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対G戦、夏の陣の話。

※ひたすら例の虫:Gの話です。苦手な方はお逃げください。

唐突に自慢するが、私は対G戦にそこそこ強い。
幼体ならばティッシュ1枚あれば余裕で勝利を収められるし、成体相手でも、近接戦闘装備としてティッシュ箱(外装)、遠距離戦闘装備としての殺虫スプレーがあれば、ほぼ仕留め損なうことなくヤれる。年々精度が上がってきて、下手に殺虫スプレーを使って効果が出るのを待つよりは、十分に近づいてからティッシュ箱の一撃でヤった方が早いという結論に達し、最近は殺虫スプレーの使用を控えつつ確殺できるようになってきた。といって、隙間に逃げ込まれそうな場合は結局、スプレーも使わざるを得ないのだが。

近接戦闘用の武器としてティッシュ箱を採用しているのは、長年の試行錯誤の結果だ。まず第一に「手近なところに常に存在する」点、次に「素早く片手で掴めて、しっかりと叩ける」点、最後に「底が平面である」点が採用理由である。新聞紙や雑誌を丸めたものよりも「作る」手間が省け、更に有効打面の面積が大きいため、Gの動きに多少遅れてもしっかりと仕留めることが出来るし、勢い余ってティッシュ箱を潰してしまったとしても大した問題にならないので、遠慮なく力をこめて叩くことが可能だ。猫用の水入れやら熱帯魚の水槽やら植物やら、殺虫剤を吹きかけたくないエリアがあちこちに点在する我が家では、殺虫スプレーよりもむしろティッシュ箱の方が汎用性の高い武器なのである。
デメリットがあるとすれば、Gを仕留めたそのティッシュ箱を、何食わぬ顔で再びテーブルに戻してしまうことが衛生観念上許されない場合だろう。我が家の場合は主婦たる私が気にしておらず、他の家族も気にしている様子が見当たらないので、不問としている。

私が住んでいるぐらいの田舎だと、Gの出現率は家の清潔度合いに関わらず、純粋に季節の移り変わりに依存する。Gは建物内から発生するのではなく、人間の手の及ばぬ外界で発生した「完全に野生のG」が外から侵入してくるからである。この地域に住み始めた10年ほど前、当時自宅の庭に生息していた野良猫の母子のために屋外に用意したキャットフードに、ざっと20匹近いGがたかっているのを見た時には、流石の私もゾッとした。
玄関を開けたらカナヘビをくわえたアオダイショウとばっちり目が合ってしまったり、飼い猫がネズミやモグラを仕留めて持ち帰ってきたりするなど、自宅の敷地内で食物連鎖が発生している風景にはだいぶ慣れていたものの、なんだかんだ高校まではアパート育ちで、かつ青春期を東京のコンクリートジャングルで過ごしてしまった私にとって、当時初めて知ったこの「野生のG」という概念は世界の一部が崩れたような衝撃があった。

そして現在住んでいる、築40年に差し掛かろうとしている木造平屋の住宅には、うっかりするとアリやらダンゴムシやら、夏場はカエルまで侵入してくるほどの杜撰なセキュリティしかなく、そんな状態を天下のGが見逃してくれるはずもない。当然の帰結として、毎年夏には幼体から成体まで、あらゆるサイズのGとの戦いが発生するのである。

そして、そんな環境で育った小学4年の私の息子は、どういうわけか虫が苦手になってしまった。数年前まではカエルもダンゴムシも大量に虫かごに詰めていたし、バッタやカマキリを捕まえては喜んでいたはずなのだが、ここ数年は「あつ森」のゲーム内でしか虫取りをせず、リアル世界ではGどころか、家の中にいた小さな虫を見つけてはしょっちゅう「虫がいたぁぁぁぁ!!ママやっつけてーーー!!」と叫んでいるほどである。
夏が苦手過ぎる私が虫取りに連れ出さなかったのが悪いのだろうか。いや、しかしなぁ……と首を捻りつつ、とりあえず自力対処を覚えさせようと、最近はGの発見報告以外はティッシュを1枚渡して終わりにしているが、放置しておいてよいのだろうかと若干迷っている。一人暮らしでGに対処できないのは不便だろうから、もう少し大きくなったら対G戦の手ほどきはしておくべきかな、とも思うのだが。

夫は特に虫が苦手なわけではない……と思うのだが、対G戦に関してはあまり得意でないようで、殺虫スプレーで弱ったGを、何故かティッシュで捕獲しては家の外に捨てる、というやり方をしている。潰すことに抵抗があり、かといって死んでいないGをごみ箱に捨てるのも嫌だ、という感覚なのだろうが、今一つピンと来ない。まぁアパート暮らしなわけでもないし、今の環境であれば問題はなさそうなので放ってある。
世の中のGが苦手な方々は、本当に本当に完全にダメで、ティッシュ越しに半死半生のGを触ることなど絶対無理!という場合も多そうなので、夫に関してはそこそこ大丈夫な方だと判断すべき……なのだろう。

私のように「今夜も仕留めてやったぜ、へへへ」とドス黒い喜びを得られるようになる必要はないが、息子がそれなりに対G戦を制せるようになれば、それだけで今の時代なら、男女問わずモテるような気がする。高校生ぐらいになったら「モテるためにギター?髪型?ファッション?いや、そんなことよりGをヤれるようになれ、確実にモテるぞ」などとそそのかせば、息子も前向きに対G戦に取り組めるようになったりするだろうか。

思えば高校時代に教室にGが出た時、私が退治しようとホウキを持ちだしたら、クラスの男子連中がざざっと広がって空間を作ってくれた上に「いけーーーっ!!新原やれーーっ!!」「頑張れ、そっちだーー!!」などと熱烈な応援をしてくれた事があった。当時は心底クラスメイトの男子たちにがっかりしたものだが、もしもあの時私の手からホウキを取って「俺がやる、任せろ」と言ってくれる男子がいたら絶対に惚れたと思う。そういう思考は今どきジェンダーの観点では歓迎されないのだろうが、そういうのってやっぱりあると思うんだよなぁ。

うん。別にGかどうかの問題では必ずしもないのだけれど、「誰かが怖かったり苦手だったり嫌だったりすることを、代わりにやってあげる」という思いやりはやっぱりモテる要素になるし、私は対G戦は別に全然やれるけど、それでもやっぱり代わってくれる人がいたとしたらカッコいいなぁと思うので、息子にはそれが出来るように可能な範囲での指導はしておこう。今の時点で指導しようとすると泣いちゃいそうだから、もうちょっと大きくなって、モテたいとか言い出してからにしよう。そうしよう。

そんなわけで夏はまだまだ当分続くので、対G戦・夏の陣、皆様もご一緒に頑張っていきましょう。ご武運を。

あ、今夜も2匹ほど仕留めました。ティッシュ箱で。ドヤァ!


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