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やっぱり陽キャは怖いけど、陰キャなりに撃退してやろう、という話。

人間嫌いの私にとって、陽キャはそれ自体が天敵である。

「なんだなんだ、元気ないんじゃないのか!?ガハハ!」とかいって、肩をバシバシ叩いてくる団塊のオジサンも、「最近どこか行かれましたー?映画とか見ましたー?」とか全開の笑顔で話しかけてくる美容師のお姉さんも、「お久しぶりです!あ、ワタリさんその服カワイー!」とか出会い頭にファッションチェックをかましてくる同性の後輩も、もう全部怖い。この人たちが何を考えてそんな風に話しかけてくるのか、次に何を繰り出してくるのか、全然さっぱり分からない。未知とはすなわち恐怖だ。陽キャに出会った時、それはクラゲ型の火星人が大量に謎の機械を持って、直線距離2mの所で10本ぐらいある足をウネウネさせているような、そんな種類の恐怖を感じる。

だって、絶対に分かり合えない。
私が元気そうに見えないことの何が不満なのか。実際に元気じゃなかったとして、それがアンタにどう迷惑がかかるというのか。今アンタの目に、私は元気そうに見えない、そこは一旦良しとしよう。それをアンタが今この場で口に出して、何になるのか。私の健康診断の結果が知りたいならそう言えばいいし、悩み相談に乗ってくれる気があるならそう言え。絶対相談しないけど。
美容室のお姉さんだって、私がどこに行こうか行かなかろうが、本気で知りたいわけがない。彼女の仕事は髪を切ることで、オーダーは既に伝えたんだから、可及的速やかに業務を遂行すればいいのだ。落語の一席もぶってくれるなら最後まで聞いて拍手の一つもするが、別に欲しいなんて言ってない「和やかな空気」のための努力を私に求めないでくれ、頼むから。こっちは金を払ってるのであって、貰ってるわけじゃないし、たとえ時給を貰っても「知らない人と話をする」のは嫌だからこそ、そういう仕事をしてないわけよ。分かれよ。
ファッションチェック後輩に至っては、お前はこの服を本当に心から「カワイイ」と思って言ってんのかと。私の服は大抵がユニクロかしまむらだから、似たような服なんかどこにでも腐るほどあるはずで、こういう服を本当に「カワイイ」と思うなら、今お前が着ている服は何故違うのか。別にカワイイわけじゃないけど、同性だからとりあえず服を誉めとけ、みたいな雑な概念がビシバシ伝わってきて、もう本当に何というか、逆に失礼極まりない感じしかしないんだが!

だが、陽キャたちにこんなことを言った所で、私の思考など分かってもらえるはずがない。「ちょっと話しかけただけなのに喧嘩を売られた」という感想が残ればまだいい方で、「あはは、先輩ホントおもしろーい!」とか笑われて終わる可能性すらある。
こちらは大真面目に、陽キャが投げつけてきた正体不明の質問に対する回答を考え、「質問の意図が分からないため回答不能」という結論に至り、その思考を丁寧にフィードバックしようとしているのに、陽キャである彼らは「想定外の返事は全て冗談」という処理を行い、真面目に回答した私ごと、その場を盛り上げるネタにしてしまう。10人いれば3人が笑い、5人が曖昧なジャパニーズスマイルで追従する、そういう空気が出来上がったらこちらの負けだ。私は幾度も、そんな辛酸を舐めてきた。

陽キャは、強い。
明るいというのは武器だ。人間なら大抵、笑顔で明るい人を好む。
陰キャの標準装備である無言・無表情は、「自分がどう思われているか分からない」という不安を相手に生じさせる。自分に敵意を持っている可能性がある、だから怖い。そんな感想を、世の人の大半が持っている。それは分かる。
私だって、そういう軸で他人を見ることがないわけじゃない。例えば就職活動中の採用面接で、面接官が無表情なよりは笑顔でいてくれた方が話しやすい。確かにそれは、そうなのだ。

だが私にとっては、「”一応知り合い”の陽キャの笑顔」だって、やっぱり何を考えているか分からないし、自分に敵意を持っている可能性があるし、そうでなくても次の瞬間に大噴火する可能性もあるし、だから怖い。
無言で座ったままのゴリラと、ウホウホ言いながら近寄ってくるゴリラと、どちらが怖いかといえば、当然近寄ってくるゴリラの方だ。陽キャの何が怖いって、どういうつもりか分からんが「必ず近寄ってくる」ところだ。これに尽きる。

しかし、孫子も言っていた。「攻撃は最大の防御なり」と。
だから私は、敵性陽キャに遭遇した時、可能な限り迎撃をすると決めている。

目を逸らしてはならない。動物としての戦闘の基本だ。
そしてしっかりと笑顔を作る。こちらが怖がっていることを、決して悟られないように。
そして彼らの出してきた声より、一回り大きい声で返事をする。猫の喧嘩も大半は鳴き合い、つまりは声の大きさで勝負が決まる。我々がヒトである前に動物である以上、声の大きさ、つまりは気迫で上回った方が勝つに決まっているのだ。
敵性陽キャと同じか、やや上回る出力の笑顔、声量、そして台詞。これが対陽キャ:開幕カウンターを決めるのに必要な三大要素である。

