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「ル・ソレアル(ポナン)」鳥取寄港に寄せて南極~鳥取に思いをはせる

日本海新聞文化7面(2023年4月30日)
鳥取港に11年ぶりとなる国際クルーズ船「ル・ソレアル(ポナン)」が寄港した。世界中がパンデミックに見舞われる予兆を感じた2020年2月。写真家は「ル・ソレアル」に乗船し、サウスジョージア島を含む8回目の南極への旅の途にあった。3週間の撮影を終え、南米最南端の町・ウシュアイアで「ル・ソレアル」に別れを告げた際、3年間の長期に渡り、海外渡航のない日常が待ち受けているとは思いもしなかった。同時に「ル・ソレアル」との再会の地が故郷・鳥取になるとは想像すらつかない日々だった。カメラマンとしての実績はそのまま客船写真家の経歴と重なる。2023年で25年目を迎えた写真家生活、これまで100に近い国や地域を訪れてきた。海に囲まれていない鳥取県八頭町で小中高生時代を過ごし、1999年春、客船専属のカメラマンとしてキャリアをスタートさせた。フリーカメラマンとなった後も国内外の客船に乗り込み、取材や撮影を行ってきた。客船会社への写真提供、雑誌への寄稿、カレンダーなどへの採用と仕事は多岐に渡った。日本中、世界中の港に入港する客船をヘリコプターやチャーター船から撮影した。スエズ運河やノルウェ―のフィヨルドでは車で客船を追いかけながら撮影を行ったこともある。この春、「ル・ソレアル」が山陰海岸ジオパークの浦富海岸沖に錨泊し、ゾディアック(*)南極上陸の際などに使用されるインフレータブルボートで網代港に乗り入れると聞いた。居ても立っても居られず、横浜から車を走らせ、鳥取へ。千貫松島を眺める遊歩道で「ル・ソレアル」を待ち構えた。日本国内で客船を追いかけ、待ち構えたのはいつの日以来だろう?瀬戸大橋の一番高い場所からの撮影(特別許可を申請)、尾道からほど近い山上から朝霧の中の客船をファインダーで捉えたことなど思い出は尽きない。鳥取寄港日の4月17日。早朝に雨は止んだものの、北からの強い風の影響を受け、網代港へのゾディアックでの入港は中止となった。地域の小学校ではフランス人が多数を占める船客との交流プログラムが予定されていたと地元漁師から聞いた。残念な気持ちを抱いたが、天候ばかりはどうにもならないことを身に染みて経験してきた。予定時刻通りの入港となった鳥取港の岸壁では麒麟獅子舞が乗客を出迎えた。逢鷲太鼓が鳴り響く中、このほど夏の風物詩として4年ぶりに制限なしでの開催が決まった鳥取しゃんしゃん傘踊りが披露された。通訳などを担当し、船客を歓迎したのは、地元の高校生たち。長引くコロナ禍で外国人との接点は減少したという。異文化交流の機会作りは大人たちが果たすべき役割のひとつである。船客はツアーで鳥取砂丘や砂の美術館、倉吉の白壁土蔵群を訪れた。平井知事はこう述べた。「鳥取のアドベンチャーが一つのテーマとなるツーリズムの時代になった。」世界を巡る冒険船は時代の先端を航海してきた。日本の小さな港を小型客船が訪れる機会は今後確実に増えていく。今回、ポナン社が航路決定をした背景には江戸時代中期から明治にかけて日本海を往来していた北前船の寄港地をたどるというテーマ設定があった。北前船が運んだのは売り買いする商品だけではなく、異なる文化や人々の交流の機会である。地方都市である鳥取から地域や食の魅力、自然環境の素晴らしさを伝えていくこと。鳥取砂丘を含むユネスコ認定の山陰海岸ジオパーク、因州和紙や民藝など再評価が高まる伝統的な文化や産業の価値を改めて認識すること。点在する鳥取の魅力を集結し、世界に向けて積極的に発信することが今の時代、強く求められる。写真家は10年以上、故郷・鳥取に通いながら、写真を撮り続け、日本の原風景を探し続けてきた。最果ての地・南極同等に魅力溢れる日本の自然、文化と歴史。未来に向けて守るべき、次世代に向けて伝えるべき郷土の誇りが鳥取には間違いなく存在すると客船の寄港を機に改めて確信している。 
写真・文:水本俊也(写真家、鳥取県八頭町出身、神奈川県横浜市在住)