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海外で働くということの難しさ

私自身が日本から単身で海外での就職、永住権の取得をしてきた経験があるため、これまでに私と同じように海外で働きたいという相談を受けてきました。思いつき程度の方にもかなり真剣に考えている方にも同じようなことを伝えているので、公にこの記事を書きます。これは私の観測範囲(カナダ)に限られ、渡航先の国や情勢によってもちろん変わることはあります、と前置いておきます。

未経験で自分が望む職種を希望し、その職業に就くことは自国内であってもなかなか簡単にはいきません。海外で働くというのは、それよりもさらに難しいということは明らかです。では何が難しいのか、その難しさの正体は何か、その難しさにどう備えるか、を少し具体的に話します。

まず何より大事なことが、渡航先の国でのWork Permitが取得できるか。Work Permitはビザの種類の一つです。ビザには他にもVisitor VisaやStudy Permit、永住権などがあります。ポスグラ(Post-Fraduation Work Permit)、CO-OP(職業体験ビザ)あたりが学生になることで取得できるWork Permitです。その次に大事なのが、仕事を得るスキルがあるか、資金があるか、その国での言葉を話せるか、ということです。

1. Work Permit
2. スキル
3. 資金
4. 語学力

1. Work Permit
渡航先の国で働くために、その国の政府から就労する許可を得る必要があります。Work Permitはだいたい以下の方法で取得することができます。

A. ワーキングホリデービザを使う
B. 就職先、または就職内定先の企業にスポンサーになってもらう
C. ポスグラ/CO-OPビザ(期限内で就労できるビザ)をサポートしてくれる学校を選び通学する

“A”のワーキングホリデービザは最強のカードです。他の全ての手段を講じてうまくいかなかった最後の手段として、慎重に使いましょう。よく、ワーキングホリデーを使って留学しよう、という言葉を目にしますが、これは留学斡旋業者が留学生を手っ取り早く留学させるため(あなたが鴨です)なので、耳を貸さないよう注意したいところです。

“B”の手段はとても難しいです。あなたの代わりは他にいない、数十万から数百万円のコストがかかるけどそれでもあなたを雇いたい、と就職先企業に思わせるほど、あなたに卓越したスキルがないと厳しいです。既に渡航先で就職している人たち、永住権を得ている人たちのほとんどは、彼らの勤務先にそう判断させ、企業にスポンサーになってもらった人たちです。企業がスポンサーになってもらうのは簡単ではありません。企業には金銭的なコストの他にも政府への申請、弁護士の雇用、また、政府から外国人労働者ではなく自国民を優先して雇用するなどの努力が求められます。

このため、計画性がある方はほぼ確実に”C”の手段を選んで渡航していると思います。(その後、"B"の手段を経て永住権を取得しますがこの記事では触れません。)ただし、この手段にはいくつかの考慮しなければいけない課題があります。

C1. 学費
C2. 語学力
C3. 選択できるコース
C4. 雇用市場とのマッチング

C1. 学費
まず、当たり前ですが学費を用意すること。ポスグラまたはCO-OPビザをサポートしてくれる学校は例外を除き、公立の学校がほとんどです。カナダの公立学校で同じコースを受ける場合、私たち外国人はカナダ人よりも高い学費を支払わなければいけません。これは決して不公平な差別ではありません。カナダ人は生まれてから今まで、学校を運営するのに使われる税金を納めてきており、私たち外国人はそうでないためです。また、語学力を証明する英語試験も、案外費用がかかります。

C2. 語学力
二つ目の課題は語学力です。どの国の学校でも、授業を受けるのに語学力は必須です。あなたの語学力が入学条件に満たない場合はいくら情熱があっても入学できません。語学力を審査するにあたってはIELTSなど他の英語試験のスコアが使われます。試験日の数週間前に試験を予約し、試験の結果をさらに数週間待ち、合格を確認してから入学願書を提出する必要があるので、計画的に試験を受けましょう。日本だけで有名なTOEICのスコアが役に立つことはありません。

C3. 選択できるコース
そして三つ目は選択できるコースが限られているということ。あなたの希望するコースがないかもしれません。もし希望するコースがあっても数年間の通学が必要で、それはあなたの予算をオーバーするかもしれません。

C4. 雇用市場とのマッチング
最後に、あなたの選びたいコースが就職に有利ではない分野の可能性も忘れないでください。コースを修了しても、就職先が無い、または賃金が低い。そんな分野は少なくありません。言い換えれば、あなたがコースを選ぶ際に(あなたにとって一番興味があるわけではないけど)雇用市場に求められているものを選ぶこともできます。ゴールに合わせ、逆算して戦略を立てるのは賢いです。

