白銀の君 -小噺-
「またね。」とかけた言の葉は、
未来を約束する物では無くて、私の願いだった。
もう、貴方としては逢えない。
もし、違う時代に逢えたとしても貴方は「初めまして。」
私だけが心の中で「おかえりなさい。」
一生帰ってこない「ただいま。」を待っているの。
私自身が夢物語の様なものだから、貴方とまた逢えるだなんてそれこそ有りはしないもの。
でも、私はどれだけ永く生きたとしても立派に割り切れなかった。
信じたかった。逢える未来を見たかった。
一度だって神様は願いを叶えてくれない。
だから、私は私を信じた。
けれど、そう簡単ではなくて。
私の心は世界で独りぼっちな、本当の意味での孤独で欠けてしまった。
自分の覚えている事は妄想だと思った。
思おうとした時に貴方が声をかけた。
「私達、昔から仲良かったよね。覚えてる?」
忘れた事なんてない。だって貴方なんだから。
顔も、身体も違っても、貴方なんだもの。
私は問うた。どこまで覚えてるのか、私の名前は分かるのか、けれど貴方は決定的な事は避けてしまう。
「私達は確実に存在している。
存在意味なんて大それたことじゃない。
存在意味は難しいけど存在しているって事実が存在意味のような気がする。
私達は今同じ時間を共有していいる。
素敵なことよ。」
貴方が私の為にくれた言葉。
私の髪を結ってくれた手つき、結び方もあの時となにも変わっていない。
これからもっと貴方といたい。寂しいのは嫌だった、もう嫌だった。
一人は怖い、一人は寂しい、一人は飽いた。
手をもっと握っていたい。体温を感じていたいのに。
貴方の生きられる時間は、もう残り少なかった。
奇跡とか、神様のお陰なんかじゃない。
私たちの絆が繋いだ記憶だ。
「いつも変わらず寂しがり,泣き虫さんなの必死に誤魔化して。」
「そこが貴方の可愛いところ。」
全部では無いのかもしれない。
けれど本当の私を、狐としての私を貴方は思い出していてくれたのだと思いたい。
「拗ねた貴方を私が手を引いてるの。」
これが今世で貴方が最後にくれた言の葉。
手を、引いて欲しかった。
私は私である事を忘れてしまいたかったのに、貴方はまた先にいってしまった。
大好きなのに、やっと数百年という永い時を巡って逢えたのに。
次、逢えるだなんて未来があるかも分からないのに。
もっと一緒にいたかった。
心が張り裂けそう。遠吠えを上げたいのに人の体では出来なくて、掠れた声にならない叫び声と涙しか溢れない。
足りない、こんな、こんな事で心がどうにか出来なかった。貴方がまた、いない。
どこにもいない。
それでも、逢えてよかった。不幸だとは思わない。
遠いこの場所で、
貴方と僅かな時間でも過ごせた事は幸せ。
私はきっと貴方を想って、これからも涙を流す。冷たい涙と温かい涙を。
日々思うところを語ったり、誰かの支えになればと言葉を綴っていきます。 貴方の支えになれると嬉しいです。 どうか、疲れた心に寄り添わせてください。 私はいつでもお側におります。