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3月30日(月)うちのジャンバルジャン

夕方頃になると毎日廊下に出て庭越しに遠くの空を眺めるのが習慣になっている。コレをするとしないとでは密室に居続けることによる心身の閉塞感や平衡感覚の狂い、三半規管のバグの発生率などが全然違う。

わが家の間取りはかなり特殊な造りをしているため一般的感覚では伝えにくく、しかも機密情報保持の観点から伝えるわけにもいかないのだが、とにかくハハに脱衣場から廊下まで椅子をよっこらしょと持ってきてもらい、私はえっちらおっちらそこに腰掛け、ラストサムライの試写会で貰ったヘタすりゃ15年モノの膝掛けとムーミンの肩掛けを体に巻き付ける。その後は特にやることもできることもないので、歌を歌ったり会話をしたりして過ごす。

それらの工程が一通り終わると、私はこれまたおトイレの方へとえっちらおっちら歩いていき、用を足し、全自動ポンプ式の薬用せっけんミューズで手を洗い、それが終わったら椅子の方へとえっちらおっちら戻っていって休憩する。

その頃には日もずいぶん暮れているので、そろそろ帰りますかといった具合に窓を開け、肺いっぱいに外の空気を吸い込み、肺胞の隅々まで冷たく新鮮な酸素が行き渡っていることを実感すると、車椅子にこれまたえっちらおっちらと乗り込む。

着座に必要なクッションを腿の上に置き、お供に連れてきた小さなぬいぐるみを手に持ち、それでは出発しますかとハハが車椅子を押すと、「重ッ……!うっ、ぬあぁああ!!!」と、まるでレ・ミゼラブルで市町となったジャンバルジャンが転倒した荷馬車を持ち上げた時にあげた雄叫びにも似た呻き声をあげるので、私は爆笑し、今の瞬間がいかにジャンバルジャン度が高かったかを再現すると、ハハが「ひど〜い!」と言うので、「こういう場合どっちかというと酷いのは逆じゃない?重さを指摘されたのはこっちなんやから」と、校閲者のようなことを言い返した。

「だって重いんやもん」などとハハは言い、私も、それはもっともだ、もう十分に太り足りている、などと我が身の太り具合に関する双方の同意を交わし、うちのジャンバルジャンの非力によって反動を付けて徐々に進みだした車椅子はゴロゴロと細長い廊下を進んでいった。どん付きにある和室にゴールにする頃にはちょっとした遊びを終えた気分になる。

家の中を楽しむとはこういうことであり、こういう時だけは楽しいのだが、それ以外のほとんどは楽しくはないのがたまにキズである。しかしそれもまたBS1スペシャルとかETV特集のようで良いのかな、と思わなくもない今日この頃であった。


気が付いたらこの時からさらに1年が経過していた…


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