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【ショートショート】         映画と車が紡ぐ世界 chapter34

マスク ~ ニッサン スカイライン R30 2000ターボRS 1983年式
The Mask ~ Nissan Skyline R30 2000 Turbo RS 1983 ~

人事異動で 会社のマドンナが
僕のチームに加わった
アース神族の女神 シフのように
艶やかな髪は ロキでなくても ちょっかいを出したくなる
彼女の廻りに 
アステロイドベルトな 
男性社員の取り巻きができるのも 無理はない

それでも 
突然称号を受けた「世界遺産」のように
賑やかになった僕のオフィスは 仕事どころではない
彼らに
マナーを諭してみるものの 
シングルヒットすら打てない
会社のお荷物的なチームリーダーの言霊には 威力が乏しい
結果として 
僕とスタッフたちは 窓際の作業台を仕事場に変えた

そんな 絵に書いたような 
窓際チームが 
起死回生 !
大型コンペを勝ち取った

「やったね!」

チームの一員でありながら
ワークにほとんど加わらなかった
マドンナが 
いち早く 右手を上げて僕の前に現れた 

!!
流れに飲み込まれ 思わずハイタッチ!

彼女の手に振れたとき 
中学生のような 淡い恋心が芽吹いた・・・
その日・・・
僕の顔には ”できるやつ” という 見えないマスクが ついた

僕を スタンリー・イプキス(James Carrey)のように
積極的な男に変貌させた マスクは
その後も
コンペの連勝記録を重ねた

上席からの誉め言葉と マドンナの笑顔が 
プレッシャーになり
僕は マスクの上に 新たなマスクをつけることになった

「彼が私のフィアンセよ!」
マドンナの呪文によって 
偽りの仮面も かぶるようになった 
ただの農家出の次男坊が
先祖代々続く 地主の跡継ぎという肩書までついた

そして 僕は本当の顔を忘れてしまった・・・

そんな 
虚構の絶頂に 身体が 壊れた

スローモーションで 
倒れる僕の脳裏には
悲鳴を上げて立ち尽くすマドンナより 
遠い席から 
駆けこんできた女性アシスタントの銀縁眼鏡が 焼き付いた・・・

2月後・・・ 
復帰した僕だったが
温めてきた仕事も マドンナの右手も 同僚に奪われていた

絶望の汗が背筋を流れ
足元に 
暗黒世界ニブルヘイムが見えた・・・

Bachiiiiiiiiiiiii!!

いきなり  
バルカン超特急に
追突されたような衝撃を背中に感じた!
驚いて振り返ると
ショートヘアの銀縁眼鏡・・・ あの女性アシスタントがいた

「男は くよくよしない!」

「するか!」

反射的に出た言葉が  
僕を暗黒世界から救った 
そして・・・ 
呪いのようにへばり付いていた 無数のマスクが すべて 落ちた

Hey Pachuco The Mask Soundtrack

マスクの無い僕だったが 
積極的なスタイルは もう僕自身になっていた
チームは 無理なく 
以前の業績を生み始めた
そんな ある日
突然 マドンナが僕の左手に絡みついてきた

ゆっくり 席を立とうとする 銀縁眼鏡のアシスタントの肩を抑えて 
僕は マドンナを見つめた

「鉄仮面」 と言う名の マスクをつけて・・・

冷たく無表情なフェイスに 耐え切れなくなった彼女は 
僕の世界から 
永遠にフェードアウトした

R30スカイライン 2000 ターボRS 1983

再び 女性アシスタントに 向きなおった僕の顔には
もう・・・ 仮面はなかった

「僕には 君が必要だ
 僕の鉄仮面の 助手席に乗ってくれないか」

考えより先に 告白が洩れた

「仮面があっても 無くても・・・ どうだっていいのよ」
飛び込むように 
カノジョは 僕にキスをした 

1983年式R30スカイライン
通称 鉄仮面であることなど 知るはずもないカノジョは
僕の すべてを 受け入れてくれた

再び・・・ 考えより先に 言葉が 飛び出した

”Smokin'”  (のってるぜ!)




  

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