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2022年新規上場企業の平均売上成長率は?/上場前から急成長するANYCOLORのKPI分析

「目論見書分析note」とは

目論見書分析noteは、起業家、スタートアップで働く方、スタートアップ企業の成長背景に興味がある方を主な読者として、noteを書いています。

「IPO企業は、どんな業績変化をだとってきたのか」
「過去の資本政策でどう工夫をしてきたのか」など

スタートアップ企業に関わる方・興味がある方に、ヒントになる情報を提供させて頂くことを目的としております。※記事の内容については個人的な感想となることを理解の上で読んでもらえるとありがたいです。

今回、2022年に東証グロース市場(マザーズ市場)に上場した企業の目論見書から売上成長率について調査し、その中でも際立って成長していたANYCOLORについて、上場前から現在までの成長奇跡をKPIを見ながら考察していきます。

◼︎この記事からわかること
・新規上場企業(東証G)の売上成長率
・理想的な売上成長を遂げた企業は70社中6社
・急成長したANYCOLORのKPI構造

それでは、ここから本編となります。

1:このテーマを取り上げた背景

スタートアップ経営者は、ベンチャーキャピタルからの資金調達時に、中期事業計画を策定する必要があります。
中長期のビジョン、解決する課題や顧客ターゲットは、経営者にとって解像度が高く、投資家向けピッチなどに落とし込むことはできると思います。一方、年度毎の詳細な事業計画を作るのは、何から調べて取りかかればよいか悩むことがあるかもしれません。
そこで、「5ヵ年計画を作らないといけない」という機会があったときに、何かしらのベンチマークデータがあれば取り組みやすいと思います。
本記事が少しでもその参考になればと思い、「新規上場企業の売上成長率」というテーマで調査を進めてみることにしました。

また、ANYCOLORの成長奇跡を振り返りながら、高い成長を実現した企業のKPI設計、何をグロースドライバーとして成長させてきたのかを具体例として参考にしてもらえれば幸いです。

2:売上成長率調査

今回の調査対象範囲は以下になります。
・2022年東証グロース市場に上場企業した70社
・目論見書に記載の過去5年間の売上成長率(単体決算)

・調査方法
過去5年間の売上データは、目論見書の「主要な経営指標等の推移」という箇所にあります。以下は株式会社スマサポ目論見書からの参考例です。

スマサポ目論見書P12「主要な主要な経営指標等の推移」

上記の売上データを、N-5からN-1(新規上場した決算期の5期前から1期前)まで並べ、N-4からN-1の各年度の売上成長率を計算しています。
(下記は3社のサンプル。合計で70社分を計算しています)

各社目論見書を元に筆者作成
(平均算出にあたり、上下3%を異常値としてカット)

◼︎調査結果(結論)

N-4の売上成長率 +97.8%(前年の約2倍)
N-3の売上成長率 +99.8%(前年の約2倍)
N-2の売上成長率 +69.4%(前年の約7割増)
N-1の売上成長率 +48.0%(前年の約5割増)

各社目論見書を元に筆者作成

ざっくり言うと、上場3年前くらいまでは売上が前年比2倍の成長を繰り返し、その後、前年比2桁後半の売上成長率でIPOを実現した、ということになります。グラフにすると、以下のような形です。
N-5を100とした場合、N-1の売上は約1,000(10倍)となっています。

筆者作成

ちなみにこれは70社全体の平均から算出した「理想の売上成長率」であり、実際、このように綺麗な成長率を実現するのは難しいと考えています。
2022年東証グロース市場に上場した企業で、理想の売上成長率を毎年上回っていた企業は70社中6社しかありませんでした。ベースフード、POPER、Atlas Technologies、SBIリーシングサービス、AViC、ANYCOLORの6社です。

各社目論見書を元に筆者作成

この理想的な売上成長を遂げてきた6社の中から、ANYCOLORについて、目論見書・成長可能性資料・IR資料から、どのようなKPI設計で何に注力して売上成長を成し遂げてきたのか深堀してきます。

3:ANYCOLORのKPI設計

まず、目論見書からわかるKPIを可視化しました。
・売上を構成する3つの事業領域
・各事業領域のサービス
・サービスを構成するKPI

ANYCOLOR目論見書より筆者作成

ここから、ANYCOLORが各年度にどのようなKPIに注力していたのか確認していきます。

◼︎N-3期(2019年4月期)

