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コザの夜に抱かれて 第20話

 目が覚める。みゆきは、横になったまま壁掛け時計を見た。それから一本だけタバコを吸い、いつものお祈りをした。それからメガネをかけ、部屋着の上に上下アディダスのジャージをはおって家を出た。カバンには、もちろん<遊郭のストライキ>が入っている。バス停についたところで、先日の続きを読んだ。
 琉球バスに乗り、ストライキ中の仕事場へむかう。<ミュージックタウン>の広場でなにかのライブイベントをしているようだった。
「そういえば、オリーブ・オイルさんがくるとか、だれか言ってましたね」
 みゆきは曲を、いつものシャッフルでなく、自分で選んだ。オリーブ・オイルとリットの<ゴー・オキナワ>だった。バス停をおりる。仕事場までは歩いて五分だ。その曲の長さにちょうどよかった。給料をもらっているんだか、もらっていないんだか、わからない黒服に頭を下げ、防音のアルミ扉を開く。静電気で彼女の手はすこしぴりっとしたが、何食わぬ顔で彼女は中に入った。
「みさきさん、おっつー!」
 カギが開く音に感づいたのか、缶ビール片手の岬が出迎えた。
「おつかれさまです」
「どうします? さっそくのみますか?」
「では、ビールを」
 そう言われて、岬の右腕が冷蔵庫にかけていく。前室にみゆきが入ると、みんな良平が持ってきた、スーパーファミコンの<ボンバーマン>をキメてブリブリでやっていた。みゆきは苦笑し、いつもの席に腰を落ち着けた。
「はい。みゆきさん」
「ありがとうございます」
 きんきんに冷やされたビールは、過ごしやすくなった沖縄の気候にはちょうどよかった。
「今日また良平さんが、物資届けに来てくれるそうですよ」
「助かりますね」
「ほんとっす」
「本、もって来たんですが」
「本、ですか?」
 岬は頭の上にはてなをつくって、みゆきを見た。みゆきはカバンから本をとり出して渡した。
「参考になるかな、と思いまして」
「あたしに読めるかなー」
「ストを本気でやるなら、読んでおいて損はないと思います」
 プシュ。みゆきが缶ビールを開けた音が、控室に響いた。オリオンのドラフトの黄色い液体が、朝からなにも口にしていなかった、みゆきののどをうるおした。
「みゆきさん。まじめな話なんですけど」
「どうかしましたか?」
 岬はすこし、口ごもって、言いにくそうに話し出した。
「昨日の夜、一鉄さんから、鬼電あったんです」
「……そうですか」
「みゆきをだせー! みゆきをだせー! とすごい剣幕で」
「……そうですか」
 岬はそれでも冷静なみゆきに、腹立たしい気持ちを持ったが、ビールを軽くあおって、冷静に言った。
「とにかく、みゆきさんは病院行ったりしなきゃいけないみたいですし、外に出るときは気をつけてくださいね」
「ご心配、ありがとうございます」
 みゆきは岬に笑いかけた。夜の月のように。
「ははっ。なんか余裕っすね」
 それからふたりは酒をのんだり、屋上でタバコを吸ったりして、その日を過ごした。

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