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医師のお願いしたい、「問診票の書きかた」

今回もワクチン関連のお話です。
前回は「問診する側」の話でしたが、今回は「受ける側」のお話。
ワクチンにしても、病院受診にしても必ずと言っていいほど最初書かされるのが「問診票」です。

ただ医者として問診していると結構あるのが、問診票にある質問を対面で再度すると、違う答えが返ってくるということ。
確かにあまり医者読んでいる気がしないし、適当に書きたくなる気持ちも分かりますが、ざっと見に見えて医師は必ず幾つかの情報をチェックしています。

コロナワクチンに限らず、問診票って書く機会が多いと思いますが、今回は医師側から問診票をどの様に読んでいるか、そしてどう書いて欲しいかをまとめました。

医師側の視点として、(コロナワクチンの)問診票で重要なポイントは3つです。
①接種できない条件がないかの確認
②重篤な合併症であるアナフィラキシーのリスクが高い接種者を判別する
③緊急時の情報源にする

そしてこれらの為に、皆さんに伝えたいのが以下の3つです。
・自己判断で省略しない(特に薬・アレルギーについては全て書く)
・毎回全て書く(1回目で接種に支障ないと言われたとしても)
・薬を自分で勝手に中断しない!

以下に問診していてよくある事案を紹介します。

「この薬はいいかなって思って」

特に多いのが高血圧の患者さん。内服の質問欄が「いいえ」でも、問診で再度内服について聞くと、「あ、血圧の薬は飲んでます」と答える方、結構多いのです。あとは抗凝固薬(血液サラサラの薬)は書いてくれていても、降圧薬は書いてないという事も。

会場で我々が注意しているのはアナフィラキシーですが、不幸にして「その15分でアナフィラキシー以外の重篤な何か」を起こしてしまう方がいない訳ではありません。その時に、例えば血圧の薬を飲んでいる人、という情報があるだけでも、医師は多くの危機的疾患を想定して対処できます。何もない方が会場でいきなり倒れたらまずアナフィラキシーを疑いますが、基礎疾患がある方であれば別の可能性も想定できます。
先ほどにあげた③のポイントですが、緊急時にはこれらも重要な情報なのです。しっかり今治療している疾患、アレルギーについて書き、薬についてはお薬手帳をご持参ください。
(本当にお薬手帳持ってこない方多い!!!)

但しこれは問診票の問題もあると思います。病名が「選択式+その他」になっており、「選択欄にないものは書かなくてもいい」と思っている方もおそらく多数。ここに高血圧や不整脈など具体的な病名がなく、「心臓病」としてまとめられていますし、脳梗塞(抗凝固薬飲んでいることが多い)は対象になる欄がありません。
このあたりは問診票の改善が望まれるところです。

「1回目大丈夫だと言われたので、2回目では書きませんでした」 
「主治医にいいと言われたので書かなかった」

結構問診でお見かけするのが、「1(2)回目はきちんと書いたけど、接種OKだったので、今回は書きませんでした」ということ。あとは「主治医の先生に接種は問題ないと言われたので、書きませんでした」というのも多いです。これは薬に限らず、アレルギー歴でもみられます。

冷静に考えてください。「治療(投薬など)を受けていますか」と質問されて、「いいえ」と答えながら薬を飲んでるって、それ「嘘」です。
「●●だから書かなくていい」は勝手な自己解釈としか言えませんし、何よりそれで不利益を被るのは皆さんです。

1回目と2回目の問診医は違います。そして問診票が大事になるのは「何か起きた時」です。
例えば接種後にあなたが倒れたとして、その時にあなたの情報を得る一番の早い手段は問診票です。その時にあなたが話せなかったら、問診票にない情報は全く伝わりません。先ほど書きましたが、血圧の薬を飲んでいる、という情報だけでも想定疾患が変わるのです。これが伝わらなくて見逃されたとすれば、大きな不利益になりかねません。

特に重要なのはアレルギー歴です。
「1回目でアレルギー書いたけど、接種できると言われたので、今回は書きませんでした」という方もおられます。しかし「1回目起きなかったから、2回目も起きない」という保証はありません
もし2回目でアナフィラキシーを起こした時に、このアレルギー欄に記載があれば、医療者はより強くアナフィラキシーの可能性を考慮します。
確かに時々、「それはアレルギーではない・・・」という事を書かれる方もおられるのですが、書かないよりは遥かに良いです。

私はあえてこの2つについては再度聞き直していますが、結局追記するので、是非ご自分で書いていただけると助かります。

「いつも飲んでいるわけではないので書きませんでした」

薬の欄を見て、我々はワクチン接種に影響するか?以外にも色々な事を考えます。
例えば頭痛で時々薬を飲んでいる、と言われたら、その内容と、最終服用時間を聞きます。痛み止め(=解熱鎮痛薬)は、副作用予防の為に内服の間隔を空けなければなりません。頭痛で接種1時間前に薬を飲んだ、と言われたら、その後副反応が出たとしても飲めない時間がしばらくあるのです。こういう指導も行います。
このため、「時々飲んでいる薬」も含めて、今飲んでいるものは全部書いてください。

「今日は接種なので飲んでいません」

時々「今日接種するから」と内服を自己中断してくる方がいます。
殆どの薬で接種が問題になる事はなく、逆に中断によるデメリットが多い薬が沢山あります(降圧薬、喘息など)。こういう場合にはむしろ、「副反応などの際にも内服は中止しないでください」とお話ししています。
書かないのも自己判断として困りますが、こっちの自己判断も結構困ります。

また、ファイザー・モデルナにおいてはあまり重要ではありませんが、結構皆さん書いて下さらないのがピルとサプリ・漢方
特に産婦人科医としては、ピルは必ず書いて欲しい薬の1つです。病院の問診票でも書いて下さらない方が多く問題になります。初診から手術になるまで、何度内服薬を聞いても答えてくれず、手術前日の入院時の薬剤師による服薬チェックで見つかる、なんて事があります。
こうなると内服中の方は手術できないので、手術は中止。そのまま退院し、後日予定組み直しになります。準備してきた本人にとっても大損なのです。

サプリ・漢方についても、処方薬と飲み合わせが関わることがありますし、内科などでは実は主訴がサプリの副作用だった、なんてこともあります。
今後の問診票で書いて頂ける様にと思いつつ、ワクチンの問診でも私は書いてください、とお話しさせていただいています。

まとめ

総じて言える事ですが、「自分で情報を取捨選択」するのはやめて欲しいのです。
医師はじめ医療者は、国家試験を受け、更に現場で専門的なトレーニングを受けてきたプロです。皆さんが薬を1つ見て考える事と、我々が1つ見て考える事は遥かに情報量が違うのです
皆さんが「これくらい」と思って書かなかった情報の中に、凄く重要な情報が紛れていることは決して少なくありません。

いざという時、書いていれば身を守れる事は多々あります。
書いていないで不利益を被ったとしても、我々医療者はどうすることもできません。知らないものは考えようがないのです。
自分の身を守るために、どうか面倒がらずに、正確に、書き過ぎなくらいに書いてください。

最後に大事な事を。
問診で聞かれても答えないのは絶対にやめてくださいね。それをされたら、我々は何があっても責任を取ることはできません。薬飲んでるの恥ずかしい、言いたくない。そんな気持ちは理解しますが、それで不利益を被るのはあなたです。
もし問診票で書き忘れた事を聞かれても、恥ずかしがらずに答えてください。わざわざその為に聞いているのですから。

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