泣くな、桑子ちゃん。Smapの「Triangle」再ヒットを伝えるNHK朝のニュースを見て思ったこと。そんな、情緒的な話じゃない。作詞作曲の市川さんも、そんな単純なことは言ってなかったぞ。


 今朝のNHKニュース7時半くらいに、桑子ちゃんが泣いちゃった、というのを見ろ見ろと妻がいうので何事かと思ったら、スマップの「Triangle」という、911のあとのテロとの戦い、アフガニスタンの混乱を見た市川喜康さんという方が作詞作曲した曲が、今、再び注目を浴びてヒットしている、というニュース。市川さんの語っていることはしごく真っ当なのだが、NHKの伝え方は、なんだかひどくおかしい。


 市川さんは911のあとの「テロとの戦い」「アフガニスタンの混乱」を見て作ったというのだな。繰り返される「大国」という言葉は、この曲が作られたときは、どう考えてもアメリカを指している。正義を振りかざして、テロとの戦いが正義だと信じてアフガニスタンに乗り込んだ米兵が向ける銃が、本当に正しいものなのかという、複雑な戦争への思いが歌われている。大国のヒーローは、精悍に構える銃は、本当に正義なのか。戦火の少女を救うつもりの銃が、その少女の父親に向けられているのではないか。そういうテロとの戦いの理不尽、アフガンの混乱、そういうものを見て、この曲は作られたのじゃないか。


 ロシアという大国がウクライナに攻め込んで、ウクライナの子供たちが苦しみ悲しんでいる、そのことを批判して反戦デモをしている日本の若者たちの映像を重ねる。ん?そういうことか。大国ロシアが悪で、戦火の少女は当然被害者で。「精悍な顔つきでに構えた銃」は、誰にあたるのかな、キエフの志願兵かな。今回は。そんな単純なことじゃあないよね。そんな単純なことをこの曲は言っていないよな。ドネツク・ルパンスクで、どちらサイドの住民にも銃は向けられ、どちらの若者も精悍な顔つきで銃を構えている。アフガニスタンで、米国から見るとテロリストと同義だったタリバンが、結局、米軍を追い出して政権を取ったように。米国が、アフガンに平和をもたらすつもりで活動した米兵が、タリバンだけでなく現地の、地方の保守的な人たちに嫌われたのは、アフガニスタンで、正義のつもりで、地元の人を傷つけるようなことをたくさんしてしまったからだよね。


 CNNもBBCも、戦火の中の被害者、赤ん坊、妊婦さん、子ども、老人、恋人たち、いちばん情緒的に可哀そう、と思える人たちの映像を、インタビューを取材する。放送する。このニュースも、どうしてNHKはそういう情緒的なものにしようとするのだろう。なんか変だ。

 スマップを、その曲を聞く人を、バカにしているんじゃないのか。なんとなく情緒的に戦争いやだ、子どもが可哀そう、だからウクライナ可哀そう、ロシアは悪者、そんな単純化にこの曲を使うなよ。作者に失礼だと思うぞ。リスナーにも失礼だと思うぞ。


 精悍な顔つきで構えた銃 大国のヒーロー 戦火の少女 市川さんが描く歌詞は、そういう断片的イメージの向こう側を、情緒的に捉えるのではなく、それについて考えよう、何が起きているのか考えようということを、僕らに突き付けているのだ。市川さんはそういうことを語っているのだがな、インタビューでは。


 桑子ちゃんは、そこで泣いてはいけないんだと思うんだよな。桑子ちゃんは頭のいいひとだから、もちろん、事の複雑さは理解していると思う。でも、情緒的な「戦火の少女」で、桑子ちゃんが泣いちゃうと、すごく単純化して、ことを捉えちゃう人が、日本中に、たくさん出てきちゃうよ。

 戦火の元で、子供たちがひどく可哀そうなのは、それは当たり前だし、ヒーローのように精悍に銃を構える、正義の側とおぼしき兵士は、かっこよく見える、ヒロイックな高揚もある。でも、戦争の中であっても、誰の命も大切な命だ、ということを歌詞は歌っていて、善悪定かでない「大国のヒーロー」の命も大切なんだ、と歌っているんだよ、スマップは。


 僕は、「戦争をやめろ」と叫ぶ人のことは認めし、僕も心から戦争をやめてほしい、戦闘を止めてほしいと思う。

 でも、ロシア兵が死んだらざまあみろ、という人のことは認めない。そんな単純な戦争ではない。ロシアの徴兵されて演習だと言われて連れて行かれ、米国がウクライナ側に支給した対戦車兵器ジャベリンで、戦車装甲車ごと丸焼きにされたロシアの18歳とか20歳の若者のことを「ざまあ」とか言うやつのことは認めない。あそこにいる、どちらの立場の、どの命も同じように大切な命だとこの歌は歌っている。

 じゃあ、どうしたらいいの。

 じゃあどうしたらいいの。みんなそういう。僕に言うんだ。僕が何か、答えを知っているかみたいに。僕が答えを知っていなきゃいけないみたいに。

 わかるわけないよ。だから、知って、考えるんだよ。知らないことを、学んで、知って、あっちの立場こっちの立場、歴史、それぞれの思いを知って、考えるんだよ。「じゃあ、どうすればいいの」って、僕に聞くなよ。


「他でもなく、僕らの心に突きつけられている」って、スマップも歌っているじゃないか。自分で考えるんだよ。


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