売上成長率:前年比+5113.1%
(17百万円→867百万円)

注力したKPI:VTuber数、YouTube再生回数(再生時間)

目論見書より筆者作成

売上高の拡大に直結するVTuber数、YouTube再生時間、ファン数の増加に注力していました。

注力したKPI(緑のハイライト部分)


◼︎N-2期(2020年4月期)

売上成長率:前年比+301.5%
(867百万円→3,479百万円)

注力したKPI:VTuber数(国内および海外)、YouTube再生回数(再生時間)

目論見書より筆者作成

前期同様、VTuber数、YouTube再生回数の増加に取り組んでいました。
さらに、中国、インドネシア、インド、韓国と当期中に複数の海外向けサービスを始動しています。

注力したKPI(緑のハイライト部分)


◼︎N-1期(2021年4月期)

売上成長率:前年比+119.5%
(3,479百万円→7,636百万円)

注力したKPI:YouTube再生回数(再生時間)、ANYCOLOR ID数、コンテンツ販売

目論見書より筆者作成

前期まではVTuber数の増加に注力していたものの、VTuberのサポート体制充実、配信動画の質を向上させることにより、YouTube再生時間に注力し大きく増加させています。(YouTube再生時間:前期272百万時間→当期496百万時間)

また、コマース領域の中でも「コンテンツ販売」に注力しVTuberの活動領域が広がったことで、結果として企業案件も広がり、収益の多角化が進みました。

注力したKPI(緑のハイライト部分)

◼︎N期(2022年4月期)※上場

売上成長率:前年比+85.5%
(7,636百万円→14,164百万円)

注力したKPI:海外VTuber数、YouTube再生回数(再生時間)、ANYCOLOR ID数、コンテンツ販売、イベント収益

ANYCOLOR決算短信より筆者作成

国内VTuber数の増加は追わず、YouTube再生回数(再生時間)増加に注力。ANYCOLOR ID数は、前期末の22万アカウントから53万に拡大。イベント収益拡大のため、オフライン・オンラインイベントを複数回開催。

注力したKPI(緑のハイライト部分)

◼︎筆者の所感

N-3期からN期までの注力KPIとその変化を振り返ってみた所感として、経営の意思決定がかなり速いことが高成長を実現した一因ではないかと感じられました。
特にN-2期の2020年4月期は、4カ国で活動開始、従業員数が1年で3倍(2019年4月末48人→150人)、シリーズA(2019年6月〜8月)とシリーズB(2020年4月)を実施するなど、意欲的な取り組みが多く見られ、これらを実現できたことが今日の成長につながっていると感じています。

2022年12月15日に、2023年4月期2Qの決算発表とともに、業績上方修正のプレスリリースが発表されました。売上および利益ともに二桁以上の上方修正となっています。
決算説明資料を見ると、QonQ(1Q→2Q)で成長スピードが鈍化しているようにも見えますが、フロー型ビジネスモデルが中心のこの企業であれば成長鈍化と見るのではなく、翌四半期以降への仕込みの時期と見てもよいのではないでしょうか。
現在リソースを集中投下している領域が翌期以降、どのような高成長を実現するのか楽しみにしています。

4:まとめ

事業計画策定にあたり、まず、自社ビジネスの構造をできる限り高い解像度でKPIに分解してみてはいかがでしょうか。
そして、どのKPIに注力すればどれくらいの売上が増加するのかを考え、売上成長率のベンチマークデータを目安にしながら、自社の計画を策定してみてください。
もちろん大事なことは、理想的な数字を作ることではなく、経営者が成し遂げたいビジョンを達成することです。事業計画はその目安になるものであり、投資家との約束事になります。
経営者自身が納得できる事業計画を作ることができたら、様々なステークホルダーとのコミュニケーションに役に立つはずです。

今回の解説で何かわかりづらいことがあれば、いつでもtwitterなどでご連絡ください。@yuyawatanabe0

最後まで読んで頂いてありがとうございました。

今後も、スタートアップ企業のファイナンスをイネーブルメントするべく、情報発信を続けていきますので、引き続きよろしくお願いします!