見出し画像

いま必要なのは「松本人志的なもの」を批判しつつ「第二の松本」を生まない仕組みづくりをすること、だという話

 ちょっとこの数日は果てしなく忙しく、更新が3日ばかり滞り申し訳ないです……。いろいろ事情があるのだけれど、一番の理由はこの本日25日が下記の「楽天大学ラボ」のオープン日で、いろいろ詰めていたからだ。

これは楽天市場の出店者を対象にした「学び」のコミュニティ「楽天大学」の一部……なのだけど、外部の人も普通に(しかも無料で観られる)動画チャンネルだ。

「暮らし」をテーマに、僕たちの身近な衣食住や働き方について、取材し、考える動画を月に3〜4本公開してく、というのを考えている。僕はこの「楽天大学ラボ」のアドバイザーに就任して、個人的にはPLANETS本体ではちょっと毛色が違って扱いづらい生活やビジネスといったテーマを扱えたらいいなと思っている。あと、せっかく楽天市場とコラボレーションするのだから、地方取材企画はには力を入れたい(さっそく熊本に年末に出かけてきた模様が、本日公開の動画にまとまっている)。

 リリース日に公開された動画は3本で、この企画の「黒幕」である楽天の松村亮さんとのオープニングトーク、先程触れた熊本県戸馳島の「農家ハンター」の取材動画、そしてけんすうこと古川健介さん、篠田真貴子さんとの「クリエイティビティ」をめぐる鼎談だ。


 それぞれ、これを無料で公開してもいいのか……とびっくりするような充実した内容なので、ぜひ目を通してもらいたい。(「バズる」ことを目的にしたコンテンツではないのだけど、あまりに観られないと悲しいし、何より内容は自身があるので……!)

 さて、その上で今日取り上げたいのは打って変わって例の松本人志の問題だ。僕は以前から公言してる通り人生で一度も彼の芸が面白いと思ったことがなく、その人となりも知らない。
 端的に報道が事実なら、その罪を償うべきだと(当たり前すぎる意見だが)考えていて、それ以上の感想はない。ただ、この件がこの国にいまだに残存する悪しきホモ・ソーシャルの典型例であり、お笑い業界に限らずどうやってこの種のコミュニケーションを社会からアインインストールするか、という問題にはとても強い関心がある。
 
 たとえば、僕がうんざりして縁を切った思想や批評の業界の一部では、いまだに取り巻きがボスの機嫌を取るためにボスの敵をあることないことを含めて中傷し、ボスはそれをいインターネット中継してイジメの快楽をシェアし、換金するというどうしようもなく陰湿な行為がまかり通っている。これは若手芸人が松本に女性を「上納」していたシステムにソックリだと思う。  
 そして、大手の新聞社や出版社の一部の人たちは、こうした「いじめ」ビジネスの実態を知っているくせに、目先の数字や業界内の「おつきあい」を理由にこれを黙認している。

 これと同じように常識的に考えて、松本の一連の性暴力が事実なら、テレビ局のバラエティ担当や吉本興業の社員にそれを知らない人がまったくいなかったとは到底思えない。つまり、この種の陰湿なホモ・ソーシャルは芸能界や言論界だけではなく、この国のあらゆる所に残存しているのではないかと思う。そして、マスメディアを中心にそれを知っていながらも黙認し、慣習的に消極的な支持を与えている「業界」も多い(というか、そういった「黙認」こそが、この集団的暴力を支えているのだが)。
 僕は松本個人に対する関心は決して高くないのだが、「世間」の潤滑油としてこうした「いじめ」と「暴力」を是認してきた自称「大人」たちの文化が、もう通用しない/させてはいけないというコンセンサスがこの社会に定着するべきだと考えている。

 そしてその上で、もう一つ考えるべきことがあると思う。それは自民党の「裏金」問題にも通じることだと思うのだが(ちなみに、僕はこのけんについても端的に徹底追求が必要だとベタに考えている)、「空気」による「私刑」をどこまで必要悪として是認するべきか、という問題があると思うのだ。
 
 誤解しないで欲しい。僕は松本人志が報道が事実なら潔く罪を認めるべきだと考えるし、どの業界にもいる「松本的に」振る舞う「業界のボス」は正しく軽蔑されるべきだと思うし、自民党の裏金問題に対する追求の手を緩めるべきではない、と思う。そして結論から述べると、「そう考えるからこそ」週刊誌や検察の「空気」に対する支配力が強くなりすぎることを抑制する準備を怠ってはいけないと思うのだ。

 本当に誤解しないで欲しい。僕は松本や自民党を擁護したいなど、一度も考えたこともない。だが、今回に関しては大きな役割を果たしてくれたこれらの回路を、社会に活かし続けるためにも、この「空気の支配」は強くなりすぎないほうがよい、と考えるのだ。

 僕がそう思ったのは、あるタレントの松本批判の発言だ。

ここから先は

1,316字
僕はもはやFacebookやTwitterは意見を表明する場所としては相応しくないと考えています。日々考えていることを、半分だけ閉じたこうした場所で発信していけたらと思っています。

宇野常寛がこっそりはじめたひとりマガジン。社会時評と文化批評、あと個人的に日々のことを綴ったエッセイを書いていきます。いま書いている本の草…

僕と僕のメディア「PLANETS」は読者のみなさんの直接的なサポートで支えられています。このノートもそのうちの一つです。面白かったなと思ってくれた分だけサポートしてもらえるとより長く、続けられるしそれ以上にちゃんと読者に届いているんだなと思えて、なんというかやる気がでます。