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【ショートショート】         映画と車が紡ぐ世界 chapter29

レインマン ~ ランチア デルタ HF インテグラーレ 1988年式 ~
Rain Man ~ Lancia Delta HF Integrale 1988 ~

「えっ これ以上 先には進めないだって!」

「はい・・・ 
 昨晩から続くこの大雨で この先の線路が土砂崩れにあって・・・」
若い駅員が 申し訳なさそうに答える

「どうしても 今日中に 行かなきゃいけんないんだ!」
ポールスミスのネクタイを
ウィンザーノットで締める男が 必至になって叫ぶ

「そうおっしゃられても この駅にはタクシーもこないので・・・」

男は 糸の切れたマリオネットのように 
がっくりと膝をついた

コンビニを探そうと
駅の中を彷徨っていた僕は 
インテグラーレに戻ると 呟いた

「あの人・・・ 乗せてやりたいのかい?」

Whoooon!
軽くエンジンが呼応した

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昨日から降り続いている雨は 
大型連休には そぐわない台風並みの低気圧が原因だ

「この天気じゃ 山に来るのも 海パンが必要だよ
 それなのに 君はダンスホールにでも行くような格好だね」

僕は冗談を交えて 彼に言った
 
「今日は 彼女のお父さんの命日なんです」
助手席で濡れた頭を拭く男は 
几帳面な話し方だった

「そして そこで僕は彼女にプロポーズするんです 
 男手一つで育てたお父さんの墓前で 
 彼女を大切にすると 誓うために!
 だから 今日・・・ 行かなくてはいけないんです」

カーステレオON! しながら僕は言った
Belle Stars - Iko Iko

「心得た! 
 旧道なら まだ生きているようだ!
 その代り 少し揺れるぞ!」

Whoooooooooooon! 2Lターボが吠えた

男は 左右に振られる体を
何とか維持しながら 内ポケットから
スマートフォンを取り出した
トミーフィルフィガーの
FRANCIS CHECK SHIRTを着た カジュアルカールの女性がいた

「その女性が 未来のお嫁さんかい?」

カウンターを当てながら 
尋ねる僕に 
少し引き気味の彼が言った

「えぇ でも彼女を前にすると うまく話ができないんです・・・」

Buwooooooooo
強風と共に 
叩きつけるよな雨 
普通の車なら 音を上げるところだが 
僕とインテグラーレのチームワークなら 問題ない!
所々 土砂の堆積や 大きな水溜りがあるが 
お構いなしに 走り抜ける

助手席の男の顔が 少し青白くなっていた・・・

「カノジョ(インテグラーレ)はね 
 僕の親友であり 伴侶でもある 
 ハンドルを介して 思いが伝わってくるんだ
 因みに 君のことを
 乗せてあげようと言ったのは こいつなんだ」

僕はインテグラーレのハンドルを ポンと叩いて言った

「そうそう カノジョから 君へアドバイスがある
 ”プロポーズは しっかり相手の目を見て言うの 
 噛んだって かまわないから ” だってさ!!」

とそのとき・・・

Zureeeeeeen Kerriririri

急カーブにタイヤが唸る 
想像以上に後輪が滑り 車は一回転した 

「大丈夫かい・・・ ちょっと暴れすぎた・・・」
心配になって 僕は助手席の彼に問うた

「問題ないです あなたたちを信用しているから・・・」
2時間前に知り合ったばかりの
僕たちを そこまで信用してくれるのかい!

「気に入った!!」
感動の波が 
僕とカノジョ(インテグラーレ)の
アドレナリンを 沸騰させた

峠を越えると 
雨雲は切れて 空は明るくなってきた

「あそこです!」

彼が言った

オレンジ色の屋根の家から女性が出てきた
インテグラーレは 
彼女に向かって ウィンクライトを照らした

急ブレーキ! 
と共に男は インテグラーレを降りると 
一度だけ 僕たちに頭を下げて走っていった

「Rei 来てくれてありがとう」

春風のような 女性の声を聴きながら・・・
僕たちは 
静かに フェードアウトする
バックミラーには 抱き合う二人が見えた

「Rei君か・・・
 レインマンだな・・・ 大雨になるわけだ」

オレンジ色に染まった空に 
うっすっらと現れた虹が
インテグラーレの
フロントガラスに写りこんでいた


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