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夢判断と現代臨床

本日は「夢判断と現代臨床」というテーマでお話ししようと思います。


「夢判断」はご存知ですか?
夢の内容を聞いて、精神科医が患者さんの心を当てる、そして治療していくという画期的な治療法なんですけれど、フロイトが書いた本です。

今年の4月1日からですね、NHKの「100分de名著」で「夢判断」を扱うので、宣伝しろと言われているわけじゃないんですが、宣伝も兼ねて自分なりにこの話をしようと思います。

「夢判断」の内容やフロイトがどんなことを書いたのかやどんなことを言ったのかは、本編及び書籍を読んでもらったらいいですし、ネットで調べてもらえば出てくるので調べてもらえばいいかなと思うんですけども、ぶっちゃけ現代臨床ではどうなの?ということが気になると思うんですね。

なので現役の精神科医が診察室で患者さんが夢を語った時に、どういう風に治療に応用しているのかをお話ししようと思います。

■患者さんが夢の話をする時

夢の話を患者さんがする時はどんな条件かというと、まず患者さんがこちらに対して信頼してくれているというか、心を開いているときは夢のことを語ってくれます。

あまり関係性が良くない時とか、関係性がまだ浅いときは、夢の話はあまりしないですね。患者さんというのは。なので心を開いているのかなとか、何か僕に伝えたいことがあるんだろうなと思うサインだなと思っています。

心理セラピーが進んでいる時とかですね、心理セラピーのことを学んでいる時とか、その患者さんがそういうことに興味があるときは、やはり夢の話をすることが多いなと思います。

だから、内容というより、僕はこの患者さんはなぜ話しているのかとか、この機会、この時間、空間が生まれたことを考えたり、思いを馳せたり、その人が訴えているのを聞くことを意識しているという感じです。

こういう話を聞いてくれるとすごく嬉しいじゃないですか。だから聞いているという感じですね。

患者さんの無意識のものとか、患者さんの特徴というのは夢の中でもよく反映されます。

ただ、夢を聞いたから突然わかることはあまりないですね。
やっぱりこの人らしい夢だなということが多いですよ。

完璧主義の人は、追われている夢を見ているとか、仕事で悩んでいる人とか、上司に対してビビっている人だと、上司ないし男の人に怒られてるとか。

普段の臨床で気づいているし指摘している、よく言ってることが夢の中で出てきます。

逆にそうじゃない解釈を臨床家がしたとしたら、それは臨床家の主観だったり自我が出ているということなので良くないです。

だいたいいつも通りの話ですよ。夢の中でも。夢の中の話をしたとしても、臨床というのは常に同じテーマに戻ってくるわけですね。
だけどいつもよりも納得感があります。

「やっぱりあなたって白黒思考なんですね」とか、「夢の中でも仕事に追われてるんですね」とか言うと、やはり何か本人の中ですごく納得感があったりするみたいですね。

この納得感があるので、まあいいかなと思うという感じです。

■治療に活かすには

これを治療上活かすにはメタ認知能力が高くないといけないですね。

診療の中でやっていることとか、我を振り返る行為とか、なぜ僕がそういう風に言ったのかとか、僕の態度を見て、その態度から学ぶ力、そういうメタ認知能力が高くないと治療には活かせないなという印象があります。

例えば転移解釈とかもそうで、あなたが今僕に対して怒りを持っていますけれど、これはあなたの焦りとか惨めさが怒りとなって僕に転移してるんじゃないですかとか、過去のお父さんとか職場の上司を僕に投影しているんじゃないですかとか。

医師という存在が社会の象徴であり、権力者の象徴であり、あなたは権力者を憎んでいるからこそ、この世の中の理不尽さに対する怒りが僕を通して現れているんじゃないですかとか、こういう転移解釈がすっと来る人じゃないと、夢の解釈はあまりうまくいかないですよね。

ただ、「何それ?」という感じになっちゃうんで。だからやっぱりある程度メタ認知能力が高くないとうまく使えない。夢の話を臨床上、治療上うまく使うのは難しいなと思います。

■注意点

注意点はですね、夢の話を聞くと妄想が悪化する場合があるんですね。
統合失調症の幻覚・妄想状態、躁状態の万能感。うつ病のうつ症状、うつの貧困妄想、罪業妄想、心気妄想とかですね。あと強迫性障害の強迫性とかね。

