【PTA回想録(8)】「活動方針」づくりで考えたこと

(前回)【PTA回想録(7)】会長になって最初にやったこと より続く..

PTA会長になって,最初の仕事として着手したのが,会の行動指針たりうる「活動方針」を作ったことでした.今回は,そのときのことを振り返ってみたいと思います.

まず,第一に考えたことは,これを目にしたお父さん・お母さんが,「子どものため」という重圧を感じないこと,でした.人の親をしばらくやってみて感じるのは,「子どものため」というワードは,わが国の親にとっては「殺し文句」であることです.なかなか表現するのが難しいのですが,この国では「親ならば,子どものためには膨大な時間とエネルギーを使って当然」という空気がまん延しているように感じます.そもそも,人の親である前に一人の大人であり,人間なわけですから,個々にできることには限界があり,その限界には個人差があります.個々の大人の「キャパシティー」に限界と個人差があるからこそ,「子ども(わが子)のため」に個人が行動することよりも,「(わが子を含む)子どもたちのため」に大人の集団が行動する方が,一人ひとりの負担も小さくできるでしょうし,子どもたちの成長に対する効果的な貢献ができる,と思っています.保護者の皆さんの中には,「子どものためになりたいけれど,いろいろな状況がそれを許さない」方もいらっしゃるわけですから,そのような方がつらい思いをしないような会にしたい,という思いもありました.

次に考えたのが,「学校の主役は,子どもたちと教職員である」という原則を貫き,保護者は主役を応援する「脇役」の立場に徹すること,でした.わが国のPTAに関する情報の中には,「簡単には真似のできないスペシャルな事例の紹介」も多く,「大人が組織する会が,大人の心を満たそうとするあまり,子どもたちや学校がどこかに吹き飛んでしまっているのでは?」と感じるものも少なくないように思います.私は,PTAは,子どもが通学する学校という共通項だけでつながる大人たちの会だと思っているので,やはり子どもたちや学校あっての会であり,会の活動であることを忘れないようにしたい,と考えていました.私自身は,保護者は「すばらしい舞台をつくることができたことの喜びを静かに分かち合い,誇りに思う」ことで十分であり,すばらしい舞台での誇らしい成果は子どもたちと教職員・学校が手にすべきもの,だと思っています.このことは,保護者の負担軽減,という観点からも有効だと考えています.

三点目は,会として大切にしたい「人のつながり」を明確にすること,でした.「人のつながり」というと,主に「保護者同士のつながり」をイメージしてしまいます.どうもわが国の親は,「お父さん」「お母さん」というだけで,満たすべき条件がいくつも列挙できてしまう状況にあるように思っています.でも,先にも述べたように,すべてのお父さん・お母さんが,同じことを同じように対応できるわけではなく,この「同調圧力」がすべてのお父さん・お母さんを苦しめているように感じています.親として最低限やるべきことはあるとは思いますが,子どもに対して,どんなことを,どの水準で,どんなふうに対応するか,は,お父さん・お母さん一人ひとりが考えて,選択し行動すれば良いのです.それゆえ,「人のつながり」と言ったときに,「同調圧力にさらされるような人のつながり」なのではなく,多様な個性の尊重やソーシャル・インクルージョンに対して配慮した「人と人とのつながり」を追求したい,と考えていました.また,「人のつながり」は,濃密な人間関係を想起させないよう,情報交換や情報共有といった具体性のある言葉を並べて,子どもの学校生活に関する情報が相互に気軽にやり取りできる程度の「人のつながり」づくりを目指したい,と思っていました.

なお,「人のつながり」といえば,大人同士の親睦,がパッと思い浮かぶと思います.ただ,私は,保護者同士や先生との親睦を深めることは大切なこととは理解していますが,子どもたちや学校を中心に考えれば,大人の「親睦」よりも「相互信頼」の方が重要だと思っています.親睦を深めるにしても,その先に「相互信頼の構築」がゴールとして設定されている必要があるでしょう.それゆえ,活動方針の中で「相互の理解や信頼を深めること」を明記することにしました.

四点目は,「大人の楽しさ」や「快適さ」だけを追求するのではなく,大人が集う会として「より良いもの」を追求することを軸に据えること,でした.PTAは保護者が中心となって運営している会なので,どうしても保護者の視点から見えてくる課題の解決や,保護者の楽しさや快適さが,子どもたちや学校のために為すべきことより優先されがちだと感じることも多いと思います.私たちは,子どもたちに学校教育を受けさせる「保護者」であり「教師」なわけですから,楽しさや快適さはあった方が良いとは思いますが,それよりも「必要とされることを,社会的に必要とされる質で実現させること」が優先されるべき,と思うのです.この質を保ったうえで,持続性に配慮しながら,できる範囲の中で活動していくことが肝要だと思っています.なお,「より良いもの」という文言を残すかどうかは,表現のあいまいさゆえに,最後まで悩んだことを記憶しています.それでもなお「より良いもの」を残したのは,前例踏襲になりがちなPTA組織の現実を考えたときに,その時々で中心となって会を運営し活動する保護者の皆さんが,勇気をもって自分たちで決断し課題を解決してほしい,という願いを込めたかった,ことが理由でした.昨今のPTAで問題となっていることの大半は,「自己決定」の問題だと思っています.自分のことは自分で決める,という基本原則を守りながら,自己都合に拘泥することなく,「社会の中の子どもたちや学校(教育)のため」に自己の判断で自分の時間やエネルギーを投入できる.その上で,必要な負担は皆さんで広く・薄く分かち合う.このことの実現は,私たち大人が子どもと共に生きやすい社会となることの鍵になると考えています.

今回はちょっと長くなりました.
お付き合いいただき,ありがとうございました.
次回は,先生方への労いの思い出を振り返りたいと思います.

(次回 【PTA回想録(9)】先生方への労いと感謝の気持ちを伝えるために へ続く...)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?