不定期連載コラム『君はジャズなんか聴かない』第3回”聖者ビヨンセの行進”

こんにちは。いかがお過ごしでしょうか?壁花男です。

コーチェラ・フェスティバル2018でのビヨンセのステージ、皆さん観ましたか?とんでもなくヤバかったですね!!

「ビヨンセはコーチェラそのものより偉大だった」。ビヨンセのコーチェラが歴史的だったと米メディアも驚愕+大絶賛。 (中村明美の「ニューヨーク通信」)−rockinon.com|  https://rockinon.com/blog/nakamura/175217

上の記事に概要が書いてありますが、私はこのショーを”アメリカン・ブラック・ミュージックの大総括”だと感じながら観ておりました。まさにHistory's Making!R&B、ソウル、ファンク、レゲエ、ヒップホップといった黒人音楽のエッセンスが史上最強のディーヴァ、ビヨンセの身体に濃縮還元されて母乳のように溢れ出たわけです。(にしても、双子のママになってからますます神々しくなりましたよねえ…。)

このステージ、私が何より感動したのは『マーチング・バンド・ジャズ』がテーマだったことです!

おそらく、ジャズ好きでない方は

(大人数で楽器演奏しながら踊ったり行進したりしてすごいなー。吹奏楽部がこういうのやってるの観たことあるなあ。それの超すごいバージョンじゃん。)

と感じたのではないのでしょうか。その感想、正しいです。しかし一方で実は音楽的にも政治的にも非常に深くて重いメッセージを含んだパフォーマンスだったんですね。(単純に誰が観ても楽しいエンタメとしても成立させているのが凄いところですが。)

話は少しさかのぼります。ビヨンセは2016年に強烈なポリティカル・メッセージを含んだシングル曲、”フォーメーション”を発表。ロケ地はニューオーリンズ。沈んでいくパトカーの上で挑発的にポーズを取るというミュージック・ビデオを撮っています。

Beyoncé - Formation(2016)
https://youtu.be/WDZJPJV__bQ

What happened at the New Orleans?
(ニューオーリンズで何が起こったのか知ってる?)

という問いかけから始まるこの曲は

・白人と黒人の混血であるビヨンセ自らのアイデンティティを吐露

・いまなお続く黒人差別/女性差別撲滅のための団結を呼びかけ

・2016年に起きた、警官による黒人射殺事件に抗議

・ハリケーン”カトリーナ”が猛威を奮った際、警察の不手際でニューオーリンズの黒人居住地域で多くの死者が出たことに対しての追悼と復興への祈りと怒りのメッセージを表出

これらを同時に成し遂げているという、とんでもない曲です。あまりにもトンがった内容のため大賛否両論が巻き起こりました。

さあ、コーチェラのビヨンセのパフォーマンスがなぜ『マーチング』をテーマとしたものだったのか?それは

”現代黒人音楽のルーツの一つであるジャズがニューオーリンズのマーチング・バンドから誕生したもの”

だからです。これは間違いなく意図してやっています。すごいぞ。ビヨンセ。すごすぎるぞ。


さて、毎回前置きが長いことでおなじみのこのコラム!第3回にあたる今回はジャズのルールについてお伝えする予定だったのですが、ビヨンセがあまりに凄かったため、予定を繰り上げて「ジャズの誕生」についてお話させて頂こうと思います。毎度アドリブですいません。でもそれがジャズだよね、ってことでお許しください。

さて、ジャズはどこでどうやって産声を上げたのか?

1862年7月の奴隷解放宣言以降、(名目上の)自由を手に入れた元・黒人奴隷たちが、アメリカ南部の港町ルイジアナ州・ニューオーリンズで始めた音楽が”ジャズ”である

というのが定説となっています。

当時のニューオーリンズは、アメリカ政府公認の売春宿がある歓楽都市でした。現代においてもそうですが歓楽都市とエンタメは切っても切れない関係にあります。(日本においても遊郭吉原の近くは浅草で落語、両国で相撲などの大衆娯楽が発達しました。)奴隷ではなくなった黒人たちは自由を得た反面、自分たちだけの力で食べていかないといけなくなりました。ニューオーリンズ内のストーリー・ヴィルと言う名の風俗街においては、ダンスホールや酒場などで歌ったり楽器演奏したりすることを生活の糧とする黒人たちが現れます。はてさて、お金のない元・奴隷たちがどうやって楽器を手に入れたのでしょう?

そこに南北戦争の終結が関わってきます。不要になった軍楽隊の楽器が二束三文で売られていたのです!ジャズで使われる楽器が、ピアノやドラム、トランペットやサックスなのも、もとはと言えば軍隊のマーチングなどに使われていた楽器を流用していたからなんですね。

余談ですが、時代が下ること1977年。ニューヨークで大停電が起こります。黒人居住地域の人々は混乱と暗闇に乗じてありとあらゆる商店を襲い、強奪を行います。それほど当時の貧困が酷かった、ということですね。その中の一部の音楽好きたちは、電器屋からターン・テーブルやミキサーなどのDJ機材を盗みまくりました。このことがヒップ・ホップの流行と発展に大きく影響したと言われています。ブラック・ミュージック発展の裏にはいつも歴史的事件と貧困が関係している!

