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ジョシュア・ウォン×周庭「香港返還20周年・民主のゆくえ」 質疑応答編

香港の社会運動家・周庭(アグネス・チョウ)さんの連載『御宅女生的政治日常――香港で民主化運動をしている女子大生の日記』。今回は2017年6月14日に東京大学駒場キャンパスで行われた講演「香港返還20周年・民主のゆくえ」の質疑応答編をお送りします。会場からの質問に答えながら、香港人としての民主を目指す思いを語ります。(構成・翻訳:伯川星矢)
※文中の役職は、講演当時のものです。
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政党を作るという決断、正しいことをしていると信じて

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倉田 大変興味を持ったことがありますので、私からいくつか質問をしたいと思います。学生運動は学生が卒業すると終わってしまうから、それを永続的にするために政党を作るという選択をしたというお話がありました。ただ、まだジョシュアくんも周庭さんも、現役の学生であり、立法会議員のネイサン・ローさんも学生です。私たち日本人から見て現役の学生が政党を作るというのはなかなか想像ができないことです。お金もかかるし、ものすごいマンパワーも必要なり、勉強の時間も犠牲にしなければならない。実際ネイサンも留年をしているようですね(笑)。また、学民思潮のようなインターネット上で広がった組織を、実体のある組織にしていくというのも大変な努力が必要だと思います。そのなかでなぜ政党を作るという選択肢にいたったのかお聞きしたいです。
 なぜ、香港に他にある既存の政党に入るという選択にならなかったのか。また、日本で若者が活躍していたSEALDsは政党を作るよりもすでにある政党と協力することを選びましたが、お二人はなぜ今ある政党と協力するのではなく、自分たちの政党を作るという方向性に行ったのでしょうか。その選択の理由を教えてください。

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周庭 どうして既存の政党に加入しなかったかというと、わたしたちの代表となるべき政党がなかったからです。公民的なことを目指す政党はあっても「民族自決」を主張する政党はありません。私とジョシュアが学民思潮に所属していたときに解散を検討したこともありました。でも、政治活動を続けたい人も多くいました。学連もありますが、首席を務められるのは一年だけです。だから、自分たちの政党か必要でした。

倉田 雨傘運動のあとに民主派という伝統的な集団に加えて、自決派、本土派と呼ばれるような様々なグループが出てきて、複雑な状況になっていますね。それぞれのグループ・主張の間にどのような違いがありますか。

周庭 民主派、自決派、本土派の違いには日本の政治環境とは異なる難しさがあると思います。まず、保守的民主派は親北京派と深い関係にあるがゆえに「一国二制度を守る」と主張しています。わたしたちの目指す「自決」とは香港市民が自ら未来を決めるということを意味しています。住民投票という方法を使って自分たちの未来を決められる状態が、民主自決です。香港にはその権利がありません。中国政府がそれを望んでいないからです。中国政府は一国二制度を主張する一方、同時にその破壊を進めています。
 本土派は「中国」と「香港」は違う個体だと主張していて、中国大陸から来る人々に対しても厳しい態度を取っています。わたしたちは香港に来た人は歓迎しますから、その辺りの考え方が違います。実は本土派はまとまっていなくて、去年も内部分裂していました。本土派で一番有名なのは青年新政です。議席を取り消された議員が2名所属しているのは、この青年新政です。まさか何万票もの得票で選出された議員がこういうふうになるとは……。こんな不公平なこと、日本では想像ができないと思います。

倉田 これからのDemosistoには大きく3つの路線があるということでした。議会での活動、国際社会とのつながり、あとは街頭での抗議活動。このなかでも街頭での抗議活動を当初から重要視されていましたが、それには恐らく社会の人々を駆りだすような状況が必要だと思います。政府の対応に左右される面もありますね。例えば雨傘運動に関して言えば、2014年9月28日に政府が催涙弾を撃つ対応を行い、これは結果的に非常に多くの人がこの運動に参加するきっかけとなりました。つまり、今の梁振英行政長官がタカ派であるということが影響していると思います。
 もうすぐ7月1日が来て、行政長官がキャリー・ラムになります。現状支持率も上がっているように見え、そうなると今度からは街頭にたくさんの人を動員するのは難しいのではないかとも思えます。それでも香港での抗議活動は続くと思いますか?

