を希望する人も多いらしいのですが、彼は退職を決めました。

勤続30年以上、今年は有休を消化してほぼ出勤せずに定年の日を迎えるそうです。

そんな定年を楽しみにしていたAさんに新年のご挨拶をしたら、怒り心頭の感情をぶつけられました。

サラリーマン人生最後に最低評価

Aさん、定年前の最後の人事評価で最低ランク5を付けられたそうです。

えっ、最低ランク5って、辞めさせたい人に付ける評価でしょう?
びっくりしました。

なのになんで5?
しかも勤続30年以上、晴れて定年退職の人に?

評価の基準

Aさんの会社の評価システムは相対評価です。
8人程度の小さな組織でも一番評価の高い1から低い4まで、それぞれの人数配分に合わせて、評価が振り分けられます。

最低ランク5は、「必ずしもつける必要はない」と規定されています。

Aさんの部署は生産管理部門にあり、営業のような個人の成果が数字で明確に出る部署ではありません。

大きな失敗もなく、淡々と業務こなし、大人しくて口数も少なく、マイペースで職場の人間関係が上手いとは思えないAさん。
そんなAさんは、役職も係長止まりで自分が年長ということもあり、相対評価4に長らく意見することもなく、受入れてきたそうです。

相対評価ではグループ内には、Aさんの他にもあと1人くらいは4が必要だったでしょう。

業務の内容の違い、成果の見えにくさ、個性の違いがあり、それぞれの業務の到達目標はあっても、基準が一定でないグループで、無理やりランキングする相対評価は有効なんでしょうか?

グループ全体の生産性アップのために助け合うよりも、グループ内の競争心を煽り、いかに自分の貢献度をアピールするか、場合によっては他人の足をこっそり引っ張ったり、上司に気に入られることを優先したり、”仕事のできない奴・やり難い奴”のレッテルを誰かに貼って安心したりしませんか?

高評価の人はグループの低評価の人を見下したり、
優秀な人が入ってきたら潰そうとしませんか?

低評価の人は仕事に意欲がでますか? 
そんなストレスフルで不当とも思える評価に怒って辞めるか、自信をなくして鬱になったり、開き直って仕事に集中して諦めるか、ですよね。

大体、上司がきちんと評価できるのか?それ自体かなり怪しい。

成果に大差がなければ、低評価を付けても辞めそうもない人、大騒ぎしないような人が低評価の受け皿にしたくなるし、気分を損ねるような低評価を気の合う部下や勝気な部下には上司もつけたくないでしょう。

最低評価5の理由 

さすがのAさんも勤続30年以上、晴れて定年退職の最後の評価に論外ともいえる5を付けられたことを女性上司に質問しました。

上司から返ってきたメッセージは

「あなたは辞める人だから」

という冷たい突け放したような一言でした。
どういうことでしょう?

これを受けてAさんは翌日、
「その理由では納得できないので社内の評価審査委員会に提出します。」

と返すと慌てたその女性上司から

「説明不足で申し訳なかった。
提出する前にできれば、しっかりその経緯を直接、説明させてほしい。」

といかにもAさんのリアクションが意外で焦った返信がかえってきたそうです。

上司との事前の話合いで見えたもの

そしてその後のAさんと上司とリモートでの話し合いで開口一番、

「本当に説明不足で悪かった。謝ります。
Aさんから、メッセージをもらって、突然、振られたような気分になりました。今週末ずっと今回の件を考えていて、説明不足は今までAさんに甘えていたと思う。」

と言われたそうです。

この女性上司とAさんの仕事上の付き合いは長く、この上司が主任から部長に昇進する過程も見ている関係で、Aさんも女性上司の有能さは認めてはいます。

それにしてもドキッとするような話の切り出しですね。

ですが結局は、

「今回、会社からの指示で最低評価5を付ける人が2グループ内で2人必要だったので、仕方なかった」の一点張りだったそうです。

さらに評価の細かい項目の中で点数が最も低かった「指導力」について質問すると、その上司は「Aさんには、もっと他のメンバーに指導してほしかった」と言われたそうです。

Aさんいわく、
「直接関わっている派遣社員にはちゃんと指導しているし、グループ内に指導する部下はいないのに、指導力が最も低いってどういうこと?
逆に上司として自分に問題点や改善してほしい点があったら、なぜ今までフィードバックしなかったのか?」
と思ったそうですが、その場ではすぐに反論できなかったそうです。

本当の理由は何だったのか?

これと言ったミスもなく、実際のところ、上司として強く指摘すべき問題点もなかったから、これまでもミーティングがなかったんでしょう?

Aさんに対して最低評価5の明確な納得のいく理由は
「今回は会社の指示で最低評価5が2人必要だった(上司いわく)」ということ以外なかったのです。

ですが、この会社は業績が好調で人員不足で求人を出しているくらいで、この時期に会社側が人員削減を望んでいたとは疑問です。
この部署で英語が得意なAさんは海外とのやりとり、会議では重宝し、経験も長く業務にも精通しているし、役職者でもないAさんが安い給料の嘱託で残ることは会社にとってメリットなくらいだと思います。

実は半年前に上司に定年退職を伝えて以降、上司は目を合わさない、話さない、挨拶もしない、Aさんを無視するなど態度を変えたそうです。

定年延長(嘱託にならない)しないことが気に入らなかったのか、低評価4の受け皿がなくなったことに困惑したのか、もう退職するから気を使う必要もないし、どうでもいいと思ったのか、理由はわかりません。

ただ勤続30年以上、職場で最も長くいっしょに働いてきた同僚でもあり、部下でもある社員の晴れの定年を花束ではなく、解雇勧告に等しい評価5で締めくくった上司の仕打ちは、かなり残酷だと思います。

それとも定年退職者に最低評価をつけるって企業でよくあるんでしょうか?

