【ぶんぶくちゃいな】新春「プライバシー」大戦争

中国のスマホアプリ周りが正月から騒がしい。

最初は、登録ユーザー数が10億人に近づいているSNS「微信 WeChat」(以下、「WeChat」)だった。

1月1日、中国の大企業トップが集う会「正和島」が主催する新年パーティの席上で、挨拶に立った自動車メーカー「吉利汽車」グループの李書福・董事長が、「現代を暮らす我々はほぼ透明な存在だ。プライバシーも情報も(丸見えで)安全ではない」とセキュリティ問題に触れた。続けて、「わたしが思うに、馬化騰は絶対にわたしたちがやりとりしているWeChatを毎日読んでいる。だって、彼にはそれができるからだ。彼が好き勝手に読める、これは大きな問題だ」と述べた。

ここで名指しされた馬化騰(ポニー・マー)とは、WeChatを運営する「騰訊 Tencent」(以下、テンセント)のトップである。李氏は続けた。「この問題にわたしは苦しんでいる。というのも、我われの商業秘密の多くが他人の目に触れているということだから」。そして、この問題が解決しなければ、中国企業がグローバル競争に参与するときの弱点になる、と続けた。

李氏がいかなる根拠を持ってこんなことを口走ったのかは明らかになっていない。だいたい、商業秘密をWeChatでやりとりするということ自体が、「ネット素人さん」だな、という印象だ。加えて、10億人近いユーザーの書き込みを、たとえそれが著名企業家のアカウントだからとして、自身も企業家として忙しいマー氏が毎日読んでいるとは、常識から言ってありえない。だが、李氏がふと口にした「ポニー・マーが我われのメッセージを毎日読んでいる」が、じわじわと人びとに恐怖を呼び起こした。

4日になってテンセントは、「WeChatではユーザーのチャット内容を記録したり、分析することはしていない。我われが毎日書き込みを読んでいるという噂は誤解にすぎない」と、さすがに著名企業家である李氏の名前は出さなかったが、メディアの問い合わせにやんわりとそれがデマであると答えた。

中国のセキュリティ関係者も、「WeChatはSSLと呼ばれる暗号通信システムを採用しており、たとえハッキングを受けても、ユーザー情報を取得するのは難しい」と解説。チャットの中身を読むには、目標のユーザーのアカウントやパスワードを盗み出して直接のぞき見るしかないはずだと説明している。

●アリペイ:「不同意」なしの「同意」とは?

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