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映画と車が紡ぐ世界chapter94

ハリー・ポッターと賢者の石 フォード フォーカスRS500 2010年式
Harry Potter and the Philosopher's Stone Ford Focus RS500 2010

「今日 食事でも行かない?」
マドンナからの突然の誘いに 僕は耳を疑った

決して自分がイケてないとは 思わないが
腰まで届く 漆黒のロングヘアーに 細長い首
淑やかに 且つ整然と配列される各パーツの中で 
零れ落ちそうで グレイに輝く大きな両目は 謎めいたヒカリを放っている 
純白のワンピースに 桃色のフレアスカートが清楚な可愛らしさを更に 
増幅させるカノジョとは どう考えても不釣り合いだ 

仕事でも群を抜き 天から二物以上のものを与えられた
表舞台代表のカノジョが 目立たず単独行動に特化した裏部隊専門の僕に 
話しかけてくること自体 ありえないことだった

そんなカノジョからの誘いを断る理由と言えば 
カノジョの取り巻きからの嫌がらせぐらいだが
元来 友達などいない僕に そんな嫌がらせは 苦にもならない
少しだけ面倒だとは思ったが カノジョの瞳の魔力に捉えられ
僕は 隠れ家として利用している 
Café Bar Casablancaへカノジョを案内した

カノジョいない歴 行進中の僕に 
女性が喜ぶような場所など知るわけもなかったが
この店の空気は カノジョにうまく適合したらしい

「ふーん 君はこういうところが趣味なんだ」
瞳を KiraKiraさせる カノジョ

ハリーポッターの杖が飾られた席
ここが僕の定席 

「1980年の今日(7月31日)は ハリーポッターの誕生日なんだ」
気の利いた話なんて できないことはわかっていた
だから少しだけ ハリーに力を借りた 
そんな話題に カノジョはニコリと笑いながら言った

「貴方って 真っ白なのね」
結局  会話は それだけ・・・
ドライマティーニを飲みながら 何も言わず僕を見つめているカノジョを
僕はノンアルコールカクテルを飲みながら
店のスクリーンに映し出された 賢者の石の映像を ゆるく眺めていた  

4杯目のカクテルを空けたころ 
カノジョの瞳はスリープモードに入った 
僕は ほろ酔いのカノジョを家まで 送ることにした

Ford Focus 500RS の助手席に乗ると カノジョは突然言った
「この車 EuropeFordでしょ ハリーポッターのように 飛ばないの?」

!!
突然のMovie・・・ いや車の薀蓄に僕は驚いた
カノジョの趣味は 僕と同じなのか・・・

 「生憎 僕も コイツも 今日はシラフだから飛べないよ」
そう言いながら 
限りなく自然に振る舞い カノジョを見た

ZZZZZ・・・
助手席の住人は もう就寝していた・・・
初めて カノジョのことを しっかり見つめた 
天使のように可愛かった
そっと キスをしようと近づいて・・・    やめた・・・

車を降りるとき 
カノジョの口元は 小さくバカと言ったように見えた 

自宅に戻ると 
番犬代わりの黒猫 ハリーがよってきた(ちなみにメス)
いつもは甘い鳴き声で 
すり寄ってくる 彼女が今日は離れたところで鳴いた
カノジョの残り香に 間違いなく ハリーは嫉妬してた

しかたない・・・ 
一人ベランダに出ると
灼熱の太陽に焦がされた 真っ黒く熱い闇をまといながら
キンキンに冷えたビールを空けた 

空けた

空けた

こうして 僕の夢のような一日が幕を閉じた

翌日 二日酔いで会社に到着した僕は 
カノジョを見つけると
今までより 少しだけ精神的距離を縮めて 笑顔で挨拶をした
しかし・・・
カノジョは 氷柱のように無表情だった

理解が追い付かずフリーズした僕に 
同僚が放った言葉は 僕を押しつぶした

「お前 カノジョとカップルになったと 思ったろ!
 あれは フェイクさ! 
 王様ゲームで負けたカノジョの罰ゲームだったんだよ」

Garagara・・・・
僕の ハートが音を立てて 瓦解した 
昨日のカノジョは 偽りの姿だった・・・
ハリーポッターが 僕に魔法をかけていたのだ 
カノジョと僕は 
『エッシャーの相対性』の如く 近くにいても 
触れ合うことのゆるされない空間にいるのだ

映画とフォーカス・・・ そして ハリー
僕の側にいる仲間たちを 蔑ろにした自分を罵った・・・

一ヶ月が過ぎ 漸く僕は自分の空間を取りもどした

その日 Café Bar Casablancaに カノジョがいた
カノジョは ショートボブになっていた
ハリーポッターの杖の下
別の空間にいるカノジョが 僕に言った
「ごめんなさい・・・
 あの時 私・・・恥ずかしくて 何も言えなかった・・・
 本当は 本当は 私はあなたのことを ずっと思ってた
 だから・・・ あなたの車のことも 映画についても 勉強したのよ」

♪Ariana Grande - Baby I♪

カノジョを見ながら 僕はマスターに言った
「今日は帰るよ」

カウンターを 見つめていたカノジョは言った
「やっぱり 許してくれないわよね・・・」

店の出口で 僕は言った
「エクスペクト・パトローナム・・・!」

そっと 振り向くカノジョ 
一緒に行って いいの・・・ グレーの瞳が恐る恐る訴えている 

もう一度言った
「エクスペクト・パトローナム・・・守護者よ来たれ」と・・・
カノジョは 
ニッコリ笑って僕に飛びついた

マスターのチャーリーが 珍しく僕に声をかける
「一杯だけでも どうですか?」

僕は右手を挙げて言った
「チャーリー 今日はやめとくよ 
 酔いがさめたとき またカノジョが いなくなるのは ごめんだから」

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