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太平洋に進出できない中国

■定まらぬ戦略
 中国はアメリカと覇権争いをしているのは事実。中国は南シナ海とインド洋の覇権拡大に成功している。だが太平洋の覇権争いに関しては成功していない。これは台湾・日本・アメリカによる妨害があるとしても、中国の戦略が定まらないことが原因。

■原則
 欧米軍が用いる基本的な思考の一つにジョミニの原則が有る。そして第二次世界大戦当時のアメリカ海軍は、ジョミニの原則を用いて日本海軍に対抗した。

ジョミニの原則
1:主力を戦場の決勝点か、または敵の後方連絡線に対して継続的に投入する。
2:我軍の主力を敵の個別の戦力と交戦するように機動させる。
3:戦場において我軍の主力を決勝点か敵の緊要箇所に対して打撃させる。
4:主力は決勝点に投入されるだけではなく交戦のために準備する。

 敵軍撃破だけではなく、敵軍に補給を行う後方連絡線を継続的に遮断することは原則の一つ。実際に第二次世界大戦当時のアメリカ海軍は、潜水艦を用いて日本軍の後方連絡線を遮断している。

■攻勢か防御か
 中国の南シナ海とインド洋への覇権拡大は攻勢。このため戦略方針と覇権拡大の実行が一致しており、確実に覇権拡大は成功している。だが中国の太平洋方面の戦略は、明らかに攻勢と防御の矛盾する方針が存在している。

 戦略方針は一つであり、複数存在すると第二次世界大戦の日本軍の様に作戦が迷走する欠点を持つ。しかも海戦と空戦は陸戦とは異なり攻勢しか行えない特徴を持つ。

陸戦   :必要性の世界・持久戦と決戦
海戦・空戦:可能性の世界・決戦のみ

 陸戦は燃料が尽きても、その場に留まれる。だから土地の占領ができるし、近くから水と食料を手に入れることも可能。このため陸戦は必要性の世界で思考する。それに対して海戦と空戦は異なる。

 海戦で燃料が尽きれば海を漂流する。空戦では燃料が尽きると墜落する。そのため燃料が尽きる前に基地に帰還しなければならない。このため海戦と空戦は可能性の世界で思考する。

 陸戦はその場に留まれるので土地を占領可能。だが海戦と空戦は占領できない。代わりに海戦と空戦は、基地から何度も戦場を往復して優先的に利用する。これで海戦は制海権を獲得し、空戦は制空権を獲得できる。

 端的に言えば、海戦と空戦は大小の決戦しか存在しない。だから海戦と空戦は常に攻勢的な戦略しか存在しない。だが中国海軍は、アメリカ海軍が接近すると段階的に戦力を減らしながら迎撃する構想を持っている。

 これは陸戦では成功するが海戦・空戦では成功しない。第二次世界大戦前の日本海軍は、日本に接近するアメリカ海軍を段階的に迎撃し、日本付近で決戦してアメリカ海軍を撃破する構想を持っていた。これも陸戦思想で、実際には海戦思想の原則を使うアメリカ海軍に敗北した。

■海戦思想に合致していない
 中国海軍の太平洋進出が成功しない理由は、ジョミニの原則は正しいが海戦に陸戦思想を持ち込んでいることが原因。海戦と空戦は基地から継続的に往復して敵軍を撃破する。これで制海権と制空権を獲得することを戦争史が示している。

海軍戦略=艦隊+基地ネットワーク
海洋戦略=目的(制海権の獲得)・手段(敵艦隊+敵基地ネットワークの破壊)・方法(艦隊と基地ネットワークの造成)

制海権=艦隊+基地ネットワークの継続利用。
制空権=戦闘機隊+基地ネットワークの継続利用。

 海戦に適合した戦略ならば、中国の陸空海軍は台湾を占領して基地化しなければならない。次に沖縄を占領して基地化することで、方法としての基地ネットワークが成立する。中国海軍は太平洋に進出する構想を持っていることは知られている。だが中国海軍は、海洋戦略を成立させる方法を満たしていない。だから南シナ海とインド洋では進出に成功するが、太平洋方面の進出に成功しない説明になる。

■中国は張子の虎なのか
 中国海軍が太平洋に進出する鍵は台湾占領。中国は常に台湾を威嚇するが台湾占領を実行していない。中国の陸空海軍は強化されたのだが、台湾を占領するまでには至らない。台湾軍の戦力は強力とは言えないのだが、中国への抑止力になっているのは事実。

 最近アメリカは台湾軍が使用するF-16戦闘機の強化とパイロット訓練を行うとしている。この程度の支援で中国軍を抑止できるとすれば、中国軍は張子の虎なのかもしれない。

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