周庭 まもなく7月1日になり、非民主的な制度で選出された新しい行政長官が生まれますが、新旧の行政長官ともに中国にコントロールされている人ですから、わたしたちにとって大した違いはありません。キャリー・ラムはソフトな路線でいこうとしていますが、政策などはやはり中国共産党の態度次第になると思います。今度習近平が来訪するので、そのときのスピーチから彼の態度と意向も推測できると思います。

倉田 最後に中国との関係について聞きたいと思います。香港の社会は中国をないことにして生きていくことはできない。中国・香港の関係と活動への影響を教えてください。

周庭 先ほどから中国の政治的な影響についてお話をしてきましたが、中国の香港へのコントロールは経済、人口、土地にも関係しています。香港は毎日150人ほどの中国人移民を迎えていますが、この150という数は中国政府が決めています。
 ジョシュアも言っていましたが、中国からの膨大な資金が香港に流れ込み、それはメディアにも至ります。現在、ほとんどのメディアが中国マネーでコントロールされているのです。昔は英字新聞を買えばいいと言われていましたが、その英字新聞までもがいまや親北京派に買収されています。
 今回わたしたちが日本に来ることも親北京派の人々から批判されていました。そもそも親北京派の人は日本が好きではありません。彼らの目には私たちが日本人の反中感情を煽動しに行くように見えるようです。それでもわたしたちは今正しいことをしていると信じています。だから、これからも日本以外の場所でも香港の現状を伝えていきたいと思っています。

民主を目指す香港人として

質問者1 香港が今、ある意味危険な場所となっているなか、日本に来ても大丈夫なんですか? 香港に帰った後に何らかの嫌がらせを受けることになるのではないでしょうか。

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周庭 今週の金曜日にジョシュアが先に香港に帰り、わたしは土曜日に香港に帰る予定です。香港に入れないと家に帰れないということになるので、さすがに問題と言うか……大事件になります。だから、香港に帰るということについては大丈夫だと思いますが、外国に行くときには問題が起こることもあります。
 中国はよく「香港人も中国人の家族のような存在だ」「香港人も中国人だ」と言っています。だから、香港の若者が「いや、私たちは香港人です」と主張すると、良い気分はしないでしょう。でも、実はわたしたちは二人とも中国大陸に入ることができないんです。そこで考えさせられるのは、なぜ中国に入れないのに中国人としてのアイデンティティを強要されなければならないのか、ということです。本当におかしいなことだと思うのですが、「中国人だ」と言われるのに中国大陸にもマカオにも入れないのです。
 わたしは雨傘運動の前にはマカオに行ったことがありますが、多分今はもう入れないでしょう。ジョシュアはマカオや中国大陸だけではなく、シンガポールやマレーシアなどでも入国を拒否されています。みなさんは知らないかもしれませんが、台湾ひまわり運動の学生リーダーさんは香港に入国拒否されています。これは香港政府というよりも、中国政府の権力や影響力が強いために、台湾で中国政府が嫌がるようなことをしている人たち、学生リーダーが香港に入れない状態にされているということです。
 わたしたちもこのような待遇や安全問題に直面することが多くなると思います。でも、後悔は一切ありません。むしろ、やはりわたしたちが正しいことをしていることが証明されていることになると思っています。

質問者2 中国の香港に対する行き過ぎた行動を阻止するために、我々日本人はどのように働きかければいいのでしょうか。Demosistoの皆さんは国際社会にどのようなサポート、協力を求めていますか。

周庭 国際社会や政党、政府、民間でも、国際的なサポートとして協力していただけることはたくさんあると思います。例えば、少し前にアメリカの国会で香港民主人権法案が出たように、アメリカの国会では一部の議員さんが香港の人権状態に対して応援・対応をしてくれることがあります。アメリカでは国会の中でも香港の政治状態に影響を与えられるグループ・法案があり、これがもし他国にもあれば素晴らしいことだと思います。特に香港は元イギリスの植民地ですから、条約に基づいてイギリス政府にも果たすべき責任があると思います。
 アメリカでは以前に香港の人権状態に対して調査を行ったこともあり、他の国の機関でも同様の調査が行ってもらえればとても効果的なのではないか思います。日本とは、イギリスやアメリカのように歴史上そこまで深い関係はありませんが、香港で誘拐事件が起きた際など、日本の政党や政府からコメントや何らかの対応がしてもらえれば、国際社会の注目によって中国政府にプレッシャーをかけることができます。
 民間協力について言うと、例えば香港民間団体と台湾民間団体は頻繁に交流を行っています。過去10〜20年、香港の政党の人たちは言語の壁によりあまり日本との交流ができませんでした。わたしの日本語もまだまだ下手ですが、これから先、わたしたちも香港の団体代表として日本の民間団体との交流を進めていきたいと考えています。

