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映画『ジョーカー』の感想

 まずは総評……全体的に良くできた映画。いくつかツッコミどころもあるが、ジョーカーのイメージを大切にして、それを壊さないようにして映像化した感じ。表現は相変わらずヌルい箇所はあるが、一応はできる限りのことはやったと思う。
 とりあえずの結論としては、一回見てみる価値はあるのではないだろうか。ただ、最近のアメコミ映画にしては珍しく、アクションではなく人物描写に重きが置かれているので、ドラマは面白いが映像やアクションが見どころではない。つまり、映画館より家でじっくり見た方がいいかもしれないと感じた。
 でもまあ、気になる人やジョーカー好きな人はとりあえず見ても損はない内容だった。

 以下、映画の内容を述べながらレビューしていきたいので、内容を知らない方はブラウザバックをおすすめする。


 さて、まずはいいところから述べてみよう。
 後でパンフレットを読んで知ったことだが、監督以下主演も含めて、過去のバットマン作品を結構読んでいて、ちゃんと色々調査して知った上で制作している、ということ。
 ジョーカーは40年代に登場したキャラクターで、歴史も長く様々なイメージが染み付いている。ジョーカーにしても複数の作家たちが、様々な視点で描いてきた。そのイメージを大切にしながら、なるべく壊さないようにして描いているように感じた。これはパンフレット云々ではなく、映画を見ただけである程度はわかると思う。
 ベストではないけど、まあ、こんな感じだよね、というベターチョイスなジョーカーになっている。

 また、ジョーカーの母親も登場するのだが、最初は「親子愛を見せるのかな?」と思っていたが、そこはやっぱりジョーカーだった。
 母親も実は妄想癖の激しい人間で、結局ジョーカーは母親の妄想に振り回されていた、という結果になる。いかにもジョーカーの母親らしい感じがした。

 後、最後の番組司会者のロバート・デニーロを銃殺した場所は見せ場として最も良かった。
 ジョーカーと司会者のやり取りは緊張感があってよかったし、会話も軽妙で面白かった。さらにその前の場面で自殺をほのめかすような描写があったので、「まさか自殺するのか?!」という緊迫感も多少は(なぜ多少なのかは後述)あった。
 ジョーカー渾身の、デビュー作となるジョークはかなり面白かったと言っておこう。

 総括すると、近年珍しく脚本がかなり凝っていて、見ごたえのある映画だった。アメコミ映画だから映像だけで、脚本スッカスカなんやろ? ということは全くなく、まさによく作りこまれたアメコミのような映画だった。


 以下は突っ込みどころを述べたい。

 ジョーカーが仕事で小児病棟の慰安訪問で、パフォーマンス中に銃を落としてしまって場を凍りつかせる、という場面。
 銃いるかな?
 確かに、その前にはストリートでクソガキどもに殴る蹴るの暴行を受けたが、しかしよく考えて欲しい。
 銃持っていく必要、あるかな?
 スタンガンとか警棒とかでも十分対処できると思うのは俺だけだろうか?
 そりゃ相手も銃持ってたら銃でないと対抗できないだろうが、それもはや抗争とか戦闘だし、そもそもそんな危険地帯で生活するなってことになる。
 この「自衛のためにいきなり銃で対抗」というところが、少し引っかかった。

 そして次に、地下鉄でジョーカーが銃を撃った場面なのだが、リボルバー拳銃というのは大抵6発入りである。数えてないから正確な数は分からないが、そこで8~10発くらい発射していたように見えた。
 しかし、リロードしている様子はない。
 つまり、これってバイオのクリア特典の銃ってことでいいのかな?

