周庭

ブラック・バウヒニア行動と初めての逮捕拘束|周庭

香港の社会運動家・周庭(アグネス・チョウ)さんの連載『御宅女生的政治日常──香港で民主化運動をしている女子大生の日記』。7月1日の返還記念日を前にデモに参加した周庭さんは、初めての逮捕拘束を経験しました。公民的不服従を主張しデモに参加する上での覚悟、逮捕後の様子を語ります。(翻訳:伯川星矢)

御宅女生的政治日常──香港で民主化運動をしている女子大生の日記
第10回 ブラック・バウヒニア行動と初めての逮捕拘束

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▲7月1日の返還記念日デモに参加する周庭さん

先月の連載を見返してみると、京都や台湾への旅、そして六四燭光晩会など、すべてが遠い昔に起きたことのような気がします。ここ一ヶ月であまりにたくさんの出来事がありました。香港の情勢は激しく変化していて、毎月さまざまなことが起きているものですが、それでもこの一ヶ月、わたしは人生で初めての体験をいくつもしました。それはわたし自身の視野を広げ、更なる覚悟を決める機会でもありました。

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▲返還記念日前のデモ、1回目のブラック・バウヒニア行動 (撮影:jimmy lam)

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▲2回目のブラック・バウヒニア行動 (撮影:jimmy lam)

前回、台湾に向かい林飛帆氏の結婚式に参加し、翌日香港に戻り、更にその翌日に東京へ行ったというお話をしました。それとはまた別に、今回はジョシュアと二人で東京に向かいました。とても厳しいスケジュールをこなしながら、わたしたちは初めて海外で記者会見を行いました。日本記者クラブで会見を行う機会をいただいたのですが、約40〜50人もの記者の方たちが参加されました。これほど多くのメディアの方が参加されたことに、本当にびっくりしました。たとえ香港で記者会見を行っても、雨傘運動のような大事件でもない限り、40〜50人もの記者が参加するということはほとんどありません。かつて、ジョシュアとネイサン・ローが台湾の政党・民間団体と一緒に記者会見を行ったり、アメリカも国会の公聴会に出席したりする機会がありましたが、単独での海外記者会見はこれで初めてでした。「主権移行20年」と題した海外会見がこれほどの成功を収めたことは、本当に想定外でした。

記者会見以外にも、わたしたちは東京大学の阿古先生のご招待により、東京大学駒場キャンパスで行われた講演会に出席しました。その日、わたしとジョシュアは雨傘運動後の香港についての講演を行いました。たとえば中国共産党体制を批判する書籍を出版・販売していた香港の銅鑼湾(どらわん)書店の関係者5人が連続して失踪した事件や、親中派のビジネスマンが香港から中国大陸に誘拐された事件、そしてジョシュアがマレーシアとタイに入国拒否されたことなどについてお話をしました。また、わたしたち香港衆志の理念についても紹介しました。講演に来てくれたみなさんにわたしたちが民主的な制度を求めていると同時に、香港の民主主義と民主自決を求めていることを知ってもらいたかったのです。そしてとても驚いたことに、当日の参加者がとても多く、150人分の席がいっぱいになり、隣の教室から椅子を運び込んで座っている人もいましたがそれも入らなくなり、最後には廊下に椅子を並べてドア越しに講演を聞いている人も大勢いるほどの大盛況でした。正直、「すごすぎる」としかことばが出ません。当日参加された方たちに本当に感謝しています。

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▲東京大学での講演の様子

東京から香港に戻ると、わたしたちは7月1日の返還日記念日前後のデモ活動について考えを巡らせていました。今年の7月1日は香港の主権移行20周年でもあり、習近平が初めて国家主席として香港に来訪する日でもありました。毎年この日に、わたしたちはデモに参加していますが、公民的不服従を主張する組織として、デモ以外にも更に積極的な行動も行いたいと思っていました。7月1日よりも前に直接的な行動を起こすことによって、民衆が習近平の来訪を意識する空気を作り出し、返還記念日デモにももっと参加してもらえるのではないかと考えていたのです。

最終的に、わたしたちは「“ブラック”・バウヒニア行動」を決行しました。20年前、中央政府は香港に、香港の「永遠の繁栄」を象徴としてゴールデン・バウヒニア(編注:ハカマカズラ科の植物)像を贈りました。土台と柱は「中国が香港をやさしく包み込む」ことを表しています。わたしたちはこの“贈り物”を行動地点とし、香港の「偽りの繁栄を破り捨てる」ことを表そうとしました。もしも繁栄と強さが人権弾圧によってもたらされるものなのだとしたら、わたしたちはそんなものは必要としていません。あの日、朝6時、わたしを含む約10人の香港衆志メンバーが湾仔(ワンチャイ)にあるゴールデン・バウヒニア像に黒い布を被せました。警察側は事前にこの行動の情報をつかんでいなかっため、わたしたちは布を被せることに成功し、目標の行動を達成しました。

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▲ゴールデン・バウヒニア像に黒い布を被せる(撮影:jimmy lam)

「ブラック・バウヒニア行動」の後、わたしたちは他の団体と協議し、習近平の来訪前日に「ゴールデン・バウヒニア死守行動」をさらに計画しました。わたしたち香港衆志のメンバーを含む合計26人で、その日の夕方にゴールデン・バウヒニア広場に入りました。わたしは仲間と銅像の土台に座り込み、他の人は銅像の中に入り込み、再び「香港市民に真の普通選挙を」などのスローガンが書かれた黒い布を被せました。広場にいた警察は状況を察知するとただちに増援を要請し、しばらくしたらわたしたちは数百人の警察と無数のバリケードに囲まれました。当時は習近平がもうすぐ香港に到着する「デリケートな時期」ではありました。それでも、26人の平和なデモ参加者を数百人の警察を動員して取り囲んだということは、まさに政権が異見者を恐れているということを表しています。そして、銅像に座り込んでいるわたしたちは手をつなぎ、スローガンを叫びながら、警察に強制退去させられるのを待っていました。