質問者3 香港人や、香港人のアイデンティティは何に基づくものなのでしょうか。香港民族や香港語というものがあるわけではなく、宗教や民族で分けられているのではない。香港人が香港人たる所以は何だと考えていますか?

周庭  香港人とはなんだと聞かれると、とても答えづらいです。香港の歴史はものすごく複雑に交差しています。例えば昔の香港はイギリスの植民地でしたが、その植民地になる前はもちろん中国の国土でした。そのため、香港人のセンス・オブ・アイデンティティには中国やイギリス、香港自身といった様々なセンス・オブ・アイデンティティが入り混じっています。
 古来より香港は他民族・他文化が混ざり合っている街です。だから香港人を完全に定義付けるのはすごく難しいと思います。でも、その香港の独特な多様性を尊重し、香港を守りたいという考えがあり、さらに香港のために何かしたいという気持ちがあれば、これがまさに香港人が有する「センス・オブ・アイデンティティ」だと思います。

質問者4 一国の制度を維持していくためには、中国からの支援は不可欠なものになると思います。その観点から、民主的な選挙に関しては、交渉の材料としてどれくらい譲歩が可能なのでしょうか。例えば完全な普通選挙のみ受け入れる、もしくは段階的な民主選挙も受け入れられるのか、教えてください。

周庭 これは、民主について妥協ができるかという質問ですよね? 妥協って、本当にわからない。逆に、妥協とはどういう状態が妥協になるのか聞きたいです。
 例えば香港の保守的民主派が政府の主張を支持することは妥協の結果なのでしょうか? 7年前の2010年の時某保守的民主派政党のトップが中連弁(中央政府駐香港連絡弁公室)の事務所に入り、中の人たちと笑いながら写真を撮って、その後政府が提出した非民主的な選挙法案に賛成したことがあります。このような出来事にはわたしは絶対に納得できません。
 さっきの質問に戻りますと、妥協をするかどうかを考える前に、まずはわたしたちの主張を絶対に諦めないことが大事だと考えています。わたしたちの考えとしては、民主派が非民主的な法案に賛成することは絶対納得できません。そしてその考え方を諦めないこと、引き続き主張し続けることがとても重要だと思います。

質問者5 香港が民主的な選挙を導入することによって中国全体にとってはどんな影響があると思いますか。

周庭 香港に民主が実現すれば中国にも良い影響があると思います。中国のメディアはデモや事件の報道しない傾向があります。例えば雨傘運動のとき、中国で人権保護を主張している方や民主を支持する方が、ウェイポー(中国版ツイッター)で香港の雨傘運動を支持するメッセージを書いていました。ただ、このような政治的発言や、中国政府を批判するような主張をしていること自体が、中国独特の「民主」では問題になります。中国は言論の自由がない国なので、逮捕されることもあります。ただ、それでも中国の中で香港の民主運動に注目している方が大勢いるということです。
 毎年6月4日に行われる天安門事件記念集会に参加するために、多くの中国の方が香港を訪れます。そしてわたしたちに「頑張って」と言ってくれることもあります。もちろん、このように集会に参加する人は自分が大変な危険を冒しているという自覚があります。それでも中国政府が許せないがために、勇気を振り絞って香港の集会に参加しているのです。香港の民主運動が成功すれば、わたしたちに応援の声をかけてくれた方々のいる中国大陸、そこに住む人たちの考え方や、民主運動、そして民主制度に対する考え方にも良い影響を与えられると思います。

質問者6 雨傘において様々な組織の人たちが参入しました。例えば香港の反社会的な人たちも入って来たために、運動自体が乱れてしまい、香港社会から批判の声が挙がってしまった。これからも街中での活動を続けるとしたら雨傘の時のような混乱を避ける方法はありますか?