 このシーンの突っ込みどころはもう一つあって、ジョーカーの撃ち殺したリーマンは実はウェイン産業の社員だったらしい。ウェイン産業はこの映画では一応証券会社ということになっている。
 そんなエリート社員にしては、地下鉄で女に絡むなんてずいぶんと下級社員のような行動に思えた。酔っぱらっているから、という見方もできないことはないが、それならこんな治安の悪い地下鉄よりタクシーで帰ると思うのだが……
 このゴッサムの治安を見れば、エリート社員の彼らはかっこうの餌食になるだろうし、ますますよく分からない行動だと思った。

 あとは、ジョーカーの妄想と現実の区別、というのが非常にあいまいな描き方で、個人的にはもうちょっとどうにかして欲しかった。
 まずは同じアパートに暮らすシングルマザーとのイチャイチャシーン。あれは妄想だということだが、非常に分かりにくく、後で友人に教えてもらって気づいた。
 で、このシングルマザーは果たしてジョーカーに殺されたのだろうか?
 そこまで全く何も描かれてないため、見ているこっちとしてはモヤモヤしてしまう。
 さらにラストの精神科医との会話シーン。ここでも最後に赤い足跡を残しながら、ジョーカーが立ち去っていくシーンがあるのだが……
 ここも結局は映像だけが先行していて、結局精神科医は殺されたのかどうか、何も明示されていない。あの状況で精神科医を殺すことはジョーカーならできるだろうけど、血を出して殺すことってかなり難しいのでは? さらにジョーカー自身は返り血を浴びていなかった。靴の裏にあれだけ血がべっとりこびりついていたのに、返り血はゼロだった?
 全てを克明に描写しろ、とは言わない。暗示するのも一つの描写手法ではある。しかし、それはある程度の話であって、視聴者が混乱するほど描写をカットしてしまうのはどうなんだろうか。

 あとはジョーカーとバットマンの年齢も気になった。単純にこの中の設定でもかなりの年の差で、このままだとバットマンが成人して戦う頃にはジョーカーは還暦どころか70近い老人になっているのでは? そんな老人を殴るバットマンって……
 さらに役者がどう見ても40くらいには見える。母親の妄想とはいえ、一応トーマス・ウェインの私生児という設定なのだから、30歳でないとおかしい。年齢を調べただけでトーマスの私生児ではないことがすぐわかるのに、それでも母親を信じるってどういうこと……記憶改ざんされてたのかな?
 あとはジョーカーの立ち位置である。「一般人がジョーカーになっていく」のか、「もともろ狂ってたやつがジョーカーになる」のか、そのあたりがすごく微妙だった。どちらかというと、元から少し狂ってたような気もするが……

 あとは細かいところだが、ジョーカーの強さが気になった。ブルースを発見したジョーカーが、ブルースに近づいたところ、執事に阻まれるシーンである。色々あってジョーカーは激高して、その執事の首根っこを掴む。
 しかし、よく見て欲しいが、ジョーカーはかなり痩せてる部類だ。それに反して、この執事はかなりガッチリした体格で、90キロはありそうだと思った。ジョーカーはせいぜい50キロ台だろうか。
 ぶっちゃけ、この状況でジョーカーが掴みかかっても簡単に力づくで反撃されて終わりだろう。言ってしまえば、ライオンの檻の中に手を突っ込むようなものだ。
 この体重差をひっくり返すくらいの力があるとするなら、最初のクソガキの集団くらい普通に蹴散らせたと思うんだけど……
 それか執事が脂肪ばかりでクソ雑魚ナメクジだったのだろうか。だったらウェインは執事の採用基準を見直した方がいいのでは……この治安の悪い街で家族を守りたいなら、もっとマシな執事を雇った方がいいぞ。

 さて、主要な突っ込みどころはこれくらいか。
 ぶっちゃけ、突っ込みどころはよく見返してみると細かいところばっかりなので、それほど物語が破綻している、とかではなかった。
 映画自体はかなりよく考えられてまとまっているので、これからのジョーカーはこれが準公式のような形になっていくのではないだろうか。
 あと、ジョーカーに変貌していく過程で、ジョーカーになる「瞬間」というのが描かれてなかった。ジョーカーは徐々に色んな出来事を経て、ジョーカーへ変貌していく。
 個人的にはこれはリアリティもあるし、良かったと思う。しかし、人によっては「変貌の瞬間」が欲しい、という人もいるだろうし、そういう気持ちも分かる。確かに、物語としてはそういう瞬間があった方がよりドラマチックになるのは確かだ。ただ、今回のジョーカーは意外とリアリティというのを岸部露伴みたいに大事にしており、そういうのが重要な要素になっていると感じたので、個人的には評価したい。

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