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塔の上の武田鉄矢

姿見の中に武田鉄矢がいた。情けないが自分の話である。

事件はお風呂上がりに起きた。一日二回目のお風呂に入りホッカホカの私。肌はバラ色に上気し、濡れ髪が大人の色気を演出…しているかと思って鏡を見たら、どう考えてもそこにいるのは武田鉄矢だった。

伸びきった前髪は蒸気でベタッとしているし、分け目も絶妙な位置だ。伸び切った髪は毛先が四方八方に向いていて、こりゃどう見ても哲也だよ。狂おしいほどに哲也だよ。

「ありのままの姿見せるのよ?」
こんな姿を見せている場合ではない。

「ありのままの自分になるの?」
ありのままの自分になった先に武田鉄矢が待っているとは夢にも思わなかった。

かつてglobeは歌っていた。
「鏡に映ったあなたと二人。情けないようでたくましくもある」

これは哲也と私の歌だ。鏡の中の本当の私、それは哲也。こんなにも情けないのに、なぜかたくましい気持ちにさせられた。私は口ずさんだ。
「顔と顔を寄せ合いなぐさめあったら…」

鏡に顔を寄せて目が冷めた。こりゃダメだ。哲也のままでいいわけない。塔の上のラプンツェルのつもりだったのに、いつのまにか塔の上の武田鉄矢になってしまっていたなんて。

私は冬の夜空に誓った。もう少しだけ、かわいくなれるように頑張りますと――。

HAPPY LUCKY LOVE SMILE PEACE DREAM !! (アンミカさんが寝る前に唱えている言葉)💞