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全部今に始まったことじゃない

最近の夫はよく謝る。

「今日はバタバタしてて、家の掃除ができてなくてごめん」
「料理に時間がかかってごめん」
「こんなものしか作れなくてごめん」

現在の我が家は湿度90%といったところだろうか。
ジメジメした家の中で完全にキノコと化した夫に私の思うところを伝える。

「りょうちゃん(夫)がどんなに掃除や料理が上手になろうと、りょうちゃんが自分に満足する日は来ないよきっと」

「え」

「あと、りょうちゃんがどんなに掃除や料理が上手になろうと、私がりょうちゃんに不満を持たない日も来ないよきっと」

「え」

「あとね、一昨日、これからは不平不満をあまり言わないようにして機嫌よく過ごすって宣言したけど、撤回するよ。2日間不平不満を言わないように努力してみたら、死ぬかと思った。私、呼吸をするように不平不満を言いたいんだと思う」

「え。でも、確かに不平不満を言っている時の直ちゃんは一番イキイキとしているね」

「ついでにね、さっきからりょうちゃんが探してる男物のアンクル丈の靴下だけど、私が今履いてるよ」

「え、あ、本当だ」

そこにあったからという理由だけで夫の靴下を履いたことに関してはちょっと罪悪感があった。こういうちょっと伝えにくいことは、あらたまって伝えるよりも日常会話の中に紛れ込ませた方が良い時もある。

とはいえすぐ話を脱線させるのは私の悪い癖なので話を戻す。

「いろいろ、無理してるんじゃない?」

「家事も育児も俺はけっこう楽しんでやってるんだけどね、やっぱり得意ではないんだよ。効率がいいわけでも上手なわけでもないから、なんか中途半端で申し訳ないなと思って」

得意じゃないのに楽しいって、すごいじゃないか。
私は得意じゃなきゃ楽しめない。
子どもたちにはぜひ夫に似てほしい。

そんなことを思いながら、私が夫に求めていることは何だろうと考えてみる。

私が夫に求めているものは、経済力でも家事力でもない。
せっかく婚前契約書まで交わして結婚したのだから、私と一緒に過ごす時間をできるだけ無理なく心地よくすごしてもらいたいだけだ。

夫が家事があまり得意じゃないことも(ちなみに私も得意じゃない)、私の日々の不平不満が止まらないことも、全て今に始まったことじゃないんだから、お互い変に頑張ることをやめた方がうまくいくように思う。

私に限って言うならば、小学生の時から不平不満は止まらなかった。
学生時代だって学業と部活の両立なんか出来なかった。
独り身の時ですら家事と仕事の両立なんか出来なかった。
ついでに言えば、おしゃれだって元からそんなにしていた方ではない。

色んなことをどさくさに紛れて結婚や出産のせいにしてきたような気がするが、
これらのことは何も、結婚したから、出産したから、主夫になったから出来なくなったわけじゃない。
全部今に始まったことじゃないのだ。

会社員でもフリーランスでも、夫がいてもいなくても、子どもがいてもいなくても、私が主婦でも夫が主夫でも、私は今日も明日も饒舌に不平不満を言いながら生きていく。

私がいつも機嫌よくなんていられるわけがないのだ。

機嫌がよい日はなんかいい日で、機嫌が悪い日は安定のいつもの私。
夫だって、家事がスムーズに進んだ日はなんかいい日で、スムーズに進まなかった日は安定のいつもの夫。

家事の効率化で悩む時間があるのなら、好きなバスケでもしてほしいと思う。

何で俺はこんなことができないんだろうとジメジメするより、何で俺はこんなに好きなことばっかりしてるんだろうとジメジメしてほしい。

いや、今回もまたカッコつけた。

家事もせずにバスケばかりしている夫を見たら、
「目の前で一番高いボールとバッシュ捨てたろか!」と言いながら、実際に捨てたりするのだろう。
といいつつ、でも高いやつはもしかしたら高く売れるかもしれない、などと目論み、もう使わなそうなボールとバッシュを捨てるのだろう。

夫に対して理解のある優しい妻になりたいわけではない。
私が気楽に生きるには、申し訳ないが夫にも気楽に生きてもらう必要があるのだ。

お互い息をするように不平不満を言いながら、それでもおおむね満足してうまくやっていきたい。

そんな話を朝夫としてから打ち合わせに出かけ、帰宅してからのこと。

微熱で登園できなかった娘が、散らかったリビングで怒っていた。

「お父さん、すっごく下手だったんだよ」

しかもすっごく時間がかかったんだよ、と、分厚くごつごつに塗られたマニキュアを私に見せてくる娘。

今日夫は、暇を持て余した娘にせがまれて娘の爪にマニキュアを塗ったらしい。

娘が誕生日プレゼントとして欲してやまなかったキッズマニキュアに、「まだ早いよ」と難色を示していた夫。
今日は、そんな夫が娘の手足に初めてマニキュアを塗った日。

「今日家事を全部諦めて、小さくてよく動く爪にマニキュアを塗ったこと、下手くそと怒られたこと、自分の手がつりそうになったこと、この子の結婚式で思い出すわきっと」

そう言う夫を見て、いい一日だったな、と思った日。

私は今日と明日のことしか考えていない。
考えてはいないけど、結婚か。
いいな。いや、寂しいな。いや、自由になるのかな。自由とは…

うん、やっぱり考えるのはやめておこう。

そんなことを、我が足にひっついたリカちゃん人形の靴をはがしながら、思った日。

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