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真っ直ぐ分散した


 金がないときこそ格好の良い金の使い方をしたいなあ、とぼんやり思って地下鉄に乗っていると、ざわざわと乗客が騒ぎだし、ひとりの着座した男性の周りを避けるようにして皆移動しはじめた。ちょっとしたパニックというかんじなのだけど、当の男性というと放けたように笑っている。笑っているし、なにか気持ちよさそうにしてる。作業着で、鉢巻の上にニットキャップで、不精髭だけど酒の缶や瓶は持ってない、それで恍惚としているから、彼はなるほど男性は奇声をあげたり、意味のわからない行動を取ったりし、それで皆は少し不思議がったり、少し恐怖を感じるなどして距離を取ったのだろうと思った。男性は「うっぷ」と言ってしゃくりあげた。その声に、彼も含めた車両の全員がびくっとし、彼はそれを面白いと思い、緊張も緩和されたので少し笑った。次の停車駅でドアが開くと、駅員は連れ立って四人一挙に駆け込んでき、その拍子に幾人かの乗客は扉から別の車両に移動した、男性は骨のないような動きで駅員に連行され、座席はひっくり返され、後には少しだけの異臭が残った。その異臭は淀川のようだったけど、それより少し若いかんじだった。パルコとか大丸がある駅で、男性はなんで恍惚だっただろう。彼は少し気持ち良い気分だった。金のないときこそ、格好いい金の使い方をしたいなあ。拾ったものを、売ったりしようか。ものを買ったり貯めたりしたり、もしくはいっそあげたりしたら、失礼にならなかったら。そもそも御堂筋とは北御堂さんと南御堂さんを結ぶから御堂筋、とつい最近聞いたのだった。どでかい一方通行の地下、卑らしさと爽やかさがちょうど半分半分。

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