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吹き抜ける風3(3回シリーズ)

3.道


「兄貴、ちょっといいか?」と兄貴のドアを叩いた。

「お、何だ。ちょっと待て。」とドアの向こうから兄貴の声。


「いいぞ、何だ。手短にな。」と兄貴はドアを開けてくれた。

「ちょっとな。なぁ兄貴。俺なりに自分の進路を考えてみた。」

「お、またか。今度は何だ。てか、お前、練習サボって何してた!試合前だってのにどういう事だ!中田、怒ってたぞ。代わりに俺が怒られたんだぞ!」と俺にゲンコツ一発。

あまり痛くなかった。

「すまん、兄貴。まぁそんな怒んなって。まぁ聞いてくれ。俺、高校卒業したら働く。進学はしねえ。で、いつものラーメン屋でもうすぐ働く。てかバイトだけど。大将に聞いたら、親を説得したら考えてやる、と言われた。母さんには昨日話した。意外にすんなりわかってくれた。そんなもんか、と思った。で、今度兄貴に言っておきたい、と思って今しゃべってる。あのラーメン屋がすげえ好きで、この前、大将がすげえカッコよく見えた。俺、大将みたいになりてえんだ。だから、陸上部は辞める。」

「何言ってんだ!この大事な時に!アホかお前は。リレーもあんだぞ!冷静になれ!」

と兄貴は興奮気味だ。

「まぁ、お前は勉強全然ダメだからな。気持ちはわかる。けど、陸上部は今は辞めるな。卒業まで続けろ。俺も受験の事を考えて辞めようとしたが、結局今も続けてる。それはお前がいたからだ。お前の走る姿が俺には眩しかった。今もそう思ってるんだからな。こんな事言わせるな。だから卒業までは勉強しろ。卒業したら自由に生きていけ。な、わかったならこれ以上言わせるなよ。じゃ、俺は受験生だからな。わかるな?」と頭をコツンと突いた。

「おぅ、母さんにもそう言われた。俺ってわかりやすい?」

「そういう事」

俺はハハッと笑ってしまった。


翌朝、学校が休みだったので、ラーメン屋に行った。また、準備中の文字。あれ?ここいつからだっけ?急にわからなくなった。戸を開けてみた。今度はおばちゃんもいて、なにやら忙しそうにしている。

「あら、いつもの子。今日はどしたの?」とテーブルを拭きながらおばちゃんが声を掛けてきた。

「ちょっと用がありまして。大将、いや松本さんいらっしゃいますか?」と緊張しながらおばちゃんに返事した。

「あっはいはい、ちょっと待っててね。」とおばちゃんは大将を呼びに行った。

「あんた、ほれ、あんたにお客さんだよ。いつもラーメン食べに来る子。」とおばちゃん。

「おぅ、ちょっと鍋見とれ。」と大将。

「はいはい」とおばちゃん。

「おぅ、来たか。話はまとまったか?」

「あっはい、説得してきました。」

「おおぅ、そうかそうか。まぁ座れ。で、用件は何だ?手短にな。」と大将はカウンターに腰を下ろした。

「あの、親にも兄貴にもここで働く事を言いました。で、とりあえず卒業してからここで雇ってもらいたいんですが…お願いします!俺、ここ好きで、ラーメンいつも美味しくて通ってました。で、この前大将の包丁を研ぐ姿がすごくカッコよかったので、俺も大将みたいにカッコよくなりたい、と思ったんです。お願いします!」

「うんうん、いいんじゃねえか。十分気持ちは伝わったからよ。空いてる時でいいからちょくちょくここに来な。ちょっとずつ慣れていけ。する事は山ほどあるぞ。耐えれるか?」

と大将は横目で顔を近づけて俺を睨んだ。ちょっとビックリしたが、

「はい、頑張ります。」

「お、よし。じゃあ、今からやってみるか?」

「あ、いえ、とりあえず明日からでお願いします。」と俺。

「はははっ、もう逃げ腰じゃねえか。そんなんじゃダメだぞ。まぁでもやる気はそれなりにはあるようだ。まぁ寄れる時に寄れ。で、ここをちょっとずつ知っていけ。」と肩を2回叩いた。優しかった。と、おばちゃんが、

「あんた、そんなにここ好きなの。へぇ珍しいねえ。まぁ厳しく行くわよー。」と楽しそうに笑った。

「あっはい、お手柔らかにお願いします。」と俺。

「あはは、大丈夫大丈夫。優しいから私は。」と自分の胸に手をあてた。

「では、明日からよろしくお願いします。失礼します。」と俺は戸を閉めた。


ふぅ、疲れた。頑張った俺。でも楽しみだ。母さん達に報告するか。と俺は自転車を漕ぎながら鼓動が早くなるのを感じた。

                                 終



今回は以前に書いた短編小説を、恥ずかしいながらも載せさせていただきました。
最後まで読んでくださり、本当にありがとうございました。

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