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▲「ゴールデン・バウヒニア死守行動」の様子(撮影:jimmy lam)

公民的不服従の精神とは、自身が法を犯したらきちんと罰を受け、より多くの人にある事項に対して関心を持ってもらおうとするということにあります。つまり、公民的不服従の行動に参加したら、逮捕・裁判・受刑の覚悟が必要となるのです。あの日、わたしたちは一人ずつ逮捕・連行され、参加者であるわたしも「公衆妨害罪」で逮捕されました。

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▲警察に囲まれていくデモの参加者たち(撮影:jimmy lam)

警察署に着いてから、28日の夜8時頃、わたしたちは一人ずつ警察の監視の下、部屋に座らされました。そのときはまだ所持品は没収されておらず、警察に提供されたお弁当を食べて、テーブルの上でリュックサックを枕にして熟睡しました(普通の人はこんな状態で眠れるわけがないのですが、わたしは特別な例だと思います)。

ここでデモに参加し逮捕された場合の流れをおさらいしましょう。香港で逮捕され、拘留された場合、拘留上限は48時間となっています。48時間以内に起訴されない場合は釈放、された場合には法廷に向かいます。通常の場合、警察は拘留のあとにはできる限り早く事情聴取をして、保釈の手続きを行います。たとえば、以前デモに参加し数十人が逮捕された際には、大体数時間から十数時間後には釈放されました。なかなか釈放されない場合は、事件がとても複雑で時間を要するか、何かしらの情勢によって故意に引き延ばされているのです。

翌日の朝、わたしたちは一人ずつ身体検査をされ、所持品も一時没収されました。そして警察の案内により拘留室に向かいました。香港ではこの拘留室を「くさい部屋」と呼んでいます。拘留室では男女に分かれていて、一室に4〜5人が収容されます。今回逮捕された女子が6人いたのですが、最終的にわたしだけ別室で独立拘留されました。一人で拘留され、所持品も没収され、紙もペンもない状況で、わたしのできることは限られます。できるのは水を飲み、お手洗いに行き、提供されたお弁当を食べて、寝ることと、それから鼻歌を歌うことくらいです。拘留室の中にお手洗いはありましたが、洗面台はありません。お手洗いのあとに手を洗いたかったら、警察を呼んで洗面所に連れていってもらうしかありません。水を飲むときも同じく、鉄格子についているボタンを押して、警察が水を注ぎに来るのを待ちます。わたしは一人で十数時間拘留された後、別の女の子が釈放されたので、隣の拘留室に移動させられれました。そちらには他の女の子もいて、そのほうが管理がしやすかったからでしょう。

そのとき、参加者はすでに24時間以上拘留されていて、最初の20時間で3人しか事情聴取が行われていませんでした。これは明らかに通常のスピードではありません。わたしたちも弁護士も、これは習近平来訪時のトラブルを回避するため、事情聴取も、保釈手続きも行わない牛歩戦略だと判断しました。最終的に、外部及び弁護士を使い警察側に圧力をかけ、逮捕された30時間後にようやく保釈が許可され、6月30日の午前3時過ぎに釈放されました。31時間の拘留が終わり、翌日再び戦友と共に7月1日の返還記念日デモに参加しました。

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▲7月1日のデモの様子

今回が恐らくこの連載のなかで一番の長文になったでしょう(笑)。ここ一ヶ月に様々なことが起こり過ぎているくらいですが、これからもここで香港の状況を紹介していきたいと思っています。引き続きわたしたちの動きに関心持ってもらえるとうれしいです!

追記:

原稿を書き終えた後の7月13日、香港の高等法院から「香港衆志の党主席であるネイサン・ローを含む、例の4名の議員資格に関する判決を明日下す」という連絡を唐突に受けました。翌日、わたしたちは約30人で立法会事務室に集まり、テレビの前で判決を待ちました。最終的に、法廷は基本法と全人代の法解釈を引用し、宣誓内容に他の言葉を加えることは宣誓の形式と内容規定に反すると発表しました。また宣誓時に黄色い傘をさしていたことも、宣誓儀式の「荘重さ」の規定を満たさないとみなされ、4人は昨年の10月12日にさかのぼり議員資格を取り消されました。

判決内容に関して、わたしたちの見方と今後の方向については、また次回の連載でお話しさせていただきたいと思います。ただ今言えるのは、(元)行政長官と律政司長が議員資格に対し司法審査を行い、ついには合計6名の議員が資格を喪失するという結果に至ったということです。これはまさに現政権がわたしたちに残されたわずかな民主制度さえも握りつぶそうとしているということに他なりません。反対派議員の議員資格を剥奪するということは、おそらく日本では想像もできないことでしょう。中央政府は議会でも街中でも、全ての手を尽くして香港の積極的な民主派を弾圧しているのです。私たちの民主への道は、まだまだ険しいものとなるでしょう。

(続く)


▼プロフィール
周庭(アグネス・チョウ)

1996年香港生まれ。社会活動家。17歳のときに学生運動組織「学民思潮」の中心メンバーの一員として雨傘運動に参加し、スポークスウーマンを担当。現在は香港浸会大学で国際政治学を学びながら、政党「香港衆志」の副秘書長を務める。

前回:第9回 京都での人権会議と六四追悼
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