評価審査委員会の結果

さて、その後上司と話し合った結果、上司経由で社内の評価審査委員会がAさん、上司、人事部の3者、3人で開かれたようですが、結局、評価が変わることはなかったそうです。

男性Aさんに対して、女性上司と女性の人事担当者の二人の意見は一枚岩で、評価が変更されることはなかったそうです。

冗談交じりでAさんに「人事担当の女性は美人だったでしょう?」と聞くと「その通り」だったそうです。

男性だったら、美人が出てきたら言いたいことも言いにくくなっちゃうよね。私だって、ハンサムが出てきたら、言いたいことも言いにくくなっちゃうもんね。

しっかり女性上司に根回しされちゃったような気がするよね。

気の毒なことにボーナスも退職金も最低評価に準ずるため、低い設定のまま支給されることも変わらなかったそうです。

ただ、最後に言いたいことを伝え、やるだけのことはやったので、Aさんも踏ん切りがついたようです。
評価の件に執着して神経症になって、自分の時間と精神を無駄にするよりも定年後のことに頭を切り替えていると聞き、私もちょっとホッとしました。

なんのための評価?

Aさんは評価審査委員会の場で次のように言ったそうです。

”私の仕事は、営業のような個人の成績が数字で測れる仕事ではありません。問題なく、業務をこなすよう日々努力しても、相対評価システムの人数配分上、平均以下の評価をするのは社員のモチベーションを下げるだけです。

明らかに問題があるのであれば、なぜ面談でフィードバックや問題解決のアクションプランをデスカッションしなかったのでしょう?
それも一切なければ(必要なかったのかもしれませんが)、評価した意味もなく、無駄に人を傷つけるだけで問題解決になりません。”

私もその通りだと思います。
これでは業務の評価とすら言えないし、なんのための業務評価なのかわかりません。単に上司のお気に入り、昇進予定者ランキングになってるかもしれません。

日本では仕事ができる人ほど楽に仕事をしているように見えるし、さらにその上でプライベートを重視していれば、意欲がないように上司に見られ、評価が下がる可能性も高いので要注意ですよ。

欧米で従来の人事評価を廃止する動きが進んでいる

欧米では近年、点数制やランキングの人事評価を廃止する動きが進んでいるそうです。

点数やレイティングをする人事評価ではなく、目標のためにどんな行動プランで、どのように行動し、どこまで達成できたか、プランの見直しは行われたかなど過程を重視した面談による人事評価に変わってきているそうです。

まさにAさんが評価審査委員会で発言したことですね。

Aさんのように不本意な人事評価にショックを受けた人は大勢いるのではないのでしょうか?
「悔しかったら頑張れ!」っていう発想も日本的。カナダ人だったら、そんな会社にサッサと見切りをつけて辞めそうです。

Aさんにも伝えましたが、会社の人事評価はその人の人間性や能力を決定しているものではありません。

上司は会社の中でしか見ない一面的な業務能力や態度で、思いっきり、思い込みと偏見で、時には間違った、時には悪意を持って、時にはテキトーに評価していることもあるのです。

その部署の上司、同僚、部下との人間関係に問題があったり、社風や仕事が合わなくて、その人の能力や良さが発揮できていないだけかもしれません。

悪い人事評価が付いたからと言って、仕事上の問題点は真摯に受け止めても、自己否定することはありません。

定年するAさんへ

Aさんから、
「30年以上のサラリーマン人生の最後の人事評価が最低だった。
こんな形で自分のサラリーマン人生を終わるとは。惨めだ。」
と聞いたとき、他人事ながら彼の心情を思うと私はとても頭に来ました。
よく私に話してくれたと思います。

残念ながら、彼の人事評価5が変わることはありませんでした。

でもその評価って私のイメージでは、ある他人が「私はあなたをこんな人だと思った」と書いて渡してきたただの紙切れなんです。

この場合、彼の人生にそんなに重要なものに思えないのです。

だから、そんな紙切れに心を奪われて悩むのは、呪いのかけられた紙切れを胸ポケットに常に入れて持ち歩いているのと同じだから、捨てたらいい。

そんなことより、会社という今までの縛りから解き放された自由を楽しんだり、休んだり、次のことを考えたらいい。

定年の日、カナダから花束とプレセントを送るよ。
今までよく頑張ってきたよね。お疲れ様。


※今回はこんな長ったらしい文章にお付き合いくださり、ありがとうございました。話を聞いた私の方が頭に来ちゃって書かずにはいられなくなりました。やっぱり日本のサラリーマンなりの辛さがありますよね。

人事評価のシステムももっと良いものになってほしいと思います。


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