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舞台 『天使の群像』 鵺的 第17回公演

劇作家・高木登が主宰する演劇ユニット鵺的。まだほんの数作を観ただけなのに生意気かもしれないが、高木の手による人心の底に澱む“なにか”を赤裸々に暴き出す物語に凄く惹かれている。17回公演として発表した新作『天使の群像』は、ある高校を舞台に、臨時的任用教員(正しくはこう称するらしい)として着任した女教師を巡る物語だが、ともかく期待通りの作品だった。

ある男子生徒が不登校になり、それをきっかけに担任教師が辞職。主人公はそんな状況で着任する。しかし彼女はたまたま採用試験に受かっていただけで、教育に対する熱意は特になく、むしろ学校を嫌悪して生きてきたタイプ。そんな彼女を茶化し半分に生徒達は先生らしさを求めるが、それに対して彼女は正直に自分をさらけ出してしまう。しかし建前論だけで受け流そうとはしないその態度にむしろ、生徒達はシンパシーを覚えていく。

逆に建前で塗り固めようと躍起になるのが教頭や同僚の教員達だ。一般人から観ると滑稽にしか思えない独自のルールや価値観を持ち出すなかで、徐々にお互いの歪みが大きくなって行く。いかにも学校という空間で起こりそうだと納得できるエピソードが多く詰め込まれているから歪みがリアルで、それらが強烈なボディブロウとなって観客の心に効いてくる。

観ているうちに、ヒトの成長をスムースに進めるための機関と思っている“学校”という仕組みと時期は、もしかしたら恐ろしく歪んでねじ曲がったそれであり、それを上手いこと抜け出した心もあれば、逆に下手にぶつかり引っかかってしまった心も多数あるのだろうなと考え始めていた。それはおそらく高木の作劇術に見事にはまったということなのだろう。

演出は鵺的のメンバーでもある小崎愛美里。現実世界から劇空間に誘い、そしてそこから弾き出すオープニング/エンディングの演出や、曇った鏡を使った舞台装置による空間の構成は非常に印象的だった。俳優陣も、当初高校生を演じるには無理があるかなとも思ったが、始まってみると違和感なく物語を紡いでいた。気になった俳優が参加する別の作品も観てみたくなる。そんなメンバーが揃っていたと思う。29日まで。(12月21日 下北沢 ザ・スズナリ)
 冒頭写真 撮影・石澤知絵子

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