こういう妄想を悪化させることもあるので、その場合はあまり聞くべきじゃなかったり、話題を広げるべきでなかったりします。

そういう妄想ではなかったとしても、治療を停滞させるために喋っている時があるんですよね。

例えば摂食障害の人とかは、「こんな夢を見てたんです」と話し続けて50分終わるとかあるんですよ。

だけど、そもそも今、体重とか食べ物の話はどうなったんだっけ?とか。
そもそも何のための治療ですか、ということなんですよね。

だから、夢の話をずっとし続けた時に本人の気持ちを解釈するのも大事なんだけども、そもそも何のための治療なのか、何であなたと気持ちを共有したり、気持ちのことを語り合う場所なのか、そういうことが何かわからなかったり、ぐちゃぐちゃになっていたりすると、夢の話だけしてると、例えば月1回とか月2回のカウンセリングが何か無意味なものに終わっちゃうことがある。

だから夢の話は臨床している感とか心理セラピーをしてる感があって、普通の悩みごとじゃない話をしてるような感じがして、双方充実感があるんですけども、本当に解決すべき現実的な問題は何なのとか、そういうことから目を背けるものでもあるので、これは使いどころというかバランスは結構大事だったりします。

不毛な会話をし続けちゃうことになる。それで治療者と患者さんの共依存関係を促進したり、そういうデメリットもあるので、ここら辺はちゃんと地に足をつけながら治療することが大事です。

あと、ASDの人とかメタ認知能力が弱い人たちはこれをやっても混乱したりします。

夢の話をし続けて、カウンセリングはこういうものかしらと話をしている時に、でも全然良くならないじゃないですか?という話なんだけど、話せば良くなるものではなくて、話した上でこの夢の話を通じてどういう風に自分を理解するかが大事だし、自分はこういう人間なんだと理解した上で、じゃあどう変わっていくのか、どういう行動を取るかが大事なわけですよね。

「やっぱりあなたは完璧主義っぽいところが出てますよね。夢の中でも」
「うん、そうです。やっぱり私って完璧主義ですね」

というやり取りを20回、100回やっても仕方がなくて、完璧主義ということはわかりましたよ、「じゃあどうすんの?」ということですよね。

そこまでいかないとやっぱり治療は上手くいかない。
夢の話をすることでこれを使いこなせたり、納得感を得られる人じゃないと難しいなという気がします。

■現代では

夢の話は、フロイトが生きていた時代とかその当時はちょっと流行りだったと言われています。

現代人においてはどうなのかというのはわかりません。
当時は夢の話をしないと本音が語れなかった部分もあるんですよね。

夢の話をしないと、性的なものとか虐待の話とかはできなかったという背景があって、ある種の夢ということを通じて、わざと夢の話だということにして、自分が言いにくいことを言っていたという側面もあるので、現代的にはどうなのか。

もうちょっとオープンに話しやすいので、夢をそこまで使わなきゃいけないのかというのはわからないっていう感じですね。

■夢とは

夢はそもそもどういうものなのかと言うと、脳の活動ですよね。

目からの外部刺激とか、耳、口、鼻からとか五感から入ってこなくても、外部からの情報が入っていなくても脳みそは動き続けるんですけども、この動いてる過程、その寝ている時に脳が動いているものに意識がちょっと反応するというか、気づくというものが夢だと考えています。

意識が動いてないんだけれども、動いてる時の脳の活動を、「デフォルトモードネットワークが活性化している」とか言ったりします。

これは何のためにやってるかというと、日中の記憶や過去の記憶と結びつけたり、記憶の処理とか整理とかそういうことをしている。

記憶を整理して抽象的な情報にまとめたり、過去の情報と紐付けて情報量を圧縮したり、そういうことをしているんですけど、それを見ているということですね。

同じようなデフォルトモードネットワークの活動というと、瞑想とかマインドフルネスですよね。

マインドフルネスで呼吸に集中しながら、でも何か頭の中で考えが浮かんできて、いかんいかんと思ってまた呼吸に戻り、でもまた浮かんできて、いかんいかんと思って呼吸に戻ってくる。