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ジョシュア 街頭での活動には不確定要素がたくさんあります。雨傘運動でいうならば、デモに参加するにあたって金銭のやり取りがあったこと、強制退去の際に反社会的な背景を持つと思われる人たちが現れたことなどが挙げられます。その中で体のぶつかり合いや暴力的な事件が発生していたのも事実です。
 もちろん今この段階で何かしら具体的な方法を出して、このような不確定要素を完全に防ぐ手段はありません。そもそも街中でのデモ活動の良いところは「無限の可能性」があることですが、それと同時にコントロールできない暴力的なことが起きうる可能性も無限にあるということです。
 私たちは非暴力という原則に基づきデモを行っています。デモを行う理由、そこに込められたメッセージを市民たちにクリアに届けるためには、いかなる状況でもこの原則を曲げることはできません。デモ活動に参加する理由や主張は人それぞれかもしれませんが、参加するからには原則を守らなければいけません。それを守らなければ、その後に残るのは背負いきれない負担と責任です。それを防ぐためにも原則に基づいた行動が必要となります。

質問者7 質問というよりもお願いになります。絶対に厳しい道が待っていると思いますが、やっぱり頑張りすぎないでいただきたいと思います。日本でもこのような正しいことを主張しようと頑張って、折れてしまった、あるいは折られてしまった若い方々がたくさんいます。ときにはダメだと思ったら撤退したり休んだり、諦めないのはいいのですが長い目でやっていただきたいです。休むときは休んでください。

周庭 休むときにはわたしたちもちゃんと休みます。例えばジョシュアも来月プレイステーション4を買うことをすごく楽しみにしています(笑)。私たち二人とも毎週日本のアニメとか、バラエティ番組とか、お笑い番組を見ていて、おかげですごくリラックスできています。
 ジョシュアは金曜日に帰るのでスケジュールが厳しいのですが、私が帰るのは土曜日の夜なので、土曜の朝と昼にはカラオケとスイーツバイキングに行く予定があります。ちゃんと休んでいるのでご安心ください。以上です。今日はありがとうございました。

(拍手)

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(了)

▼プロフィール
黄 之鋒(Joshua WONG)

1996年生まれ。政党「香港衆志」秘書長
2011年、「愛国教育」に反対する中高生の団体「学民思潮」を結成し、その召集人を務める。デモや集会によって政府に「愛国教育」の必修化撤回を迫り、注目を集める。2014年9月には、中国政府が提案する限定的な普通選挙案に反対し、授業ボイコットや集会を指導、「雨傘運動」の火付け役の一人となり、米「タイム」誌の表紙を飾る。2016年4月に新政党「香港衆志」を結成、秘書長となり、同年9月の立法会議員選挙では大学生の羅冠聡を擁立して当選を実現。現在、香港公開大学に在学中。2017年8月、「雨傘運動」のきっかけとなった政府前広場の占拠事件に関し、違法集会罪に問われ懲役6ヶ月の刑を受け服役。現在、終審法院(最高裁)に上訴し、保釈中。

周 庭(Agnes CHOW)
1996年生まれ。政党「香港衆志」常務委員
黄之鋒らの「学民思潮」に加わり、スポークスパーソンとして活躍。独学で日本語を学び、テレビ東京など多くの日本メディアにも登場。「香港衆志」にも結党当時から副秘書長として参加。現在、香港浸会大学に在学中。

倉田 徹(くらた・とおる)
1975年生まれ。立教大学法学部政治学科教授。
2008年東京大学大学院総合文化研究科博士後期課程修了。03年から06年まで在香港日本国総領事館専門調査員。日本学術振興会特別研究員、金沢大学人間社会学域国際学類准教授、立教大学法学部政治学科准教授を経て現職。専門は現代中国・香港政治。著書に『中国返還後の香港』(名古屋大学出版会、09年、サントリー学芸賞受賞)、『香港-中国と向き合う自由都市』(岩波新書、15年、張彧暋〈チョウ・イクマン〉と共著)など。

前回:第11回 議員資格剥奪・収監・反権威主義運動
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