【翻訳】北朝鮮がワクチンを拒否する理由

韓国情報機関・国家情報院(国情院)のシンクタンク、国家安保戦略研究院は9日に開催した北朝鮮情勢に関する記者会見で、北朝鮮は新型コロナウイルスワクチンの海外からの導入に取り組んでいるが、まだ確保したワクチンはないと明らかにした。ワクチンの公平な分配を目指す国際的な枠組み「COVAX(コバックス)」を通じて調達予定だった英アストラゼネカ製品は副反応を懸念して受け入れを拒否し、中国製品は不信感から導入をためらっているという。

聯合ニュース2021年7月9日
国連児童基金(ユニセフ)は1日、北朝鮮が中国の科興控股生物技術(シノバック・バイオテック)の新型コロナウイルスワクチン約300万回分の供給を拒否したと明らかにした。
北朝鮮は、苦しんでいる国にワクチンが行き渡らない世界の問題点を指摘し、感染拡大がより深刻な国に回すべきだと回答した。

時事通信2021年9月2日

北朝鮮がCOVAXを通じて供給されるワクチンを拒否したのとニュースが流れている。

北朝鮮は現在にいたるまでコロナ感染者はいないと主張しているが、「コロナ鎖国」により食糧危機が起きつつあるとの情報もあり、今後、段階的に経済を正常化させていく上でワクチンは必要不可欠なものであろう。

では、なぜワクチンの受け取りを拒否したのか。
中国製ワクチンのみならず、アストラゼネカのワクチンも「副反応」を懸念して受け取らなかったというが、これはあまり合理的な説明になってないように思う。

そんな中、脱北した北朝鮮の在イギリス大使館公使・太永浩氏がFacebookに書いていた「北朝鮮が国際社会のワクチン支援を拒否した理由」という記事が多少なりとも北朝鮮的思考を反映していると感じたため、ここに記録のために翻訳しておく。

북한이 국제사회의 백신 지원을 거부한 이유 유니세프는 지난 1일 북한이 백신 297만 회분을 거절했다고 밝혔다. 그리고 지난 2일 김정은은 당 정치국 확대회의에서 북한에서 이미 높은 강도의 방역이 이뤄지고...

Posted by 태영호 on Friday, September 3, 2021

北朝鮮が国際社会のワクチン支援を拒否した理由

ユニセフは1日、北朝鮮がワクチン297万回分を拒絶したと明らかにした。そして2日、金正恩は党政治局拡大会議で、北朝鮮において既に高い強度の防疫が達成されているにもかかわらず、いま一度防疫の強化を求めた。

全世界がワクチン確保戦争を繰り広げているのに、唯一北朝鮮のみがワクチン支援を拒否している理由について皆が知りたがっている。もちろん、結局北朝鮮もワクチン支援を受けるしかないが、現在北朝鮮がワクチンに魅力を感じていない理由がある。

1つ目の理由は、北朝鮮は首領中心の神政統治制国家であるためだ。
北朝鮮において危機克服の中心には常に首領がいなければならず、首領は北朝鮮住民を危機から救援する救世主にならなければならない。北朝鮮住民が外部からの支援によって危機を克服した瞬間、救世主としての首領の権威は崩れる。いま、北朝鮮は金正恩の領導により、世界で唯一のコロナ清浄国家であることを自慢している。「コロナ確診者が1人もいないという奇跡のような現実」がむしろ金正恩の求心力を強化する上でこれ以上ない良い機会となっている。

もし北朝鮮が外部からなんかの支援を受けた場合、それは支援ではなく敵との対決で勝利して受け取った勝利品だと住民らに知らせなければならないのが北朝鮮体制である。そのため北朝鮮は外部の支援が必要な時はむしろ情勢を緊張させ、緊張緩和に同意してやる代価として外国から支援を受けるという構図を作っていく。いま北朝鮮が米韓連合訓練中断を要求し、寧辺の核施設を再稼働するなどのことも、このような北朝鮮の協商術に起因している。

2つ目に、コロナ危機は北朝鮮にとって危機であると同時に、内部統制システムを一層強化することのできる良い機会でもあるということだ。
数十年間、北朝鮮政権は体制の根幹を揺るがす外部からの思想文化と商品の密輸を防ごうと手段や方法を選ばなかったが(それに)失敗した。しかしコロナ危機に直面し、コロナに対する恐怖症を拡大して国境の統制と国内人員の流動を徹底的に統制することに成功した。北朝鮮軍の銃弾も恐れずに命を掛けて朝中国境を行き来していた数千名の密輸者がコロナを恐れて自ら密輸を中断した。

コロナ19による国境封鎖長期化により、平壌駐在外国公館の暫定閉鎖が相次ぐ中、現在はかつての社会主義国家や親北性向の国家の大使館10か所余りのみが運営されている。英国、スウェーデン、ドイツなど西欧圏の国家の大使館が暫定閉鎖され、北朝鮮政権に不利なニュースが外部に流れるルートが遮断された。金正恩政権は「苦難の行軍」後の30年余りの間、日増しに脆弱になっていた国家の強制的行政統制力を今回のコロナを契機に取り戻すことに成功した。

3つ目に、現在のワクチンの効能に対する北朝鮮の不信にも関連する。
現在、複数のコロナワクチンが出ているが、いまだに世界は根本的なコロナ克服方途を見いだせずにいる。このような状況でワクチン支援が行われ、北朝鮮住民がワクチンを接種することになれば、いままで持っていたコロナへの恐怖から逃れ、当局の統制を避けて再び自由な移動と密輸などに復帰するだろう。そうなれば、やっとのことで国境完全封鎖に成功していたNK防疫(韓国のK防疫とかけている)が崩れることになり、さらに変異ウイルスまで北朝鮮に入ってくれば保健医療システムが劣悪な北朝鮮は、コロナ変異ウイルスによって崩れる可能性がある。

そして少量のワクチンだけが入ってくる場合、ワクチン供給に優先順位をつけるしかなく、集団主義を強調する北朝鮮の理念を毀損し、統治正当性を失う危険が伴う。したがって全世界的に物流供給に余裕が生じた時点で大規模に(ワクチンを)受け取ることが金正恩にとって有利であろう。

そのため現時点で北朝鮮がワクチン支援を受けることを「メリットよりデメリットが大きい」とみ見ている可能性がある。そのほか、ワクチンを供給されても劣悪な冷凍施設のためにワクチンの保管が困難だという原因も作用したであろう。現在、北朝鮮の関心は北朝鮮と地理的に接している中国がコロナをいつ克服するかに集まっている。中国がコロナ克服に成功することができず、変異ウイルスによるコロナ拡散が続けば、北朝鮮はワクチン支援にあまり魅力を感じないだろう。

2021年9月4日
国民の力国会議員 太永浩

※( )内は訳注である





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