でも、ここでぱっと浮かぶ自由連想的なもの、こういう概念というものも夢と似ていたりするし、無意識下で作っているものなので、臨床的に使いやすいテーマかなという気がします。

むしろ僕は夢の話より、こういう時に浮かんでるテーマとかぐるぐる思考とかの方が、悩みというか、今の問題事と直結しているので扱いやすいですけれども、でも納得感という意味では夢をかませた方が本人の納得感はあります。

あと夢というと、悪夢が多いんですということを患者さんはよく言いますけど、眠りが浅いと悪夢を覚えていることが多いです。

つまり、夢というのは直前の記憶だと言われていますね。
寝ている時の直前の記憶だと言われていて。
だいたい夢は悪夢が多いんですよ。

嫌なことを脳というのは記憶しておこうとか処理しておこうと思うので、だいたい夢は悪夢が多いんですけども、眠りが浅いと直前の夢を覚えているので、結果的に悪夢だということが多いです。

眠りが浅い時って、だいたいうつだったり抑うつ的だったり、不安が強かったりするので。

あとは夢と言ったら、自助会の運営やYouTubeを手伝ってくれているリョーハムさんという発達障害の当事者の方がいるんですけど、リョーハムさんは、「僕気づいちゃいましたよ」と前に言ったことがあって、何に気づいたの?と。

「益田Dr.は夢を自覚したことありますか?」と。

「益田Dr.は夢の中で夢とわかりますか?」と言われて、たまにあるよと。毎回じゃないけど。「いや、発達障害の人は夢の中で夢とわからないんですよ」とリョーハムさんが教えてくれたんですね。

「これが発達障害か発達障害じゃないかの見極めポイントになると思うんですよね。益田Dr.どう思いますか? だから益田Dr.は発達障害っぽいっていろんな人に言われるけれど、僕はやっぱり違うと思うんですよね」とか言ってましたね。

そうなのかなと思いましたね。結構リョーハムさん的にはすごい理論を言っていてですね、根拠も色々言っていたんですよね。

発達障害の人は自己中心的だから視点をずらすことができないから、夢の中でもそれができないとかね、色々言ってましたけど、納得感があってちょっと面白いのでここでも紹介しました。

■文化基盤による

僕は夢の内容を深く追わないし、状況をしっかり理解して、それを治療にどう反映させるかをよく考えていると言ったんですけど、元々フロイトの夢判断の方は、もうちょっと夢の内容をしっかり吟味して、これは願望充足なんじゃないかとか、性的な衝動のメタファーなんじゃないかとか、この記憶は加工されて本来はこういう状況だったんじゃないかとか、そういうことを夢の内容から解釈していくという名探偵のやり取りとか、小説家のようなやり取りをしてますけれど、これはあまりしないかなと思います。

夢の内容はこういう意味だというのはですね、ある程度文化基盤によるので、だから彼らが馴染んでいた物語とか神話、共通の常識とか、聖書の常識とか、そういうものを反映させているので、現代日本人というのはそういう常識をシェアしていないので、フロイトが言っていたメタファーは現代の日本人では通じなかったりします。

日本人共通のメタファーは何なのかを考えていっても、今は情報が多すぎるんですよね。

情報が多すぎて、皆が知っていて手垢がつくまで読み古されている物語が少なかったりするんですよね。少なかったというか、無いですよね。

だからなかなか内容の解釈は難しかったりします。だから関係性の理解に留まるのかなと思います。

その人が知っている物語とか、患者さん一人一人が愛している映画とか小説、キャラクター、テレビの内容、色々なものを知らないと、夢の内容の解釈は難しいので、そんなの不可能ですね。

不可能に近いので、どちらかというとそこよりも関係性とかよく出てくるテーマとか、この納得感をどういう風に演出するかということを現代臨床では考えるんじゃないかなと思います。

現代臨床というか、益田の臨床ですね。
ただまあ大きくは外れていないんじゃないかなとは思います。
今回は夢判断と現代臨床というテーマでお話ししました。

■本日の宿題

夢の話を診察でしたことありますか?
その時の主治医はどんな対応しましたか?

そういう夢に関することを書いてもらったりとか、思っていることを書いてもらうと勉強になるので、お願いしたいと思います。

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