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【ショートショート】         映画と車が紡ぐ世界 chapter62

未来世紀ブラジル ~ シトロエン・2CV チャールストン 1980年式 ~
Brazil ~ Citroën 2CV Charleston  1980 ~


四十七の侍が命がけで 忠義を貫いた日
僕はカノジョの家にいた

「カノジョをください!」
かっこよく切り出そうと 何度もイメージトレーニングしたはずなのに 
カノジョの両親を前にした途端
メドゥーサと目を合わせてしまったかのように 
指一つ動かすことができない
気を利かせて 
話題をつくろう カノジョの隣で
僕は 石像と化していた
時間にして
たった1000秒足らずの出来事が 
これまでの人生と 前世の人生を足した時間より
長く感じた
最後に カノジョのお父さんは 言った

「君に Yukiを任せることはできない」

aaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaan!

頭がぐわん ぐわんと揺れる
そんな僕にむかって
カノジョのお父さんは 巨大な撞木を打ち下ろした!
頭部から 無数のひびが走る
Garagaragaragaragaragara・・・

カノジョに向けて差し出した左手も むなしく崩れ落ちた

『Yuki ごめん・・・ 』・・・・・・

ハッ!!
いつの間にか ソファーで居眠りしていたようだ
昨夜見た『未来世紀ブラジル』のせいで
ティムバートンの世界に 
陥ってしまったらしい

Pin Poooon!

扉を開けると 
心配の塊になった カノジョが立っていた

「今日・・・大丈夫?」

「あぁ 君と一緒になれるなら 
 たとえ吉良上野介が相手でも いやサタンであって やってのけるさ!」

いつものように元気な僕を見て ほっとしたのか

「あら それじゃあ 私は悪魔の娘ってことね」
カノジョは いたずらっ子の様な笑顔を取り戻した

そんな カノジョの頬に 
そっとキスをした僕のポケットには 
メドゥーサの視線対策用の 小さな手鏡が入っていた

15年前の今日の出来事だ・・・ 

それは 現実のことだったのだろうか それとも・・・
カーステレオから流れる
”ブラジル”が 僕の大脳に作り出させた 創作なのだろうか
自分の記憶に自信が持てない

♪The Office Theme from the Movie Brazil by Terry Gilliam♪

ただ・・・
間違いのない事実は 今 僕は独りぼっち ということ

「Yuki・・・ 今年も来たよ」
カノジョが 一目惚れして手に入れた 僕らの車
チャールストン2CVの ヘッドライトが 露に濡れている

この岬で 僕は 君に出逢った 
景色は あの時と 変わらないのに・・・
君は 11年前の大地震で 海の住人になってしまった・・・ 

ポケットから 
手鏡を取り出して キスをした

僕も そっちに行きたいよ・・・
涙が落ちないように 僕は 上を向いた

全開にしていた キャンバストップのはるか上を 
巨大な鳥が飛んでいる・・・

鳥が 大きく羽ばたくと 厚い雲は途切れ 合間から 太陽が顔を出した
スポットライトのような光の柱が 
運転席に向かって ゆっくりと おりてくる
光は 僕の手にある鏡に反射し 助手席を照らした

!!

光の中に やさしく微笑む カノジョの姿が見えた  

「君は いつも そこに いてくれたんだね」

カノジョのために チャールストンで 
たくさんドライブしないといけない・・・ 

僕に 生きる理由ができた


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