返事の内容は何でもいいが、私は団塊オジサンから女性陽キャまで使える、汎用セリフを何パターンか所持している。その内の一つが、

「あはは!そう見えますー?」

これだ。
「元気ないんじゃないのか?」も「最近どこか行かれましたー?」も「その服カワイイ」もこれでいける。
そしてこの台詞の優秀なところは、「こちらは定型パターンなので頭を使わずに済むが、相手には頭を使わせることが出来る」点だ。
このカウンターが決まると、敵性陽キャは「なぜ自分がそんな質問をしたか」を考え、理由を答えなければならなくなる。大抵、敵性陽キャは返事に詰まる。きっと大した理由はないか、あったとして私に言うのを躊躇うような失礼な理由だからだろう、どうせ。(ここで即答できるような陽キャは、きちんと意図があって話しかけてきており、返答としてその本題を切り出してくる。用件を聞いてあげよう。)
そして返事に困った陽キャは、「うんうん、そう見えたよ!」というような、開幕の自分の台詞を補強するような無意味な返事を投げ返してくるはずだ。そうなったら、汎用セリフその2へとコンボをつなげてトドメを刺す。

「え、そんなことないですよー!」

この台詞は開幕カウンターとして使うことも出来るが、私のおススメは二手目だ。一手目で陽キャを躊躇わせ、自信を揺らがせることに成功していれば、この二段階のコンボで、高確率で会話を終了させることが出来る。
一手目にこの「そんなことない」を持って来てしまうと、陽キャの勢いを殺しきれず、盛り上がった雰囲気のまま、陽キャに次の話題を持ち出させてしまう。そうなると以後、陽キャの独壇場となり、陰キャとしては勝ち目の薄い長期戦の展開が始まってしまう恐れが高いのである。
「そんなことないですよ」単体での効果は「そう見えます?」と全く同じ、相手に「何故開幕にそんな質問をしたのか」という回答を強いる台詞だ。だがコンボの一段目「そう見えます?」の存在があると、相手は「そう見えたよ!」のような無意味な回答を既にしてしまっている、という状況を作り出せる。

元々一手目から返答に困っているような陽キャにとって、ここで「面白い」返事をすることは至難の業だ。「あ、そうなんだー」とか「えー?」などのような、誰から聞いても無意味な発言をするのがせいぜいだろう。
ほぼ完全に無意味な回答を二手連続で発するのは、会話という戦闘の場では失態と言ってもいいミスとなる。
一手目で勢いを殺され、二手目でトドメを刺された陽キャは、自分の発言が「滑った」感覚を覚え、一瞬気まずい空気が流れる。この「気まずい空気」に、陽キャは弱い。しかもこちらは「大きな声で、にこやかに」しかも「一手目とは違う返事を」回答しているので、この空気の責任がこちらにないことを、暗黙の内に主張できる。
「話しかけたら、ちゃんとテンション高い返事をもらったのに、なんか会話が止まっちゃった」現象へと誘導することで、陽キャとの会話を最短で、しかもこちらの勝利の内に終わらせることが出来るのだ。

なお、このコンボ2段目が決まり、会話が止まったら、速やかに、かつ自然に視線を敵性陽キャからずらすべきである。表情筋に余裕があれば、笑顔はもう少しキープしておいた方が望ましい。
この「視線外し」はすなわち戦闘終了の合図であり、敵性陽キャに逃げ道を提示してやる意味を持つ。陰キャであるこちらの勝利条件は「会話の終了、および敵性陽キャの撤退」で、これ以上陽キャを追い詰めることはリスクこそあれ、メリットはないからだ。窮鼠と言えど猫を噛む。追い詰められた陽キャが苦し紛れにまた無意味な質問をこちらに投げ始めてしまうと、泥沼の長期戦となり、最後には地力で劣るこちらが涙を飲むことになる危険があるのである。
そうなる前に、「お帰りはあちらです」とばかりに視線をずらせば、会話の相手が誰でも良い敵性陽キャなら、周囲を見回し、新たなターゲットを見つけて、そちらでリベンジを図るだろう。周囲の陰キャ仲間を犠牲にすることになるかもしれないが、そこはそれ。弱肉強食の世界で生き延びるためには、時に仲間を見殺す冷徹さもまた必要とされるものである。

これこそが、私の敵性陽キャ撃退法だ。私はこの手法で、多くの敵性陽キャを撃退してきた。

敵性陽キャの存在自体を完全シカトすることが出来るような、強靭な精神を持つ陰キャの方には、こんな小手先の技は必要ないだろう。是非そのまま、陰キャの正道を貫いていって欲しい。
だが私のように、ついつい空気を読まされてしまい、しばしば敵性陽キャの「場を盛り上げる」餌食になって、そのたび疲弊してしまうような、そんな陰キャの方々もいるはずだ。

不意に出現しては、意図不明かつ失礼な質問をこちらに投げつけて、暗黙の内に「面白い」返事を要求するような敵性陽キャに、サービスを提供し続けてやる義理はない。
この敵性陽キャ撃退法が、身近な陽キャにお困りの陰キャ諸氏の手助けとなり、いつか地球上から無礼な陽キャたちが駆逐されることを、心から願う所存である。




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