皆様は「眼鏡（めがね）」という道具をご存知だろうか？　これは視力を矯正するための道具で、両目の前に一対のガラス板を乗せておくと、視界がクッキリと明るくなり、遠くまで見えるようになる優れものである。

眼鏡の創世記の雰囲気が出るかと思い、あえてこのような書き出しにしてみたものの、旧知の物体について詳しく紹介するのはなかなか難しいことである。言葉で説明するよりも実物で見せたほうがよっぽど早いが、先の未来、何があるかはわからない。文明が途絶えた世界で生き残り、荒廃した地球に産まれた子孫たちに「眼鏡ってなあに？」と聞かれる可能性も100%無いとは言い切れない。いざという時のためにも、眼鏡の説明ができる立派な大人になりたいものである。

メガネユーザーには大変なあるある話だろうが、私もまた、メガネをよく失くす。失くす、と言っても、完全にどこかにやってしまって二度と見付からない、ということではなく、どこに置いたか思い出せず、数分から数十分、部屋中を当て所なく探して回るだけの、お気楽なタイプの"紛失"である。

紛失に気楽も何もないが、思えば"メガネを完全に失くしてしまった人"というのはあまり聞いたことがない。メガネという道具はあまりにも失くしやすい一方で、完全には失われることのない、何やら特殊な性質を持つ物体のようだ。この特性についてもぜひ未来の子孫に伝えていきたいが、実際に失くしてみないと分かりにくいところがあるだろう。情景の描写能力が問われる部分だ。

短期的なメガネの紛失においてあるあるなのが、「メガネを探しているのに、メガネがないため周りがよく見えず、見つからなさに拍車が掛かる」という現象だ。私は（そして私たちメガネユーザーは）、この現象に長きにわたり悩まされてきた。探し物をする時にこそ、"よく見えるようになる"というメガネの特性を活かす絶好のチャンスなのに、そんな時に限ってメガネが手元にはないのだ。なぜなら探しているから。まったく、メガネというやつは山崎まさよしの歌以上に見つかりにくく、人騒がせな存在のようだ。

いつでも探しているよ
どっかに君の姿を
向かいのホーム
路地裏の窓
こんなとこにいるはずもないのに…

向かいのホームや路地裏の窓に捜索中のメガネが落ちていたら、踏み潰されたり落下したりの危険があり、それこそメガネ存続の危機だ。メガネは、失いやすく繊細。まるで儚い恋心のようだ。思わぬ事故に巻き込まれぬよう、できる限り早く見つけてあげることが急務となってくる。

そこで活躍するのが"メガネを探す用のメガネ"だ。これはその名の通り、メガネを探す時にのみ使用する、言わば二軍のメガネのことで、捜索時以外は定位置に置いておくことになる。定位置にメガネがあれば、メガネを失くした時、あまり目が見えなくとも手探りで手に取ることができるし、これを装着すれば視力も回復するので、一軍のメガネの捜索もうんと容易になる。

私はこの"メガネを探す用のメガネ"の必要性を十年は昔から提唱しているのだが、いまだにメガネ屋において"メガネを探す用のメガネ"のコーナーが設置される気配はない。実際、設置されたとしたら相当ばかばかしくて笑ってしまうだろうが、そういうばかばかしさもたまには必要だろうと思うので、やはり眼鏡業界で"メガネを探す用のメガネ"の波が来ることを祈るしかない。

ばかばかしさというのは無駄さやギャップの中で光る。メガネを探す用のメガネは、できれば格安メガネチェーン店ではなく、白山眼鏡のような、高価ブランド眼鏡店において展開されてほしい。それか、レイバンでもいいかもしれない。レイバンといえば「レイバンのサングラスは好きですか？」のSNS乗っ取りでお馴染みであり、本来のブランド価値はよく知らないが（結構ちゃんとしたブランドなのかもしれない）、すでにそこはかとないおもしろオーラを纏っている。

もっとも、レイバンはサングラス専門ブランドでメガネは作っていなさそうな気もする。その場合は度入りサングラスにすることでメガネを探す役割を果たせるようになるとは思うのだが、レンズに色が付いていると探し物がしにくそうだ。"メガネを探す用のメガネ（サングラス）"のはずなのに本末転倒な気もするが、室内でサングラスをかけてウロウロウロウロ、一軍のメガネを探している姿を想像するのは、それだけでかなり楽しい。サングラスというところもまあまあおかしいが、それより単純に、人がメガネを探している姿そのものが面白い。人がメガネを探す姿というのはどうしてこんなにも面白いのだろう。

ところで、一つ大きな問題がある。それは、"メガネを探す用のメガネ"すら失くす可能性がある、ということである。メガネを探す用のメガネすら失くしてしまったら、探すべきメガネが二つに増えてしまうので、これはもう捜索も随分入り組んできて大変である。同居する家族などには、「あの人はまたメガネ探してるよ…二つもメガネがあるっていうのに…」などと呆れられるだろう。

"メガネを探す用のメガネを探す用のメガネ"を導入する日も、近い。