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明るい破壊者

 中畑清が監督を辞める! 
 そう聞いたとき、最下位だし仕方がないな、という気持ちと、辞めてしまうのは余りにも寂しいな、という気持ちが交錯した。

 長すぎる暗黒時代に多くのファンが苦しむ中、DeNAというベンチャー企業と中畑清という指揮官は颯爽と現れた。何とも不釣り合いな組み合わせだが、ポジティブなマインドの持ち主という点では共通しており、それが功を奏したと言えよう。
 就任以降の4年間で横浜スタジアムの雰囲気は変わった。フロントは変革の意志を行動で示し、ファンも「どうせ○○できないよ」という空気を醸し出すのを止めた。そのサイクルに、中畑監督率いるフィールドの選手たちも応えていった。

 中畑清という指揮官を一言で表すならば「明るい破壊者」である。それは、長嶋茂雄のバックボーンを受け継いだ貴重な男だということも意味している。
 中畑がかつて所属していた読売ジャイアンツの野球は、川上哲治のイズムを本流としている。川上から藤田元司へ、そして彼の教え子だった原辰徳へ。黄金時代が定期的に継続されているのも肯ける話だ。
 一方、いかにも読売ジャイアンツの選手らしい王貞治と長嶋は、監督としては亜流だった。王の野球は福岡で花開いた。秋山や工藤といった後継者も着実に育っている。
 しかし、長嶋の後継者は育っていない。病床に伏してしまったのも痛かった。いや、そもそも長嶋という「あまりにもオンリーワンすぎる存在」の前では、誰しも引き継ぐことは不可能なのだ……。

 そう思っていた中で、中畑清という継承者が突如現れたのである。

 残念ながら、勝利数の上では長嶋ほどの成果を生み出せなかった。圧倒的な勢いで魅せる大味な野球。それは読売ジャイアンツだからこそできたのかもしれない。着任時に更地と化していた横浜の小さなチームでは、厳しすぎる条件だった。
 しかし、我々の中では勝利以上のものが心に残っているのだ。更地に何かを築けたわけではない。でも、中畑は我々の心の中にある「更地から目を背けるマインド」をぶっ壊したのだ。だからこそ、我々は中畑清という指揮官を愛した。

 中畑が去ることに寂しさを感じる人は多いだろう。でも、ベイスターズは次のフェーズを目指さなければならない。
 そして、中畑清の指揮官としてのキャリアはもう終わってしまうのか? いや、世の中には未来が見えず、苦しむ人々が必ずどこかにいるものだ。そんな人々のために、これからも「明るい破壊者」の物語が付与されることを願っている。

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※本稿は拙著「スタジアムの言い訳②」にも収録されております。本日、読売ジャイアンツ方面で大きなニュースがあったので、この原稿を引っ張り出して来た次第です。明るい破壊者が出てくる機は熟した…かも?

どうもです。このサポートの力を僕の馬券術でウン倍にしてやるぜ(してやるとは言っていない)