渡航してすぐに”B”の手段が取れることは滅多に無いので、あえて自分の専門分野のコースを選んでポスグラまたはCO-OPビザの取得を目指す方も何人も見てきました。既に日本で学んでいるため、渡航先の学校で新しく学べることはあまり無く、コスパは悪いのですが堅実な選択です。それほどまでにWork Permitの取得は難しいのです。

2. スキル
実際にどんなスキルを持つ、または習得することが海外で就職するために有利なのでしょう?渡航先の国がどんな技能を持った移民に自国で働いてもらいたいか、どんな労働者を欲しているか、と読み替えることで、そのスキルが見えてきます。例えばカナダにはExpress Entryという永住権を最速で取得する方法があり、特定の職種の方にはかなり有利です。裏を返せば、渡航先の政府が外国人の手を借りてでも自国で働いてほしい職種、需要がある職種、ということです。
カナダ政府のサイトによると、Skill level 0, type A, type Bの職種の外国人がExpress Entryに応募できる可能性があることが説明されています。サイトで例示されているのは以下の通りです。

Skill level 0
- レストラン経営者
- 鉱山の経営者
- 漁船の船長

Skill type A
- 医者
- 歯医者
- 建築家

Skill type B
- 料理人
- 配管工
- 電気技師

その国の雇用市場に合わせて自分でスキルを身につける、ということが海外就職というゲームを攻略するためにとても大切です。繰り返しますが、例えそれが自分の一番興味があることではないとしても、です。

3. 資金

ここまでで、頭の良いあなたはビザ取得のために通学しなければいけないかもしれないことがわかってきたはずです。あなたの選択する学校やコースによりますが、修了するまでに最低でも1年、2年のところもあればそれ以上のものもあるかもしれません。学費だけではなく、その間の生活費、通信費、一時帰国を検討しているのならその渡航費や、普段の交際費も必要になります。渡航先の物価を調べてシミュレートしておくと良いでしょう。私のいるカナダでは家賃と外食が高く、隣国アメリカのインフレの影響を受けて他の品目の物価も高騰しています。日本で働いているよりも高い水準の給与を受け取ることがあるかもしれませんが物価も高いので、懐は日本にいるよりも厳しい可能性も考えられます。

十分な費用が用意できていなくても、学生生活中のアルバイトで補えるのでは、と思ったあなたは賢いです。しかし、"アルバイトができる" ことと "アルバイトをしなければいけない" の違いに気をつけてください。カナダでは学生ならばWork Permitを持っていなくても週20時間までの労働が認められています。個人的には、少ない時給で少ない時間働くよりも、その時間を勉強に当てた方がコスパは高いと思います。しかし、働いている中で覚える英語や、学校以外の人との交流が生まれるので否定はしません。覚えておいて欲しいのは、あなたは渡航先の国の人と同じ授業を受けているということです。彼らもあなたと同様にコース修了後に就職活動を始めます。就職活動の競争相手になるのです。現地の言葉を流暢に話せて、企業がWork Permitなどのビザの面倒を見なくて良い、競争相手です。外国人であるあなたと彼ら、どちらが就職に結びつきやすいか、どうしたら競争に勝てるか、戦略を立てて行動しましょう。

4. 語学力

その国の言葉や文化を身につけたければその国へ行け(If you want to learn another language, the best thing you can do is immerse yourself in that culture.)。恥ずかしがらず、積極的にその国の言葉を使って生活をすれば、確実に話せるようになります。最低でも入学条件を満たす程度の語学力は必要です。もちろん、就職すれば同僚は容赦なく聞いたことのない言葉を使ってきますし、言葉がわからないのにわかったふりをしているとクビになることも十分あり得ます。入学条件を満たしてからも現地の言葉を学び続けることは必要です。

さいごに

海外で働く、ということは簡単なことではありません。大学の授業が大変で卒業前に挫折した人、就職はできたものの永住権の取得には至れなかった人、など、文化や言葉の違いを越えてきた人でも目標を達成できずに帰国せざるを得ない人を何人と見てきました。世知辛いかもしれません。条件が厳しすぎると思うかもしれません。しかし、雨が降って濡れることに文句を言う人よりもレインコートを着て濡れることを防ぐ人の方が賢いように、自分のコントロールできないことに不満を言うのではなく、自分のコントロールできるところでそれに対応する行動をとることを意識してみると道が開けてくると思います。

Note: 自分の一番興味がある分野を海外で学びたい場合、就職して永住権を得てから通学する選択肢も大いにあり得ます。”社会人大学”に相当する英語が無い程度に、社会人も当たり前のように大学に通います。



Note: 医者になるためには大学に何年も通う必要がありますが、Software Developerのように学歴があまり重要視されない職業は存在します。そういった職業であれば、少ない通学期間でも就職できるかもしれません。

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