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映画と車が紡ぐ世界chapter86

史上最大の作戦  ポンティアック ファイヤーバード トランザム1970年式 ~
The Longest Day ~ Pontiac Firebird Trans Am 1970 ~


幾重もの荒波を越えて スタートしたカノジョとの生活は
通いなれたコンビニや路地裏の風景さえも
銀幕のワンシーンに変えてくれた
風に揺られる草木や 軒下を滑空するツバメたちの囁きが 
タランテラに聞こえるほど 幸せな毎日が続く中で
僕たちの唯一の願いは 新しいファミリーの誕生だった
 
早くに両親を失くしていた僕らにとって 
子供を願う 共通の想いは あまりにも重すぎたのだろうか
天界に届くまで11年・・・

ようやく灯った小さな命も 
光りに満ちた世界を見ることなく 
カノジョの中で 線香花火の如く散ってしまった 

それから一月後 1通の手紙を残して カノジョは出ていった

~ 想いを叶えられなくて ごめんなさい ~

庭には 珍しく ツバメシジミが飛んでいた
遠い遠い昔・・・ 
道を行けば 無数に飛んでいた シジミ蝶たちは 
どこへ行ってしまったのだろう・・・
見上げる空は 
梅雨を予感させるように 潤色が広がっていた

それから一年・・・
何の手掛かりも見つけられずに迎えた 6月6日
カノジョと過ごした 記憶の断片を糧に生きてきた 僕は 
今日の作戦を最後に カノジョを忘れようと心に決めていた

「今日は 長い長い一日(The Longest Day)になるな」

1970年式 ポンティアック ファイヤーバードは 
真夜中のハイウェイを 西へ向かう 目指すは 1200k離れた九十九島

「九十九島って 
 本当は208の島で できてるの
 それを 百に一つ足りない九十九と書いて
 無数の島っていう意味を持たせるなんて  ロマンチックよね・・・ 
 いつか 一緒に見にいきましょうね」

記憶の中のカノジョが 呼んでいる
そんな想いだけを頼りに 僕はアクセルを踏み込んだ
 
瀬戸内の香りを感じ始めたころ 明るくなってきた空
中間点にたどり着いた僕は
370馬力のラム・エアーIVを休息させるために サービスエリアに立ち寄る
アイスコーヒーを一気飲みした後 
ブラックフリスクを噛み砕いて 眠気を遠ざけようとしていると
空から 降りてきたモンシロチョウ
僕の廻りを2回転すると フワフワ風に乗りながら 西の空へ向かう

「よし! 行こう!」

促されるように 
僕はファイヤーバードのエンジンを再始動させた

17時間のドライビングの終着地 展海峰
疲れ切ったファイヤーバードを駐車場に停めた僕は 
展望台に向かった

Dokin! Dokin!

弾丸が飛び交う中 パラシュート降下する落下傘部隊のように
ただ ただ 神頼みの結末に向けて 心臓が爆発し続ける

!!

藍色の海 そして無数の深緑の島・・・
日本書紀の国生み想起させる 神々しく澄んだ景色・・・ 
カノジョの瞳の奥にあった風景が 目の前に広がる

でも・・・ 
ただ・・・ それだけだった

「そりゃ そうだよな・・・」
理性を取り戻せばわかることだ
今日・・・ここに カノジョが いるはずがない・・・ 

僕のノルマンディ上陸作戦は 失敗に終わった・・・

「また来るよ・・・」
島々に向かって 意思のない独り言をつぶやく僕の前に
突如 ミヤマカラスアゲハが現れた

フワリ フワリ

カラスアゲハは 
精気を拡散しながら 彷徨う僕を 駐車場まで誘うように飛んだ

Hyuuuuuuuuuuuuuuuuu

一陣の風が チョウを空高く舞い上がらせた そのとき・・・ 
 
「もう子供は 産めないのよ」
純白のワンピースを着たカノジョが ファイヤーバード前に立っていた
 
涙一杯のカノジョを 僕は 思い切り抱きしめた
「君が 横にいてくれるだけで 僕は九十九回 幸せになれる」

6月6日は 僕らの結婚記念日
ファイヤーバードの ボンネットには 
天に上る 
一対のミヤマカラスアゲハが 映っていた

♪ Jack & Diane-John Mellencamp ♪


1944.6.6 ノルマンディ上陸作戦が決行されました 
因みに史上最大の作戦に出演していた 
ジョンウェインは 映画「McQ」で1970年式ファイヤーバードを駆ってます


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