見出し画像

映画と車が紡ぐ世界chapter81

ドニー・ダーコ ~ アウディA1 1.4TFSI 2011年式 ~
Donnie Darko ~ Audi A1 1.4TFSI 2011 ~

茶畑が織りなす 山肌のストライプが
この地の謂(いわ)れを刻む 集積回路のようだ
五月風と 陽の光を受けて 
ところどころ 茶の葉が Kirari Kirari・・・ 
人の記憶も 極少パルスで成り立っているとすれば
この山の記憶 そして感情も あの輝きの中に凝縮されているのだろう
 
思いっきり深呼吸する・・・
八十八夜を迎えた山間の 
どことなく甘美な空気は どこまでも優しかった・・・

茶摘みの風景をカメラに収めようと 
天然のマザーボード(茶畑)を横目で見ながら 
A1のアクセルを踏む

と そのとき!!

Doka!!

突然 つげの笠をかぶった人が 茶畑から飛び出してきた
自転車並みの低速で走行中だったA1の側面に
ぶつかったのが幸いだった

「ごめんなさい・・・」
フワリと弧を描いた 笠の下から現れたのは
グレッチェン・ロス(Jena Malone)に似た 
ストレートヘアーの女性

ひとつ間違えば 犯罪者になっていた僕!
腹を立てる気満々だったが
さらりと 僕の心に浸透してくる 
カノジョの雰囲気が その機会を永遠に封印した

それどころか・・・
茶摘みの衣装を纏った 
カノジョの天然の輝きに魅了された僕は
無意識に言っていた

「モデルになっていただけますか?」・・・と

新緑の茶畑の ど真ん中
茶摘み畑で育った カノジョの小麦色の笑顔は 
数々の名画で描かれたヒロインを 凌駕する

一目惚れした僕は 茶摘みで傷だらけのカノジョの両手を握ると
その日のうちに プロポーズした
そんな 僕の拙速な行動にもカノジョは さらりとOKを出した

夢のような出来事だった

しかし・・・
茶畑から遠のいた生活を続けること半年経った秋番茶を摘む頃 
僕たちの関係は 終焉を迎えた
都会に馴染めないカノジョの胸に溜まった 
カプカプとした思いが 限界を迎え 小さな口喧嘩の末に 
家を飛び出したカノジョに 車が突進してきた

今度の車は ゆっくりとは 走っていなかった・・・

カノジョの人生は あっさりと終わった
涙に明け暮れた僕は 
カノジョの写真を見つめているうちに Donnie Darkoを思い出した・・・

たった一度だけ 未来を変えることができる力・・・
それを使えば カノジョは救える 
しかし それと引き換えに 
自分の存在は カノジョの記憶から消えていく・・・ それでも・・・

ふと目を開けると あたりは 一面新緑の茶畑

「夢か・・・」

甘い香りに誘われて 
僕は いつしか転寝(うたたね)していたようだ
A1の運転席から 下りた僕は 大きく深呼吸した後 
フリスクをカリッと噛んで A1を発車させた

暫く進むと 
見覚えのある景色が現れた

「あそこは カノジョが飛び出してきた場所だ・・・」

僕は車を10m手前で停止させた

♪ Phillip Phillips - Gone, Gone, Gone ♪

!!
突然 つげの笠をかぶった女性が 茶畑から飛び出してきた

Dosa!!

「痛たた・・・」

笠をつけたままで 恥ずかしそうに 
ぺこりと頭を下げた女性は そのままA1に背を向け走り出す

「Chika K・・・」

カノジョを 呼び止めるのは やめることにした
その代わり・・・
カノジョが落としていった 茜襷を手に取った

茶摘みで 
止血剤として使われた真っ赤な布が 僕のハートの傷を フワリと覆う

出会わないこと・・・
それが カノジョに対する 僕の愛だった・・・


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?