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映画と車が紡ぐ世界chapter90

インデペンデンス・デイ アストンマーティン・シグネット 2013
Independence Day Aston Martin Cygnet 2013

7月4日・・・
相変わらず父は 背中に強力な電磁バリアを張り巡らせていた
それは”Independence Day”の宇宙船のように 
核爆弾でもビクともしない 強力なシールド

「父さん・・・」

「・・・」

メデューサの首を装備したイージスの盾のようなシールドは 
我が子の叫びも石化してしまう 
意を決して 一言・・・

「今まで ありがとう」

父の肩がピクリと反応した

半年前・・・
「父さん 僕・・・結婚しようと思う」

父の誕生日
プレゼントを渡すような気持ちで 打ち明けた
”男は 早く親元を離れた 一国の主になるべきだ”
という 父の訓示を実現するのだから
満面の笑みで喜ぶ父をイメージしていた ところが・・・

「だめだ!」

想定外の反応に
父の意識が 宇宙人に乗っ取られてしまったのではないかと思った 
いや・・・ 
親子と言えども 結婚と言う大切な話だ 
あまりに 軽薄で礼節を欠いていた
改めて 姿勢を整え もう一度父に話した

しかし・・・
「学生の分際で 
 軽々しく結婚を口にする奴と これ以上話などしたくない!」
そう締めくくると
誕生祝いもそこそこに 父は自室に籠ってしまった
その日以来 父は電磁バリアで覆われた

確かに・・・
カノジョは9歳年上のキャリアウーマン
一国の主は 当面カノジョ側であり
僕ではない・・・ でも・・・ 

「お父さんに 認めてもらうまで 待ちましょう」
夜空を見上げながら
母のように 抱きしめてくれたカノジョの両腕は震えていた

カノジョを安心させたい・・・ 本当の笑顔を取り戻したい・・・
僕は何度も 
父のシールドに挑むが 会話にさえならなかった

そして 迎えた7月4日・・・

「父さん 今まで ありがとう」 
父の返事を待たずに 僕は家を出た
父と母 そして僕・・・3人家族の笑顔の写真を残して

Batan・・・

蒸し暑い夜だというのに ドアの閉まる音は 渇いていた
1.3L直4エンジンのホットな排気音を残して 
Cygnetが 跳び立った

「『白鳥のひな=Cygnet』が いっちまったよ・・・」
IWハーパー12年を手に取る

テレビモニターに
”Independence Day”・・・
たった一人の人間の 
小さな小さな命が 巨大な宇宙船を駆逐したシーンが流れていた
 
私の使命も終わったよ・・・
息子が残した 
3人家族の写真によって 
何重にもロックしてきたはずの心のカギが開錠された・・・ 
今なら 君とも話しあえる・・・

「あの子は 貴方に似てるわ・・・
 だって あなたが 私にプロポーズしたのは 中学生だったのだから」

Kararin・・・・
グラスの中の 氷山が琥珀色の海に沈む
ロココ調の飾り棚の上で10年間伏せられていた
フォトスタンドを表にすると 元気なころの君がいた・・・

「貴方には 私がいるでしょ」

「今日のキミは ずいぶんおしゃべりだな・・・ 
 あぁ・・・ 
 今日7月4日は結婚記念日・・・
 ぼくらにとっても 独立記念日だったね」

ウィスキーと キミの力を借りて
たどたどしく スマートフォンを動かした

♪Tabidachi 旅立ち- Funky Monkey Babys~♪

父からの 着信メールをカノジョに見せた

「独立記念日に乾杯?」

きっと 「!」を入れたかったのだろう・・・
「?」で送ってきたメール文を見ながら 
泣き笑いする僕たちを
Cygnetのヘッドライトが 優しく照らしていた 


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