話を19世紀終わりのニューオーリンズに戻しましょう。当時、音楽的な教育をしっかり受けている黒人はほとんどいませんでした。楽譜を読むことができず、アフリカ由来の素朴な音楽をやっていたようです。さあ、ここでクレオール(Creole)と呼ばれる人たちが関わってきます。

クレオールとは  wikipediaより引用
ルイジアナ州におけるクレオール (Louisiana Creole people)とは、1803年のルイジアナ買収によって米国の一部になる前の、フランス領ルイジアナ時代の移住者を先祖に持つ全ての人種及び異人種間の混血の人々

ざっくり言えば、フランスやスペイン系の白人と黒人の混血の方たちなんですね。彼らは、奴隷制度下では白人に準ずる扱いを受けており、ある意味特権階級としてそれなりに豊かな暮らしを送っていました。ヨーロッパ由来のクラシック音楽の素養がある人たちもたくさんいたんです。ところが、奴隷解放宣言後は特権を失ってしまい、今度は逆に差別を受けるようになってしまった。そして職にあぶれたクレオールたちが、前述のストーリー・ヴィルの黒人ミュージシャンたちと関わりを持っていくのです。アフリカン・アメリカンの素朴な音楽と、クレオールたちのクラシックの素養が合わさったもの、それが”ジャズの赤ちゃんだったと言われています。

ではニューオーリンズ・ジャズの代表曲、ルイ・アームストロング*の"聖者の行進 When The Saints Go Marching In ”を聴いてみましょう。

Louis Armstrong - When the Saints Go Marching In(1938)
 https://youtu.be/3DoPvujMaZE

元々は死者を弔うための葬送曲です。アフリカン・アメリカン由来のブルージィな雰囲気と、クレオール経由、白人由来のクラシカルな要素をなんとなく感じませんか?

この曲を聴いてからコーチェラでのビヨンセのパフォーマンスを観ると、また印象が変わるのではないでしょうか。ニューオーリンズ・ジャズへの惜しみないリスペクトが注がれています。そして、ビヨンセにはクレオールの血が一部流れているのです(!)

コーチェラ2018のビヨンセのショーはまさに

聖者ビヨンセが、これまで虐げられて来た黒人たち(もっと言えばありとあらゆるマイノリティたち)を、”死者を弔う時には明るく楽しく行こう”というニューオーリンズの礼儀に則って葬送する、弔いと決意の大行進であった。

というのが私の解釈です。いやー、そんなに色々背負ってしまって大丈夫なんですかね。ビヨンセ。

今回はジャズの誕生について、簡単にお話をしました。

次回は今度こそ、ジャズのルールについてお話したいと思いますが、予定は未定です。前置き的に言っておくと、今回お伝えしたビヨンセのショーが”これが黒人音楽だよ、全員集合”として成立できたのは、ジャズを始めとしたブラック・ミュージックが

繰り返し(ループ)と積み重ねの音楽である

ことが大きく関わっていると私は思います。黒人音楽は前時代の音楽を尊敬こそすれ、決して捨てないんですよ。ヒップ・ホップでも”リスペクト”ってやたら言いますし、昔のレコードからサンプリングしてトラックを作るのが基本ですよね。だから黒人音楽は、全部混ぜても音楽的に成立するんです。一方で(もちろんざっくりした分け方ですが)クラシック、フォークやロックなどの白人中心のポピュラーミュージックは

破壊と脱構築の音楽である

というのが私の考えです。前時代の音楽をダセエ、と言ってぶっ壊したりすぐ捨ててしまう傾向があります。そのため、”白人音楽だよ、全員集合”ってなかなか難しいんですよ。やれるとしたら誰でしょうね?アデル?エド・シーラン?うーん。ビヨンセと並ぶような壮大なステージは難しそうです。

次回は黒人音楽のルーツの一つであるジャズが、なぜ繰り返し(ループ)と積み重ねの音楽であるのかも含め、簡単にルールをご説明できればいいなあ、と思っております。

ではまた次回!

*ルイ・アームストロング
名曲”この素晴らしき世界(What A Wonderful World)”におけるダミ声を誰もが一度は聴いたことがあるのではないでしょうか。愛称サッチモ。「ブランド着てるやつもうgood night」でお馴染み、Suchmosのバンド名もサッチモからとっているそうです。誰にも真似の出来ない歌心に溢れたトランペットの音色と、ユーモラスなガラガラ声で、満面の笑顔をもって私たちに愛に溢れた音楽を届けてくれた、最初のジャズ・レジェンドの一人です。


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壁 花男

不定期連載コラム『君はジャズなんか聴かない』

アラサーのミーハーなジャズ愛好家がジャズ初心者に向けてジャズを楽しむのに必要なほんのちょっぴりの”教養”について解説していきます。
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