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『手当たり日記 18』 見つからない器を求めて 2023年11月27日

ほしい器が見つからない。数日前から、ある器を探しているのだが、これがなかなか見つからない。どんな器と説明したら良いか。アメリカの田舎町にいけば必ずあるような、レトロなダイナーを思い浮かべてほしい。背もたれが高く、赤や茶などの生地で貼られたブース型ソファー。床が白黒の市松模様の場合もあるが、あれは大げさで、目立たない落ち着いた色が多い。それに引き換え壁は派手な色。赤と白の幾何学模様や、一面ターコイズブルーだったりもする。まあ、いろいろなスタイルがあるが、今思い出したのが『Pulp Fiction』だ。ジョン・トラボルタとサミュエル・L ・ジャクソンがコーヒーを飲んでいるところに、カップルが強盗を仕掛けるダイナー。あれだ。まさに、あのダイナーで使われているような、大量生産された堅牢な、陶器のスープボウルを探している。ベースは白か茶色。そして、何色でもいいのだけれど、縁にラインが入っていて、シリアルを入れたり、チキンスープやクラムチャウダーを入れるようなやつを探している。

そんなのどこにでもありそう、とたかを括っていたのだが、それが簡単な話ではない。昨日は、遅くならないうちに仕事を切り上げて、最初に思いついた食器屋へ向かった。恵比寿の「The Harvest Kitchen General Store」だ。あの店の店頭にはいつも、ダイナーにあるようなプレートやボウルが並べられているイメージがあった。そして大抵、積み上げられた皿やボウルの表面に、赤いペンで「SALE!〇〇円→〇〇円」と書かれている。勇足で向かったのだが、期待は無惨にも裏切られた。店先にはたしかに、赤字でSALEの字が踊るのだが、期待していた器はない。店内にもない。店員さんに必死に説明すると、ついこの間まではあったが、売り切れた、とのこと。素人目線の甘い見立てで恐縮だが、最近は北欧インテリアの流行りで、スカンジナビアを意識したデザインのものが増えている気がする。アメリカがいいのだ。北アメリカ、それも田舎のダイナーのやつ。その後も夜の恵比寿を歩き回るが、行き着くのは決まってフィンランドやノルウェーだった。

今夜も、仕事をそれなりに誤魔化して誰にも気づかれないように赤坂を出る。今日向かうのは渋谷。憂鬱だ。夜の渋谷での探し物は、普段の何倍ものエネルギーが必要になる。銀座線の地上改札を出ると、早速、広告の日差しがきつい。日が落ちた後の渋谷を歩く時は、街ゆく人を煌々と照らす電光広告をさけ、その日陰を歩きたくなる。それでいて、人通りの多くない道を探して歩く。やっぱりエネルギーが必要だ。まず、ACMEファニチャーのあるJournal Standardファーニチャーにあたりをつけていたのだが、残念。流行りのデンマーク調が待ち伏せていた。もはやハンズか?と思いつつも、ハズレ。ロフトにもなし。ヒカリエやスクランブルスクエアまで戻ってみるも、当たりはなし。オシャレなカンジのアパレルに、なぜか間違えて置いてあってくれ、と願いながら覗いてみるも、残念、全てハズレ。

こんなにも、モノが溢れた世の中で、探しているものは見つからない。なんという皮肉なのだろう。何度も妥協しそうになったが、その度にふぁにーちゃんのセンスということばを思い出して自分を奮い立たせた(手当たり日記08 生きるためのセンスをご参照ください)。そういえば、このnoteを始めた時に、自己紹介に、「自分だけにしかわからないかもしれないものを大事にしたい」と書いた。誰にでもわかるスカンジナビアに飲み込まれては行けない。アメリカンダイナーの灯火をたやすな。と謎の情熱すら湧いてきそうだった。

これでお終いにしよう、と思い、パルコに立ち寄った。かつて渋谷のカルチャーをカルディベートした旗振り役パルコ。今はどうだかわからない。わからないが、かけてみたかった。一階の陶器店には和食器のみ。あるとすれば、なにやらアウトドアなのかインドアなのかわからないほどゴージャスなキャンプグッズなどを売っている階か、ポップアップスペース階か。しかし、そこもハズレだった。肩を落として帰ろうとした矢先、何階だったか忘れたが、スケーターの方やポパイ読者が好みそうな靴下が見えた。ROTOTOとか言ったか。その店の奥に怪しげに光るヴィンテージ感漂う木の抽出しがあった。匂うぞ。そう思い、高さ30cmにも満たない抽出しのひとつを覗くと、民藝品のような焼き物や骨董品などが、入っている。ドキドキした。ひとつひとつ、丁寧に引いてあけ、これは花瓶だ。これは木の器。これはアフリカ民具だ。いや、まだ出会えるかもしれない。またひとつ、そしてまたひとつと抽出しをあけた。そして、ついに見つけたのだ。

控えめでなんとも愛くるしい小皿

ニアミスのプレートを。2枚で2500円くらいでした。購入。アメリカンダイナーにあるようなスープボウルは見つかるのか。旅はまだまだ続く。

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