【ぶんぶくちゃいな】ハイエンド人材誘致競争:大事なのは頭脳か、頭数なのか

日本ではあまり話題にはなっていなかったが、1月初めに中国政府が日本と韓国が中国からの到着便の乗客に対して全員強制PCR検査を実施することに対して「差別だ。こちらも相応の措置を採る」と声を上げた結果、香港の航空会社はそれに協力する形で日韓への直行便を急遽大幅減便した。

日本でそれが大して話題にならなかったのは、日本人の目が大きな声を上げた中国に向けられていたからで、全員PCR検査実施対象ではなかった香港との往来便がなぜに減少するのか、メディアも含めてあまり気づいておらず、その背景が報道されなかったからだ。もちろん、 日本の空港や旅行業界関係者は当然気づいていたはずだが、予定されていた便が突然キャンセルになったりしたことへの対応に追われる一方で、ここで騒いでやっと再開した海外往来を冷却化させたくないという思いがあったのではないか。

だが、突然の日本往来便減便は、香港社会から悲鳴が上がった。12月末に3年ぶりの隔離や検査なしの日本往来が再開すると、多くの人たちがクリスマス、そして元旦前後の休日、さらには1月最終週の旧暦正月に日本旅行を予定していたからだ。予約したはずの飛行機が一方的にキャンセルされ、出発直前に旅行が取り消しになった人、あるいはすでに日本入した人で香港に帰る便が取り消されたため、大騒ぎというケースも。そして、多くのツアー会社が「3年ぶりのかきいれどきなのに、旧暦正月休みの日本向け観光ツアーは航空料金の値上がりと座席難で実施を断念せざるを得ない」と嘆いた。

香港人にとって、日本はここ10年あまりトップ旅行目的地となっている。コロナ前の2019年に日本を訪れた香港人は229万人と、約750万人(当時)だった人口の約3分の1が訪れた計算になる。もちろん、欧米や東南アジアも元来人気訪問先ではあるものの、香港人にとって日本ほど「集団記憶化」している土地はほかにはない。だからこそ、コロナによる厳しい往来規制期間中にはじわじわと「日本行きたいムード」が高まり、爆発しかけていた。だから、往復便減便による旅行キャンセルは、たとえ払い込んだお金が戻ってきても人々に大変手痛い思いをもたらした。

もちろん、大量の減便すら知らない日本人は当然、そんなこと知らないんでしょうけれども。ちなみに、日本の農産物の輸出先ナンバー1は香港であることも知られていない。人口わずか750万人(2019年当時)の香港が日本の農作物をどこよりもたくさん輸入しているのだ。その「重要性」はもっと語られても良いはずだと思う。

そんな日本が2月17日に高度外国人材受け入れのための新政策を発表したことをわたしが知ったのは、そんな香港人たちのSNSでの書き込みだった。米国やシンガポールなどの人材誘致政策発表のときにもそこまで香港人の間で話題沸騰したという記憶はない。

「そりゃ日本人のあんたのSNSには、日本に関心がある人が集まってるからでしょ?」と思うかもしれないが、わたしは海外に出てまで「日本好き」を掘り起こしてお友だちにする趣味はない。そこにいるのはわたしの30年来の友人だったり、あるいはその後「香港の話題」でつながった人たちだった。そんな彼らの間での注目斑は前述したような一般的な日本に対する親近感のほかに、その条件が欧米やシンガポールより「ハードルが低い」ことにあった。

●日本の高度人材誘致発表に驚きの声

ここから先は

6,868字
この記事のみ ¥ 500

このアカウントは、完全フリーランスのライターが運営しています。もし記事が少しでも参考になった、あるいは気に入っていただけたら、下の「サポートをする」から少しだけでもサポートをいただけますと励みになります。サポートはできなくてもSNSでシェアしていただけると嬉しいです。